先端加速器推進部 
 活動報告
 
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測定器開発室(2014年12月)

KEK測定器開発室SOIプロジェクトでは、科学研究費の新学術領域での取り組みとして様々な新しい分野での応用に取り組んでいる。その一環として今年度からの新たな研究 テーマとなったのが、X線を使った材料研究である。これまでも開発室としては、中性子による素材の歪などの観測で応用研究に協力にしてきたが、今回検討したのは、X線を使 った材料の応力歪の測定である。材料に加えられた応力が、X線の回折に及ぼす効果を数 値化するのがこの測定の目的である。下図左が試料となるステンレスの金属片である。右はサンプルを測定するためのX線発生装置と散乱光を捉えるSOIセンサー2チップを配置 した装置の概要を示している。
この組み合わせで、30秒の露光を行って得られた画像が下に示されている。従来の測定方法では、単純な円環の重ね合わせとして示される回折画像が微小な結晶子それぞれに対 応するスポットとしてとらえられている のが見て取れる。こ れが高精度SOI ピク セル検出器によって初めて見ることがで きた超微細回折画像 で、SOI ピクセル検出器の大きな可能性 が示された。




測定器開発室(2014年11月)
1  KEK測定器開発室では、昨年度の国際レビューの答申 http://rd.kek.jp/images/review2013Dec.pdf を受けて、既存の研究プロジェクトの見直しと新規プロジェクトの促進を今年度から始め ている。予算に関わる経緯もあり、8月よりプロジェクト提案の募集を行い、10月中旬 までに4件のプロポーザルが提出された。
・ 軽い暗黒物質探索のための液体ヘリウムTPC の開発の提案
・MPGDの応用研究の提案
  1. 高収集レート化を目指したメモリー付データ収集電子回路基板の開発
  2. 高検出効率を目指した多孔コンバーターの開発
・高速シンチレータの開発
・高度SOI 光センサーの開発
10月23日、国際レビュー委員会より6名の参加を得て、意見交換を行った。いずれ の提案も、昨年の委員会の答申が描くこれからのKEKDTP の要件に十分なこたえを示し たとは言えず、今後を担う新規KEKDTP のプロジェクトして発足するにはまだ物足りな いとする意見が大勢であった。今年度一杯をかけて、さらに十分な検討を行うこと、その ための予備的経費のみを配分するとの結論となった。来年度早々にも、再度の提案募集と議論が行われる予定となっている。


これまでのKEKDTP 開発成果の例・MPGD の応用研究
左:製品化が計画されているMPGD 中性子イメージ検出器。
測定器開発室におけるシステム化が結実したものとなる予定である。
上:検出器上部にコンパクトに配置された信号処理系の内部。FPGA に外部メモリを配置することで、大強度中性子ビームで要求される高速データ転送を実現する。

測定器開発室(2014年10月)
1  KEK測定器開発室では、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者 会議のご賛同のもと 2011年より「測定器開発優秀修士論文賞」を設けている。これは我 が国における測定器開発という研究分野の一層の充実と裾野の拡大をめざすものとして、 関連実験分野における測定器開発に関する優秀な修士論文を表彰するものである。 (http://rd.kek.jp/award.html) その第4 回目にあたる2013年度論文賞受賞者が、全国から応募された修士論文14編の 中から選考され、さる9月20日の日本物理学会秋季大会(佐賀大学)においてその授賞式と 受賞者による記念講演が行われた。今年度の受賞者は以下の通り。 *大阪大学・豊田高士氏 「KOTO実験に用いるInner Barrel検出器の製作と宇宙線ミューオンを用いた性能評価」 *東北大学・赤澤雄也氏 「シグマ陽子散乱実験のため検出器群開発」 いずれの発表も、受賞論文と同様明解で興味深い内容で、修士課程修了直後とは思えな い堂々としたものであった。講演後の聴衆とのやり取りも一般講演とはレベルの違う質の 高いものとなり、大変充実したセッションとなったのがきわめて印象的であった。二人に は例年通り、表彰状、記念クリスタル盾と協賛企業からの副賞が贈呈された。

選考委員リスト(敬称略)
酒見泰寛(東北大学)、末包文彦(東北大学)、竹谷篤(理化学研究所)、村上哲也(京都大学)、森山茂栄(宇宙線研)、山本常夏(甲南大学)、新井康夫(副委員長)、田島治、中平武、幅淳二(委員長)(KEK)
第4 回測定器開発優秀修士論文賞:http://rd.kek.jp/ronbun/award2014.html





