特性と新しいデバイスの提案

測定器開発室は、さまざまな測定を通して、MPPC デバイスの特性理解につとめてきた。これまでに、ラン ダムノイズに埋もれて分離困難であったクロストークやアフターパルスを、測定方法を工夫したり波形解析を 行うことにより、分離して理解することに成功している。今後、デバイスを改良し、さらに性能を向上させて いくためには、プロセスのレベルまで踏み込んで、内部動作を詳細に理解する必要がある。そのために、等価 回路を用いたモデル化やTCAD シミュレーションの手法を利用している。 図10 に、低温時に観測された波形変化を定量的によく再現する等価回路を示す。このモデルでは、ゲイン はデバイスの静電容量によって決定され、クエンチ抵抗の温度変化により波形変化がよく再現されている。また、シミュレーションを利用して、電子なだれ(アバランシュ)を起こすことに成功した。図11 にシミュレ ーションで得られた電子および正孔(ホール)が元になってできるアバランシュ確率の電圧依存性を示す。電子、 ホール起源のアバランシュ確率の電圧依存性は、それぞれPDE(光測定効率)およびノイズレートの電圧依存 性を再現しているのがわかる。この結果は、青色の光は表面近くで電子ホールペアを生成し、増倍層で電子が アバランシュを起こすのに対し、ランダムノイズは裏側のドリフト層で発生し、ホールがドリフトして増倍層 に到達し、アバランシュを起こしていることを示唆している。つまり、光に対しては感度が小さいドリフト層 でノイズが多く発生していることを意味している。 これらの結果を元に、次の2点の新しいデバイス構造の提案を行った。 (1)裏側のドリフト層を薄くして、ノイズの発生源を押さえてノイズを低減させる。これは中性子照射による バルク損傷を起こす領域を減らす効果もあり、耐放射線性を改善できる可能性もある。 (2)センサー部分に並列にバッファコンデンサを接続することにより、ゲインを増大させる。裏面に作成する ことで、開口率を減らさずにコンデンサを生成する。 現在、これらの提案を反映したセンサーの試作をメーカに依頼しているところである。

 


図11 シミュレーションによるアバランシュの起こる確率:
電子起源のものは PDE、ホール起源のものはノイズレートの電圧依存性をよく再現している。


図12 デバイスの内部構造: 青色光は表面付近で電子ホール対を作り、電子が増倍層に到達してアバランシュを起こす。
一方ノイズはドリフトレイヤーで発生して、ホール起源のアバランシュを起こす。


図13 新しいデバイスの提案: 背面にバッファーコンデンサを生成 し、ゲインを増大させる。