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第6回測定器開発・優秀修士論文賞(2015年)


第6回測定器開発優秀修士論文賞は、2016年4月28日に開催された最終選考委員会において
優秀論文賞2編が決定しました。受賞されたお二人には心よりお祝いを申し上げます。

  
物理学会秋季大会(宮崎大学)に於いて、2016年9月23日に
表彰式と招待記念講演会が開催されました。

受賞者には表彰状・クリスタル製の表彰盾のほか、 本賞協賛企業である
 セイコー・イージーアンドジー㈱、 林栄精器㈱から副賞としてアマゾン券が贈呈されました。

優秀修士論文賞

論文題目

時間反転対称性の破れの探索に向けたルビジウム磁力計の研究

本 文 アブストラクト(332kb)、本文(7.6Mb)、スライド(2Mb)
著者氏名 内山 愛子(東北大学)
授賞理由  最終目標とするEDM実験の背景から自身の研究「ルビジウム磁力計」への導入を丁寧に執筆してあり、開発動機と要求仕様を深く理解し、本人の意欲とアイデアをもとに開発研究を行ったことが伺える力作である。原理説明や技術解説の記述が充実している一方、実験システムやスペクトル解析手法などの開発、24時間に及ぶ長期測定を通した性能評価、またEDM測定精度を視野に入れた感度限界などの原因考察など、開発研究としての内容も充実していた。最終目標とする感度には未到達だが、高感度化への課題を明らかにできた点も評価できる。今後の進展に審査委員一同、強く期待した論文であった。

 

論文題目 KOTO実験におけるビーム外縁部を覆う中性子低感度な光子検出器の開発と性能評価
本 文

アブストラクト(397kb)、本文(6.3Mb)、スライド(13Mb)

著者氏名 篠原 智史(京都大学)
授賞理由  筆者らはKOTO実験でもちいる中性子に不感なγ線veto検出器の開発を行った。検出器の設計・製作・試験評価まで首尾一貫して主体的に行った結果をまとめている本論文は、測定器開発という意味で一つの典型的な見本となる修士論文といえる。シンプルな原理の検出器に対して、常に探索感度を視野に入れ、シミュレーションとの比較なども行いながら、はじめから最後まで感度要請との整合性を定量的に論理展開している点も高く評価した。既存技術と知見を動員して実験感度を最適化するように種々のパラメータを決定し、実機試験を行い、KOTO実験の今後に大きく貢献するものと期待される。

 今年で6回目を迎える測定器開発優秀修士論文賞であるが、今回は総数20編の応募があった。素核宇宙線以外の領域への広がりが例年に比べて少なかったのは少し寂しいところであるが、技術テーマでは例年通り広い分野にわたっており、日本の開発研究が偏りなく進められていることを示しており大変健全な状態だと安心できる。
今回も応募された論文はいずれも100ページほどに達する力作ぞろいで、審査員一同、3月から4月にかけ例年通り楽しくも苦しい2か月間であった。そうしたなかで選ばれた最優秀論文は、論文としての完成度ばかりでなく、何らかの形で書き手の顔が見えてくるものであったと総括できよう。反対に高い評価を得られなかった論文は、以下のように類型づけられる。

  1. 執筆者自身の試行錯誤や貢献が見え難い
    大きな開発チームの一員として、検出器、測定器システム、エレキ、DAQ、トリガー、シミュレーションについて、そのプロトタイプあるいは実機等について、性能測定・評価を行い、その結果が要領良くまとめられているが、本人の顔がほとんど見えてこないもの。グループとしてはまとまった「書き物」が残された価値は大きいであろうが、何やら外注された成績試験の報告書のようで、担当した人の血と汗と涙が読み取り難い。

  2. ストーリー性の弱さ
    修士課程全期間の記録のようになっていて、いろんな話題が盛り込まれているもの。研究室の方針として修士課程のまとめを求めるケースがあるのかもしれないが、論文であるからには、起承転結の一貫したストーリーでまとめてほしい。このためには、内容のつぎ込みでなく、APPENDIXをうまく使うなどして、うまくそぎ落としをすることが必要で、そうするとメインストーリーを語る上で不足な部分ももっと見えてきて、完成度が上がるものと期待される。

  3. 客観的視点の弱さ
    測定器が使われる実験の紹介はやたら念入りなのに、開発研究の対象である測定器とその技術に関するイントロが不十分と感じられるもの。少なくとも素核宇宙領域ではあるが他分野である実験研究者に通じる程度の説明が最低限必要。それには自分のやっていることが世界的にどういう位置付けにあるかを、客観的にきちんと理解できていることが求められよう。
 今日、大実験の装置では開発段階ですら長い期間を費やすので、最も基本的な要素技術の開発研究に折良く修士学生が直面できるとはかぎらないことは理解できる。しかし評価のための計測においてすら、すぐには理解できない現象(ナイーブな法則性から外れる、分布の広がりが予測より大きい、テールが広すぎるなど)の解釈にむけた試行錯誤や、計測作業の精度を高めたり再現性をあげたり、あるいは効率をあげたりと方法を改善すべき点が、当事者の学生本人によって沢山見つかり奮闘をするはずで、そうした実験屋としての積み上げを論文に記録できればと考える。学位論文は、つまずき、涙し、克服した泥臭い奮闘を学術的に記録できる数少ないチャンスである。これは通常の雑誌論文にはない醍醐味である。その為、本審査委員会では、論文としての完成度に甲乙つけ難い場合は、執筆者の努力と創意工夫が見えることを重視した選考を行った。
 今後も、さらに広い実験物理学の領域から、さまざまな技術テーマに挑戦した測定器開発の修士論文が集まることを期待する。

測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 幅淳二

(†)<<選考委員リスト(敬称略)>>
 東城順治(九大)、寄田浩平(早稲田大)、竹谷篤(理研)、味村周平(阪大)、岸本康宏(東大宇宙線研)、窪秀利(京大理)、
 内田智久、多田将、本田洋介、田島治/中村勇(幹事)、幅淳二(委員長)(KEK)