測定器開発室(2014年8月、9月)
1 前回のCO2冷却に関する開発研究は、先端計測開発エリアの中実験室において進められ ているが、クレーンなどのユーティリティも備えたこの実験室は低温技術を利用した開発 研究の拠点として位置づけられ、測定器開発室が2007年から取り組んできた希ガス(xenon, argon)液体Time Projection Chamber (TPC)のプロジェクトもまたここにおいて、進行中である。

よく知られているように、液体希ガスTPC は、将来の大型ニュートリノ検出器として、ある いは低バックグラウンド地下実験おける、ダブルベータ崩壊や暗黒物質探索の超高感度検出器 システム、また高分解能位置情報を有する高性能ガンマ線検出器として、素粒子の稀崩壊探索 実験や医療診断用PET カメラなどへの応用と、広い分野にわたって大きな期待がもたれる検出 器技術である。そのため基盤となる技術をKEK内に定着させるべく、これまでも開発室にお ける準備研究が進んできた。 いずれの応用も、Time Projection Chamber (TPC)として大きな体積を活用する点がポ イントとなるため以下のような基本的な開発項目があり、世界中で活発に進行中であり、 開発室においても、昨年度のレビューでのアドバイスをもとに、戦略的な取り組みを再編中である。
1) 電離電子の長いドリフト距離を確保するために、0.1ppb 以下の高いガス純度を達成 する。そのための容器内の清浄化、使用する物質の最適化、baking, 純化システムの 確立などが必要となる。これとあわせて、適切な冷凍装置システムの開発設計が重要 である。
2) 高電圧発生装置の開発。十分なドリフト電場(500V/cm)を数m に及ぶ空間に印可す るには小型加速器並みの数百kV を超える電圧が必要となるが、測定器のセンスでこ れを扱うノウハウがまだ存在しない。
3) シンチレーション光を扱う場合の紫外から真空紫外領域の光検出システムの確立。 波長変換材の研究、紫外感度のある光電子増倍管やPPD の開発。
4) 電離電子を捉える際の、増幅機構と後段のエレクトロニクスの開発。前者は液相部 から気相部へと電離電子を「引き抜」いて、その後電子雪崩増幅を利用する「2 相式」 が想定される、後者では液化ガスと同程度の低温で動作可能な特殊なチップの開発が 期待される。

図 1 紫外光用Windowless APD の試作品

図 2 液体アルゴンTPC 内のワイヤ電極


測定器開発室(2014年7月)
1 高密度に集積された高機能検出器システムが、近年素粒子実験における衝突点検出器か ら、放射光実験まで様々な局面で実用されつつあるが、比較的コンパクトな空間内に大き な発熱を伴う事が多く、その冷却は頭の痛い共通した課題である。そんな中世界的に開発 が進められているのが、2相CO2による冷却システムである。液化CO2は大きな潜熱をも ちしかも流動性が良好なため極細管による配送が可能である。また気液混合の2相状態で は、圧力で温度が確定することから、比較的単純な制御システムが実現できる可能性がある。
現状では、オランダNIKHEFとその流れを汲むCERNが、既に完成度の高いシステム の構築を進めており、Belle IIのVXDシステムでも、その適用が検討されている。そこで使 われているのは、チラーを使ったCO2の液化サイク ルの考え方である。室温近くで液化をするために必 要な高圧力の圧縮機の使用が念頭にないことがその 根本にある。
そこで、開発室のCO2プロジェクトでは、一般的 な圧縮空気を動力源とした高圧ブースターコンプレ ッサー(右図)を利用し冷凍機を持たないシステム とする事で、CO2冷却システムの新たなモデルを確 立し、将来のILCなどに向けた実用システムにつな げようとするものである。
昨年度まで、機構の高圧ガスならびに低温機器の 専門家と多くの議論を重ね、複数回の技術レビューなどで助言を頂きながら、とりわけ高 圧ガスを安全に運用するための構造やメカニズムを加えて設計・製造を行った。そして高 圧による気密試験に始まる年度末までの入念な各種試験を経て、今年度からいよいよ待望 の冷却試験運転を開始した。熱源の想定としては、1)TPC端部のエレクトロニクスなど のように室温に近い温度で運用されるもの、2)シリコン検出器など零下20℃程度での運 転が望ましいものがあり、その両方について運転条件がどのようになるかの最初の試験運 転を行った。試験運転結果の一例を下に示す。いずれの冷却条件でも、安定的な冷却を行 えることがまず実証され、高圧ブースターによるこのKEK方式が、システムとして高い可 能性を持つ事を示すことができた。今後は、機 器配置、システムパラメータなどの最適化を行 い、さらに実用的なシステムへと改良していく とともに、負荷側(測定器)における配管シス テム、流配・圧力コントロールなどについて、 現実的な方法について詰めていく事になろう。


