2010年度修士論文を対象とした賞の創設より今回で第8回を数える測定器開発優秀修士論文賞に対して、2017年度分も23篇の応募があった。いずれも例年通り100ページに及ぶ渾身の力作ぞろいである。例年に倣い、まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、素粒子・原子核、宇宙分野にまんべんなく分布しており、放射線測定(環境、医療計測を含む)の分野からの論文も少なくない。本賞が広く関連分野に認知されてきたことを示しており、アナウンスいただいた高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学など関連分野の皆様の真摯なご協力の賜物と感謝をしたい。
開発研究の主役である技術要素も、例年通り多岐にわたっており、おおざっぱに分類をすれば、図2のようにまとめられ今回の応募論文の開発研究の多様性と層の厚さが見て取れる。目を引くのが(加速器関連の)ビーム機器関連の技術の論文が多く寄せられたことである。これには加速器利用実験研究室において、実験の成否を握る加速器ビームの技術発展の重要性も高く認識されていることを意味しており、研究分野の成熟を再確認することができる。
選考は、素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行われた。2月末の締め切り後、今年度は査読を行うに際して、以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。
1.論文の完成度
2.背景技術の理解度
3.開発研究の意義とその理解
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述
5.研究における本人の独創性、主体性
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
一か月かけてまず7編の候補論文に絞り込み、その後さらに3週間をかけて、全委員がこの7編について改めて熟読、採点をして最終的には5月2日に最終選考委員会が行われた。選出された今年度の優秀論文賞2編はその方向性は全く異なるものの、いずれも加速器による実験分野ではなく、放射線検出器の開発研究分野からの授賞である。応用から課せられる要件をきちんと理解し、その実現にむけて精力的に取り組み、論理的に攻めていく過程が克明に記録されており、研究開発の主体性もきちんと示されていた。こうしたことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的優秀論文であるといえる。
これらの優秀修士論文に対して、荒削りではあるものの修士課程の中で研究室が目指す実験で必要となる技術要素に正面から取り組み、その課題を自ら解決するという姿勢が審査員をうならせる論文があり、今回それに特別賞を授与することとした。
今回全体を通して感じられるのは、実験プロジェクトのために建設された測定器システムのパーツの性能検査と運用条件の最適化という方向性の研究開発が数多く寄せられたことである。これらのテーマはプロジェクトにとって極めて重要な課題であり、真正面な研究テーマであることは理解できるものの、修士課程の開発研究としては、技術要素自体の研究と本人の創意工夫が主題となる、一個の独立した研究成果もあってほしいという議論が、今回の審査員にあったことを記しておきたい。
測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 幅淳二 |