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第7回論文賞(2016年度修士論文)


第7回測定器開発優秀修士論文賞は、2017年5月2日に開催された最終選考委員会において
優秀論文賞2編が決定しました。受賞されたお二人には心よりお祝いを申し上げます。

優秀修士論文賞

論文題目

MEG II 実験陽電子タイミングカウンターの製作および較正と大強度ミュー粒子ビームによる性能評価

本 文 アブストラクト(1.2Mb) 、本文(18.3Mb)
著者氏名 中尾 光孝(東京大学)
授賞理由  レプトンフレーバー保存を破るMuonの稀崩壊を探索するMEGII実験でMuonから崩壊した陽電子のタイミングを計測する検出器の開発についての論文である。
高輝度ビームの実験下では偶発事象が最大のバックグラウンドで時間測定の精度が実験の感度に直結する。本論文は、そのタイミングカウンターの実機の製作や製作にまつわる様々な試験、較正に用いられるレーザーキャリブレーションシステムについて、性能の見積もり、ファイバーと検出器の光接続の検討、システム自体の時間精度、実機に組み込んでの時間精度の測定、環境による精度への影響の評価、製作後の実機をビームラインに置いて、レーザーによる較正のテスト、物理事象からのトラックを使っての較正の実験、およびそのシミュレーション等々非常に広範囲の研究の結果が的確かつ簡潔にまとめられている。 研究内容が多すぎて若干記述が簡素すぎるところもみられるが、全体としての論文のクオリティーは高く受賞論文にふさわしいと評価された。

 

論文題目

シグマ陽子散乱実験のためのBGO カロリメータシステムの構築

本 文 アブストラクト(1Mb) 、本文(25.9Mb)
著者氏名 池田迪彦(東北大学)
授賞理由   Σp弾性散乱の微分断面積を新しい手法を用いて高統計で決定する事を目指すJ-PARC・E40実験。本論文は、E40実験で散乱陽子のエネルギー計測を担うBGOカロリーメータシステムを完成させた開発研究である。
本論文は、40-400kHzという高計数率で安定に動作し、且つ80MeV陽子に対して3%(σ)のエネルギー分解能を達成することが求められるカロリーメータのため、読み出し系回路の設計製作から始まり、開発した読み出し系をBGO結晶と共に実機として組み上げ、陽子ビーム照射試験により最終性能を評価、要求性能の達成を示した上で本実験への準備を完了させた力作である。時定数の長いBGO信号を高計数率下で動作させるため整形増幅回路を自作したり、取得した波形データを元に製作したテンプレートを駆使した波形サーチ解析の開発など、ハードとソフトの両面にわたる開発研究は読み応えがあり、審査委員会満場一致で受賞が決まった。
 設計から試作、試験、実機製作、ビーム照射試験、解析と性能評価、と測定器開発の醍醐味を余さずに味わい尽くした、努力と力量を如実に物語る論文であった。

 第7回を数える測定器開発優秀修士論文賞、今年度も21篇の応募があった。いずれも例年通り100ページに及ぶ渾身の力作ぞろいである。募集は、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学関連のコミュニティに向けてアナウンスされており、今回の応募論文の応用分野も図1に示すように幅広い領域にまたがって、まさに測定器技術の分野横断の性格を如実にしめしている。今年度はとくに、放射線測定(環境、医療計測を含む)の分野からの論文も目立つ。研究分野としてはあまり交流のないコミュニティ間で、有用な技術・情報の交換がもたらされることは、まさに本論文賞のねらいのひとつであり素晴らしい成果が上がっているといえよう。
 開発研究の主役である技術要素は多岐にわたっているが、おおざっぱに分類をすれば図2のようにまとめられる。シンチレータにかかわるあるいはそれを活用したシステムの開発研究が目立っているのが、今年度の特長と言える。この背景にはPPD(SiPMとも称される、マルチピクセル・ガイガーモードAPD)の高性能化、大面積化の実現がもたらした、昨今の急速な普及があるものと考えられる。本論文賞の草創期には、PPDのCharacterization自体を主題とする多くの論文があったことを考えると、近年の技術の成熟が実感される。

 選考は、素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行われた。2月末の締め切り後、今年度は査読を行うに際して、以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。
1.論文の完成度                                   
2.背景技術の理解度                                       
3.開発研究の意義とその理解                                       
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述                   
5.研究における本人の独創性、主体性                                       
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志                         

 一か月かけてまず7編の候補論文に絞り込み、その後さらに3週間をかけて、全委員がこの7編について改めて熟読、採点をして最終的には5月2日に最終選考委員会が行われた。今回選出された今年度の優秀論文賞2編はその方向性は全く異なるものの、いずれもシンチレータが主役となる検出器サブシステムの構築をテーマにしている。そのため「先進性」というポイントは満点とはいえないまでも、実験から課せられる要件をきちんと理解し、その実現にむけて精力的に取り組み、論理的に攻めていく過程が克明に記録されており、実験コラボレーションのサイズが巨大すぎないこともあり、研究開発の主体性もきちんと示されていた。こうしたことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、まさに模範的な優秀論文であるといえる。
 今回は、こうした実験のサブシステムの設計・建設・調整をテーマとする着実な論文も多い中で、カーボンナノ構造とGEMを使ったX線源や世界初のサブミクロン精度ピクセルセンサー、陰イオンTPC、暗黒物質の方向検出など、斬新なアイディアや挑戦的な開発研究をテーマとして、審査員に大きな興味を抱かせる先進性の高い注目論文数編が光っていた。その数は今回多いとはいえず、また残念ながら授賞にはいたらなかったが、今後もこうした測定原理や先端要素技術にかかわる挑戦的な基礎開発研究にもさらに多くの学生が挑み、その貴重な苦闘の記録を修士論文として残してくれることを期待したい。

測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 幅淳二

(†)<<選考委員リスト(敬称略)>> 

審査委員
コミュニティ委員;味村周平(RCNP)、居波賢二(名大)、窪秀利(京大)、
         佐川宏行(宇宙線研)、溝井浩(大阪電通大)、寄田浩平(早大)
KEK所内委員(一次選考のみ);内田智久、佐波俊哉、杉本康博
事務局;中村勇、西口創、幅 淳二


図1 図2