測定器開発室(2014年6月)

1 昨年12月に行われた測定器開発室国際レビューの報告書が、名古屋大学の田島宏康教授を座長とする委員会よりこのほど正式に発表された。そのなかでは、測定器開発室が多数の国内外の共同研究者たちと進めてきた開発研究プロジェクトがもたらしてきた成果と、それにより「測定器関連技術の開発研究が基礎科学における重要な分野であるとの認識」を我が国に着実に根付かせたことを高く評価していただけた。その一方で、報告は、現行推進プロジェクトが、開発研究の初期の立ち上げを遂げた今、明確なゴールとタイムラインを持って次のフェーズに進むべきときにあるとも指摘され、まだいくつかのプロジェクトにおいてその態勢をとれていないという厳しい評価をいただいた。 すべてのプロジェクトにおいて、世界の開発シーン全体と、その中での自分たちの位置づけをきちんと把握をしたうえで、今後の開発のフォーカスをはっきりと見定めて、今後の5年間の研究計画を立案すべきであることが述べられている。 開発室では、今年度以降のプロジェクトの展開を、こうしたレビュー報告に基づき、各プロジェクトからの新規立案を求めながら再構成していく予定である。


測定器開発室(2014年5月)
1 測定器開発室における、Micro Pattern Gas Detector (MPGD)の開発は二つの方向性をもっている。一つは比較的標準的なGEM(Gas Electron Multiplier)フィルムに中性子の変換コーティングなどで機能を持たせ、高計数率の2次元読み出しエレクトロニクスと組み合わせたシステムとすることで、中性子科学などでの実用性を開拓・実証していく方向で、これまでもJ-PARCにおける中性子ビームモニター、中性子イメージング、理研などでの小型中性子源開発のモニター装置などでの利用が進んでいる。もう一方の開発研究は、従来型の銅泊ポリイミドフィルム以外の材料を使った新しいGEMフィルムの開発である。ポリイミドの代替としてテフロン化合物を用いて放電耐性を高めたフィルムがその一つであり、また銅箔を非金属の電気伝導体(PEDOT)に置き換えて、物質量を最小にとどめたフィルムの試作も進んでいる。こうした有機物伝導体ではレーザーによる穴加工が容易にできるため、エッチングをまったく必要としない新しいフォイルの製造方法を確立することができるかもしれない。右写真は、PEDOTをコーティングしたポリイミドフィルムにレーザー加工によりGEM孔を試作したものである。PEDOT被膜をレーザーの衝撃から保護することが課題となり、そのための様々な工夫が検討されている。

測定器開発室(2014年4月)

1 測定器開発室において、共同利用研究の重要性は年々高まってきている。なかでも先端 計測地区にあるクリーンルームを利用した超伝導デバイスの試作開発では、機構外の研究 グループのアクティビティが極めて高い。その中で今回は岡山大学のグループによる開発 研究を紹介する。 宇宙背景放射(CMB)観測のための超高感度検出器として測定器開発室においてスター トした超伝導検出器(SCD)プロジェクトであるが、その高い分解能を素粒子原子核実験 の量子測定に活かす試みも精力的に進められている。岡山大学のチームでは。CMB 向けに 開発が進められているKinetic Inductance Detector (KID)の技術を大口径のアレイセンサ ーに展開した、Lumped Element (LE)KID の開発を進めており、このたび1cm 平方の大面 積センサーの試作に成功した。(図1)KID 技術の活用により、7x8素子の大径超伝導セ ンサーアレイが、一本のセンシングノードによって読み出せる構成となっている。今後質 量の小さい暗黒物質探索などでこうしたセンサーが威力を発揮するものと期待されている。

図1 試作された口径1x1cm2 の超伝導LEKID アレイ

ball測定器開発室(2014年3月)
SOI グループの開発研究は、素粒子原子核・放射光科学分野のみならずさまざま分野に おいて積極的に進められつつある。今回はその中で、核融合分野における共同研究を紹介 する。 この研究は核融合科学研究所のLHD(Large Helical Device)計画のグループとともに 進められており、LHD 内で発生したプラズマショットの時間空間分布を特性X 線を測定す ることで、元素ごとに捉えようとする試みである。X 線画像はこれまで、複数のコリメータ・ 単一センサーのセットによる「多視点」観察であったが、SOI ピクセルセンサーとピンホ ールを使えば、エネルギー分解のできる高速X 線画像ムービーが実現できる。
昨年末、SOI ピクセルシステムでプラズマショットの初めて観測が行われた。プラズ マからのX 線を予想通り観測することには成功したが、残念ながら装置、コリメータ、 検出器のアラインメントが十分ではなく、プラズマの全貌を捉えるまでには至らなかっ たものの、この測定におけるSOI ピクセル検出器の可能性を示すことができた。今後ア ラインメントを整えることはもちろん、ピクセル間のエネルギー校正を行うことで、本 格的なエネルギー分解動画を取得して、元素ごとのプラズマショットのダイナミックな ふるまいを画像化ができるものと期待される。
  

