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[2011年受賞論文] 

第1回論文賞(2010年度修士論文)

2010年度第1回測定器開発・優秀修士論文賞が決定いたしました。
受賞された三名には、心からお祝いを申しあげます。

左から山口氏、木河氏、中島氏

優秀修士論文賞

論文題目 レーザー干渉型電子ビームサイズモニタの開発研究
本 文 本文(15Mb pdf)、講演スライド
著者氏名 山口洋平氏(東京大学)
授賞理由  レーザー干渉型ビームサイズモニタ(いわゆる新竹モニター)という先端ビー ム診断技術がテーマである。この先進技術に対して、きちんと原理に立ち返り理解をしたうえで、深い洞察や新たな知見が加えられている点は秀逸である。さらにはこれまでの開発要素を纏め上げて、この精妙なシステムを実際のATFに組み上げサイズ測定をおこなった。そこで実測データによる技術の検証をした上で、様々な改良点を提案するなど、修士論文のレベルをはるかに超える内容を含んでおり論文の完成度は極めて高い。ILCなどの次世代加速器において重要なビーム診断技術の実現に向けて、本研究はその着実な一歩を刻むものとなろう。

論文題目 T2K実験新ニュートリノ検出器の開発及び製作とそれを用いたニュートリノ反応の研究
本 文 本文(3Mb pdf)、講演スライド
著者氏名 木河達也氏(京都大学) 
授賞理由  T2Kのニュートリノビームに設置する、Proton Moduleという新しい検出器を テーマとしている。近年の修士論文では、巨大なシステムへの貢献(装置の一部分の開発とかデータ解析のみなど)がテーマとなって、研究自体の自己完結性に物足りないものも散見されるが、この研究では検出器の設計から、製作、試験、建設、モンテカルロシミュレーションによる解析アルゴリズムの開発、そして最終ビームによる検証・評価まで著者が行ったものであり、極めて理想的な論文に仕上がっている。 逆にこれだけのことに限られた時間に取り組んだことに畏敬の念すら感じる。論文自体もたいへん良く書けており、全体の構成、論理展開も優れている。

審査委員特別賞

論文題目 SOI技術を用いた広帯域X線撮像分光器「XRPIX1」の評価試験と性能向上の研究
本 文 本文(11Mb pdf)、講演スライド
著者氏名 中島 真也氏(京都大学) 
授賞理由  SOI(Silicon-On-Insulator)技術を活用した新しいタイプのX線撮像装置の開発をテーマにしている。この技術のセンサーへの応用は大きな期待がもたれているものの、未だ確立しているとは言えない。論文からは研究における評価方法や考察など随所に筆者の主体性が感じられとても好感が持てた。ノイズの解析、ノイズレベル平均化手法の開発などの忍耐,強い取組みが最終的に非常に良いエネルギー分解能を達成した事で、SOIセンサーの重要な展開が見えてきたといえる。このようなパイオニア的な貢献があって初めて新しい基礎技術が確立されるとの思いから、審査委員一致で本論文を特別賞として表彰することとした。

 

震災の影響もあり出足は鈍かったものの、ふたを開けてみればいずれも優秀でレベルの高い22編の修士論文に応募いただきました。 事務局としまして、被災後の大変な状況の中、応募していただいた学生諸君や指導教官の皆様に厚くお礼を申しあげます。
また、お忙しい中、限られた期日の中で審査をしていただいた選考委員の方々には、多大な時間と大変な労力を割いていただき、厳正かつ綿密な審査をしていただきましたことを、心よりお礼を申し上げます。

受賞者の晴れ姿と受賞講演をご聴講いただきますよう下記のとおりご案内いたしますので、多数ご参集ください。

測定器開発優秀修士論文賞 幹事 吉村 浩司 

授賞式および受賞記念講演会

: 物理学会 秋季大会(於;弘前大学)

日時:2011年9月19日11:15~
場所:SA会場 19aSE9 
内容:授賞式、本人による受賞記念講演(各20分)       

問い合わせ先
〒305-0801
茨城県つくば市大穂1-1
高エネルギー加速器研究機構 測定器開発室
「測定器開発優秀修士論文賞」事務局 TEL: 029-864-6242
E-mail: F-office@ml.post.kek.jp

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2010年度  第1回測定器開発・優秀修士論文賞の選考結果

選考委員会(委員長 幅淳二)

<<選考の経過>>
1. 一次選考(5/21 ~ 6/10)
12名の選考委員を3グループにわけ、それぞれ7~8編の論文を審査し、各人の評価により順位をつけ、グループごとに上位の2編を二次審査に ノミネートした。評価項目は以下のとおり、
1) 論文の完成度、
2)背景技術の理解度、
3)開発された測定器技術の意義、
4)研究の独創性、
5)研究における本人の独創性、主体性
6) 測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
7) 総合評価(上記以外の特筆すべき点を含める)

2. 二次選考(6/15 ~ 7/8)
一次選考でノミネートされた計6編の論文を審査、各選考委員が 上位3編を選出した。


3. 最終選考   (7/11)
選考委員会を開催し、二次選考の6編の論文を審査して、委員全体で 意見交換を行った。その結果、論文の完成度、内容に優れた 2編に優秀修士論文賞、 測定器技術、先進性で評価の高かった1編に 審査委員特別賞を授与することに全会一致で決定した。

<<総評>>
今回22編の論文が対象となったが、いずれも100ページに及ぶ力作で、そ の構成が非常に優れており、修士論文としては極めて質が高いことに審査員一同 正直舌を巻いた。馴染みのない分野について大いに勉強となったという感想も、 選考委員会で聞かれたほどである。その反面、優等生的で個性が感じられないと いう感想も多く聞かれた。
今回の応募論文は大実験グループからの、サブシステムに関する開発研究が多 数を占めており、これらは長年にわたる先輩諸氏からの積み上げの上に成り立っ ているものと推察される。おかげで全体としてのまとまりが完璧すぎて、応募者 の汗と涙の部分がどこなのかを感じとれることはまれであった。研究グループ全 体の報告としては、このまとまりと平坦性は重要であろうが、修士を修了する学 生の記録としてはどうであろうか?指導教官諸先生の一考をお願いしたいところ である。
審査にあたった委員の多くからは、まだ使い物にならないようなものと格闘し た記録としての「修士論文らしい」論文にも出会いたいという声があったことを 報告して総評の結びとする。

 

<<選考委員リスト(敬称略)>>
[最終(二次)選考委員(8名)]
中畑雅行、小沢恭一郎、住吉孝行、村上哲也、田島宏康、竹下徹、新井康夫、幅淳二
[一次選考委員(12名)]
最終選考委員メンバーに加えて、杉本康博、宇野彰二、三部勉、吉村浩司