アブストラクト:
物質・材料を透過してきた中性子のエネルギースペクトルを測定すると、数meVから数十meVの領域において「ブラッグエッジ」、数eV以上の領域において「共鳴吸収ディップ」という、特徴的な透過率プロファイルを観測することができる。これらをプロファイル解析することにより、結晶構造や金属組織に関する情報、あるいは元素(核種)の種類や量、その原子ダイナミクス(温度)に関する情報を取得することができる。近年、これら物質情報を評価する新しい手法として、パルス中性子の飛行時間(TOF)分光法をベースとしたエネルギー分析型透過イメージング法が、材料科学分野を中心に注目され始めている。これは、本手法が各種物質情報を「大面積マッピング」できるユニークなものであることによる。この大面積マッピングを実現するためのハードウェアとして、中性子TOF分析型画像検出器が必要不可欠なものとなっている。
 パルス中性子を用いた物質情報可視化技術の進展に大きく貢献してきた中性子TOF分析型画像検出器として、KEK宇野グループにより開発が進められてきたGEM(Gas Electron Multiplier)型中性子画像検出器がある。この理由は、パルス中性子イメージングで必要とされる検出器性能(検出面積・空間分解能・TOF分解能・検出効率・最大計数率・安定性・S/N比など)が、いずれも高い水準にあったためである。本講演では、GEM型中性子画像検出器の特性を活かすことによって進展することのできたパルス中性子イメージングに関する研究トピックスとして、小型加速器中性子源を利用した金属組織情報イメージング技術開発[1,2]、ひずみ情報3次元可視化を目指した新概念テンソルCT法の実証[3]、J-PARCダブルバンチ特性を考慮に入れた高精度核種定量分析法の開発[4]、日本刀の結晶組織構造非破壊分析への応用[5]など、材料科学・画像工学・分析化学・考古学に関わるアクティビティを紹介する。また、今後の中性子画像検出器開発に対する期待・要望についても述べる。
[1] H. Sato, et al., Mater. Trans. 52 (2011) 1294.(第60回日本金属学会論文賞)
[2] H. Sato, et al., Nucl. Instrum. Methods A 651 (2011) 216.
[3] H. Sato, et al., Phys. Procedia (submitted).
[4] H. Hasemi, et al., Nucl. Instrum. Methods A 773 (2015) 137.
[5] K. Kino, et al., Phys. Procedia 43 (2013) 360.



担  当:宇野( shoji.uno _at_post.kek.jp)