測定器開発室(2014年2月)

1 開発室MPGDグループでは、様々な量子ビームによるイメージング応用を目指してMPGD(Micro Pattern Gas Detector)技術に取り組んでいるが、そこにおいて一つのキーポイントは電荷をもたない量子(X線、ガンマ線、中性子)をMPGDで検出できる荷電粒子へと変換する機構である。これまで開発を進めてきたのはGEM(Gas Electron Multiplier)フィルム自身に変換物質をコーティングして、変換された荷電粒子からの電離電子をGEM細孔へと高電場により導くとともに、実効透過効率が100%となるようガス増幅で補うというtrickyな手法で、これにより実質的には変換GEMの枚数にスケーラブルな総合変換効率が期待でき、数十%の検出効率も実現可能であるとしてきた。しかしながら現実にはコストの問題と多段に積層された変換GEM群を横切る合計電圧の高圧化が実質的な制限になりうる。
そこでMPGDグループが取り組んでいるもう一つのアプローチが、「多孔コンバータ」の手法である。その概念を右図に示す。細孔の穴径と深さがほぼ同等である変換GEMと違い、この多孔コンバータは大きく開口していわばグリッドに近い。グリッドと同様各層は単一電位であり、そのため基材はアルミのような金属で構わない。変換GEMのように層間での高い電位差(電圧)も不要であるので横切る総合電圧を低く抑えることが可能である。重要なことは、重層での非遮断開口率が十分にあることで、そのためには各層のすべての孔が正しくアラインされていることが求められる。

こうしたアイディアに基づき試作された多孔コンバータの外観を図2に示す。中性子検出器を想定して変換物質としてボロンがコーティングされている。これを実際に、計測用GEMと積層し、中性子の計測を行った結果を下図3に示す(▲および□、異なるコンバータ間電圧)。従来型であるボロンをコートした変換GEMの積層タイプ(◆)と比較して、同等とは言えないまでも70%程度の効率を示しており、今後の最適化による改善も期待される。
この手法はガンマ線イメージングのためのコンバータへも適用が可能であり、高検出効率の高精細メージングの実現も期待できる。

図 1 多孔コンバータの概念 図 2 試作された多孔コンバータ
穴径は0.8mmピッチは1.2mmである。
図3

測定器開発室(2014年1月) 

1 狭い空間に多数の高速高機能センサーを集積する検出器システムが、様々な科学の先端 的な計測において重要となってきた。LHC やBelle II の崩壊点検出器をはじめ、ILC の測 定器、さらに次世代放射光光源における測定装置などでも、こうした高集積の計測システ ムが求められている。そこでは、システムから生成される大容量のデータを高速処理する ことが技術的課題の一つであるが、もう一方で忘れてならないのが、高密度で詰め込まれ た高速エレクトロニクスが発する膨大な熱の問題である。こうした熱の除去は空冷・水冷 といった従来までの方法では、様々点で対応できなくなりつつあり、新しい冷却方法の字 開発研究が世界各地で進められている。KEK においても、Belle II,ILC などでの実用を意 識した開発研究を集約する形で開発室のプロジェクトとして2011 年より取り組みがはじめ られた。こうした高集積の熱源を効率よく冷却するシステムとして近年注目されているの が、CO2 を使った2 相冷却システムである。 

2 相式冷却システム自体は、フロン系の冷媒など においていくつかの実例があるが、CO2 を利用した 方式ではその大きな潜熱と使用温度における高い蒸 気圧により、細密な冷媒輸送が可能であり、シリコ ン基板内に冷却マイクロチャネルを形成することな ども検討されている。(図1) 

ヨーロッパでは、NIKHEF、DESY、CERN など で開発が進んでおり、そこではチラーを用いた凝縮器 と液相ポンプを組み合わせた構成によるシステムでの開発を行っている。開発室ではチラ ーのような冷凍器のない、圧縮機を活用したシステムを目指している。その構成を以下に 示す(図2)。これを元にして製作された実証機が昨年12 月までに完成(図3)、様々な安 全確認検査の後、現在機構内での高圧ガスシステムとしての安全審査が進行中である。冷 却システムの温度設定によっては高い動作圧力が想定されるため、万全の準備をすすめ近 日中のコミッショニングが予定されている。世界的にもユニークな方式のシステムである

図 1 シリコン基板内に形成する冷却マイクロチャネル 図 2 圧縮機によるCO2 冷却システムの概念 図 3 耐圧テストを行う実証機システム

測定器開発室(2013年12月)
12 月 10-11 日、開発室プロジェクトに関係する様々な分野の14 名の専門家を招いて、測定器開発室の国際レビューが行われた。開発室全体としてのレビューは2008年以来5年ぶりとなるが、2011年には初めての国際レビューが先行しているSOIプロジェクトについてフォーカスして行われており、今回はいよいよすべてのプロジェクトを国際的な尺度で評価いただこうとするものとなった。評価委員となっていただいたのは、以下の方々である。

委員

専門分野

委員

専門分野

BONDAR,  Alexander  (BINP)

液体TPC、MPGD

MURAKAMI,  Youichi  (KEK)

放射光応用

ENDO,Akira  (Delft )

MKID

OKAMURA,  Tetsuji  (TIT)

低温技術

GIBONI, Karl-Ludwig (Shanghai)

液体TPC、暗黒物質検出

SEKIMOTO,  Yutaro  (NAOJ)

超伝導デバイス

IKEDA,  Hirokazu (ISAS)

エレクトロニクス、マイクロエレクトロニクス

SHIBAMURA,  Eido (Waseda)

希ガス液体検出器

KAWAHITO, Shoji (Shizuoka)

半導体デバイス、高機能ピクセル

TAJIMA,  Hiroyasu (Nagoya)

半導体検出器   ..Chair

KOHJIRO,  Satoshi  (AIST)

超伝導デバイス

TAKETANI,  Atsushi  (RIKEN)

中性子検出器

KUBO,  Hidetoshi  (Kyoto)

MPGD、ガンマ線検出器

TURCHETTA,  Renato  (RAL)

半導体ピクセル検出器

いずれの報告・議論とも、予定時間を大幅に超過する熱を帯びたものとなり、数々の貴重なご意見・アドバイスを頂戴することができた。多くの委員からは、KEK において測定器技術の開発とその展開を図っていくことの重要性があらためて指摘された。委員会からのレポートは 2014 年初頭に先端加速器推進部長に提出される予定である。


測定器開発室(2013年11月)
1 イメージ情報を与えるピクセル検出器に速い時間情報が加わることで、様々な新しい測 定が可能となることから、開発室ではFPIX プロジェクトを物構研のメンバーを中心として 推進している。言うまでもないことだがこうした測定はイメージングデバイスとして普及 しているCCD では不可能であり、新しいタイプのピクセル検出器が必要とされる。FPIX プロジェクトでは、APD のアレイと高速ピクセルエレクトロニクスの結合により、こうし た測定が実現できるデバイスを開発している。2013年度には、開発されたプロトタイ プを用いて、こうした高速信号測定で可能となる物理計測の実証を行ってきた。そうした 計測のひとつに、放射光核共鳴小角散乱がある。ここでは放射光により励起された核から 再放出されるX 線の時間分布測定が要となる。FPIX チームはSpring8のBL09XU の高分 解能X線(14.4 keV)による57Fe のフォイル試料からの散乱光の時間分布を観測した。(図1) さらにこの試料に外部磁場(1500 Oe)を与えるとこの時間分布は図2のように変化するこ とが観測された。これは外部磁場による核外電子の配置の違いが57Fe 原子核内の励起準位 に対して影響を与えていることがはっきりと示している。かくして開発されたシステムが、 放射光による物質中の磁気的なふるまいの研究に有効な手段となりうることが実証された。

測定器開発室(2013年10月)
1 2013年度より、測定器開発室が積極的に推進するSOIピクセルプロジェクトを母体とする国内研究グループが、KEKの新井康夫氏を領域代表とする新学術領域研究(研究領域提案型)「3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開」として採択された。2年越しの挑戦が実り、サイエンスそのものではなく測定器技術の開発を真正面から取り組む本課題が、サイエンスを切り開くための重要な共通課題として新たに研究領域として認められたことは、こうした開発研究の普及と拡充に多元的に取り組んできた測定器開発室にとって大変に喜ばしい快挙である。
この新学術領域では、素粒子をはじめ、放射光科学、XFEL利用分野、X線天文学、赤外線天文学、質量分析など様々なサイエンスの課題を持つ研究者とSOIという新しい半導体技術の可能性を探るデバイスの研究者が、KEK・素核研・物構研、理研、京大、JAXA、阪大、静岡大、北大、金沢工大、筑波大、東北大、北大などから集まり、8つの計画研究のもとに、5年間集中的な開発研究をおこない、各種量子ビームによるイメージングにおける革新をもたらそうと意気込んでいる。
今月より領域のウェブページも開設され(右図、http://soipix.jp)新学術領域としての活動もいよいよ本格化した。また来年度に向けた公募研究も呼び掛けられ、生物、医学利用など新たな分野からの参入によるさらなる拡充と飛躍が期待される。

測定器開発室 (2013年9月) 

1 開発室では、プロジェクト同士の技術/リソースの相互活用を大いに推奨しているとこ ろであるが、そうした中、超電導素子を測定器に用いるSCDグループとSOI技術の開発・ 応用を進めているSOIピクセルグループの融合テーマが、昨年度より始まった。 

これは、筑波大を中心として開発中の宇宙背景ニュートリノ(CνB)由来の遠赤外光を 捉えるための超伝導検出器(STJ)をSOIチップの上に形成し、極低温で低ノイズの信号増 幅を直結するSOI上の電子回路で行おうとする画期的なものである。極低温で正常に動作し ない通常のCMOSと違い、SOIのチップは液体He温度までの動作についてすでに予備的な結果 が知られており、今回のような1K以下での利用にも期待が持たれていた。

 左の図は、STJ素子をポストプロセスするために特別に設計されたSOIチップのレイアウ トである。今回この上に、STJ素子を形成しその超伝導素子の基礎特性を測定したのが, 右図であり、大変キチンとしたジョセフソン接合素子特有のIV特性を確認することが出来 た。これは勿論世界で初めての試みとなる。

 確認すべきもう一つのポイントは、 STJ素子が動作する1K以下でのSOIチッ プの動作である。
これについても、右に示すように良好な FET特性が750mKで得られることが確認 された。これはこの種の回路の動作が確認 された最低温度である。
こうしてこのSTJ-SOIの連携デバイス は新たな測定器の領域へと一歩ずつ足を 踏み入れつつある。


測定器開発室 (2013年7月)
1 MPGD技術を用いた中性子イメージングは、測定器開発室が積極的に取り組んでいるテーマの一つである。この技術は、J-PARCのパルス中性子を利用する研究においてはとりわけ有用であるため、国内の様々な研究機関との共同開発研究が積極的に進められている。 
J-PARCにおけるパルス中性子は、通常RCSで加速された2つのバンチから生成されているため、600ナノ秒間隔の二重性を持つ特有の時間構造を有している。そこで2013年3-4月のRCS運転では、シングルバンチオペレーションが行われ、このバンチ構造の影響を直接観察する機会が与えられ、開発室のMPGDグループは共同研究を行っている北大のグループと実験を行った。 
 実験評価は、GEMを使った時分解可能な中性子イメージ検出器をMLFのNOBORUビームラインに設置、中性子飛行距離は14mであった。検出器の前には、試料としてタンタル(25 μmt), 金(0.16 mmt),銅(5 mmt)などを置いてその共鳴吸収スペクトルを測定した。一例として、観測された銅の吸収ピークの一つ(597eV)を下図に示す。青線が今回得られたスペクトルであり、比較のため、以前2バンチオペレーションでとられたスペクトルを赤線にて重ね書きしてある。グラフから明らかなように、通常の2バンチモードでは2重のピークとなっていた信号が、今回のシングルバンチ運転では、きれいな吸収曲線を描くことがあらためて確認された。この測定システムでは、シングルバンチモードによる高分解能運転の意義がいかんなく発揮できることがあらためて示され、開発関係者もその意をますます強くすることとなった。


測定器開発室 (2013年6月)

1 開発研究の高度化とともに国際交流を積極的に推進している測定器開発室において、最 も多くの海外からのコラボレータを有するのは、SOI ピクセルプロジェクトである。その ため、年一度行われる全体会議にあたるSOI collaboration meeting もしばしば海外の協力 機関のホストのもと行われている(2010 年にFNAL,2012 年はLBNL)。今回2013 年は ヨーロッパにおいて初めて、ポーランドのクラコウにて5 月6~7 日開催された。

クラコウにはSOI ピクセル検出器開発を手掛ける研究機関が二つ(the AGH University of Science and Technology Krakow とthe Henryk Niewodniczanski Institute of Nuclear Physics)あり、地元でも両者がコンソーシアムを組んでSOI による検出器技術の開発研究 にあたっており、KEK へも毎年若手の研究者を送り込んでいる。そんな両機関が今回のコ ラボレーションミーティング兼ワークショップを共同開催してくれた。会議の冒頭で、主 催者の一人であるAGH のMarek Idzik 教授から、このコンソーシアムからポーランド政府 へ提案していた研究予算が採択されたとの報告があり、大いに昂揚しての開会となった。 下の写真は、会場となったクラコウ旧市街の一角にあるPoland Academy of Science (PAS) での集合写真である。歴史を感じさせる施設の中で、全世界から集まったSOI 検出器開発 者同士の活発な議論が交わされた。

 


測定器開発室 (2013年5月)

1 通常ピクセルセンサーと言えば、優れた空間分解能は持つものの、時間については限られた情報しか与えられないことが多い。たとえば今日超高精細を売り物にするデジカメやビデオカメラなどで使われるCCDやCMOSセンサーにしても、超高速の同期シャッタを切ったり、イメージの時間情報を取り込んだりすることは得意ではない。ところが放射光実験など科学の現場では、時間情報が現象の解明に極めて重要なパラメータとなることも多い。そんなことから測定器開発室では、高速時間情報が扱えるピクセルセンサーシステムとして高速ピクセル検出器用超高速信号処理システム(FPIX)開発のプロジェクトが進められてきた。ここでは、高速センサーとしてAPDピクセルアレイが、高速信号処理回路としてBiCMOS技術を利用したASICチップとFPGAを駆使した高機能制御ブロックがシステムを構成している。2012年度からはいよいよ放射光ビームを使った実証実験がBL-14Aラインで行われ、性能評価が進行中である。

 システムの特性を如実に示すのは、時間・空間の2軸でPFリングからのX線を測定することである。時間情報としてビームのバンチ構造を、空間情報として絞り込まれたビームのプロファイルを同時に測定することで、システムの性能を評価してみたのが下図である。ハイブリッドモードと呼ばれるバンチ構造において、短い孤立バンチを1n秒以下の精度で測定できるばかりでなく、続くマルチバンチトレインも連続する2n秒間隔のバンチを同様の時間精度できちんと分離できているのがわかる。こうして当初目標であった、PFリングのバンチ弁別ができる時分解ピクセル検出器開発が達成されことが示された。


測定器開発室 (2013年4月)

1 ピクセルセンサーと言えば、イメージングを行う画像素子と考えがちであるが、実は大変 優秀な X 線のエネルギー測定器ともなりうる。素子の基本単位であるピクセルのサイズは、10ミクロン程度と極小であるためその検出器容量が小さく、エネルギー測定で性能を損ねる原因となる電気ノイズを極めて小さく抑えられる。これにより高分解能の検出器とし て X 線天文学などでの活用がされている。さらにピクセルサイズ小さいことから、重なっ て入射する放射線の影響を最小にすることができるため、こうした重畳するバックグラウ ンドの影響が極めて高い状況、たとえば開発段階の加速器システムなどで信号を同定するのに都合がよい。


図 1 SOI ピクセル検出器システム:左端中央の 長方形の枠内が 512x832 ピクセルのセンサー本体である。
 測定器開発室では、先端加速器推進部で進められてきた量子ビームプロ ジェクトにおいて、当初よりレーザーコンプトン散乱により生成される X線のモニターのための共同開発研究 を進めており、SOI 技術を応用したピ クセル検出器システム(図1)をビームラインの下流に設置して準備を行ってきた。 

 量子ビームプロジェクト関係者の大変な調整作業の結果、3月15日レーザーコンプト ン散乱によると思われる X 線の発生が確認され、SOI ピクセル検出器システムの出番とな った。検出器で観測される X 線は 28keV をピークとするものと予測されたが、残念ながら レーザーと電子ビームの衝突はまだ同期が不完全なため、X 線の発生量は多いとはいえず S/N 比は極めて低く、観測の条件は相当に厳しい。

 そうした状況で実際にレーザービームの照射のオンとオフの条件で、SOI 検出器で観測 された信号のスペクトルが次ページの図である。ここでは信号の拡がり(クラスターサイ ズ)を2ピクセル分(17✕34ミクロン)以下とする条件を課すことで、制動輻射など から発生する高エネルギーのガンマ線等の影響が大きく低減されている。先に述べた高精細ピクセル検出器の絶大な威力が発揮されたわけである。レーザーオンでのみ出現する28keV 付近のスペクトルピークは明白であり、かくして予測通りの信号が観測され、間違 いなくレーザーコンプトン散乱により発生した X 線であることが確認された。


図 2 SOI ピクセル検出器で観測された量子ビームプロジェクトにおけるレーザーコンプトン散乱からの X 線スペクトル。予測通り 28keV に明瞭なピークが確認できた。(SOI プ ロジェクト/素核研・三好敏喜氏より提供)

測定器開発室 (2013年3月) 
1 中性子を使った金属結晶子サイズの測定とそのイメージングは、様々な金属材料の加工の履歴を探る新しい手段として注目されている。電子顕微鏡などと違いサンプルを加工することなく内部情報を探ることが可能であることも大きなメリットといえる。こうした測定において開発室のMPGDグループが取り組んでいるGEM型中性子イメージ装置は大変に有用であり、北海道大学などとの共同研究が精力的に進められている。そんな研究の最近の成果として、先ごろノボシビルスクで開催されたAsian Forum for Accelerator and Detector (AFAD)における、北海道大学の木野准教授の発表が注目された。 
 木野氏のグループは、RALのISISからの中性子ビームを日本刀(備州長船)に照射して、その透過像を上記中性子イメージ装置を使って波長別画像として観測し、内部の鋼の結晶子サイズの違いをイメージ化することで、日本刀鍛造の履歴解明を試みた(左図)。写真青枠内について、透過中性子による結晶子サイズの分布をプロットしたのが下図である。刀の刃にあたるのが上、峰にあたるのが下側であるが、この分析により、刀匠により鍛えられた刃先部分がより細かい結晶子、硬さよりも強靭さが求められる峰の部分が比較的大きな結晶子サイズとなっていることが明らかとなった。このようにして、700年前の匠の技を、最新の測定器技術による分析が解明していくのは、たいそう興味深いところである。

測定器開発室 (2013年2月)
1 測定器開発室では、先進的な半導体技術であるSilicon-On-Insuator (SOI)技術を使ったSOIピクセル検出器の開発に力を注いでいる。この技術の検出器への適用は、現状KEKが主導する開発研究体制が世界で唯一のものであり、海外研究者からも大きな注目を集めている。
 そんな中で、2月1日に北京・IHEPにおいて、中国においては初めとなるSOIミニワークショップが開催された。中国の研究者によるSOIチップの試作は2010年から始まり、昨年度からはKEKの短期研究員プログラムを利用して若手研究者を招聘、チップの設計や評価について共同研究を行っており、IHEP のみならず中国科学院傘下の半導体・マイクロエレクトロニクスの研究所(微电子研究所(IME), 上海高等研究院(SARI))などからも、Multi Project Wafer (MPW) Run でのチップ試作が始まっている。これらの動きは国際化を目指す測定器開発室としては大いに歓迎すべきことであり、すでに確立しつつある欧米でのSOIピクセル技術の認知をさらに世界に広げるものとして期待される。
 ワークショップには合計29名参加がありその内訳は右のようであった。中国研究者たちのSOI技術に対する興味と期待は極めて大きく、彼らとの今後のコラボレーションに大きな期待を持つことができた。またIME、ARI、半導体研究所などデバイスの専門家も多く、SOI検出器の性能向上に関するアカデミックな情報の交換の場として双方にメリットのある共同研究が期待される。
写真 2013年2月1日に北京IHEPで行われた、SOIピクセルminiWorkshop。SOI技術の可能性について熱心な議論が続いた。

測定器開発室 (2013年1月)

1 測定器開発室では、超高感度センサーとしての高い可能性を秘めた超伝導デバイスによる放射線検出器の開発研究プロジェクト(SCD)を進めている。そもそものプロジェクトは宇宙背景輻射の測定や宇宙ニュートリノ崩壊からの遠赤外光を捉えるための超伝導トンネル接合素子(STJ)の開発からスタートしたが、さらに近年の超電導素子の進展であるmicrowave kinetic inductance detector (MKID)の研究にも積極的に取り組んでいる。その中で、岡山大学の石野グループでは、素子の超高感度を活かして、暗黒物質などの発見を目指したMKIDデバイスの開発を精力的に進めている。MKIDデバイスでは、放射線や暗黒物質による反跳で発生したフォノンの吸収により超伝導状態にある回路素子のインダクタンスが変化することを、共振周波数のシフトで検知する全く新しい原理の検出素子である。そのテストエレメントの構造を上に示す。シリコン基板上に形成された横幅20mmほどのパターンの中央に並べられた10組の検出パッド(Al 100nm厚, 0.2x0.1㎜2)がフォノンを吸収して上下につながれた共振回路(Nb 200nm厚)のインダクタンスが変化することを外周を巡るラインに導かれた高周波のスペクトル変化で検知する。

素子の試作は、先端計測実験棟にて稼働中のクリーンルーム内の薄膜装置を使って、研究グループ独自に行われており、年間100枚以上の基板が製作されている。

右に示すのは、完成した素子を読み出しの治具に装填したテスト装置 の外観である。中央に見えるのが試作されたMIKD素子である。装置は超伝導状態とするため冷凍機に組み込まれ、0.3Kまで冷却される。放射線検出器としての最初の試みは冷凍機内に同梱されたα線源によって行われた。

 




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