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第11回論文賞(2020年度修士論文)


第11回測定器開発優秀修士論文賞は、2021年4月26日に開催された最終選考委員会において
優秀論文賞2編が決定しました。受賞されたお二人には心よりお祝いを申し上げます。

     

 

 

 

 

 


  

優秀修士論文賞

論文題目

 T2K実験新型ニュートリノ検出器のためのシンチレータキューブ品質検査システムの開発

本 文 アブストラクト(3.28Mb)本文(139Mb)、     
著者氏名 谷 真央 (京都大学)
授賞理由   本論文は長基線ニュートリノ振動実験 T2K の前置検出器 Super FGD に用いるシンチレ ータキューブの自動検査システムの開発研究である。Super FGD では約 200 万個の 1cm 角 のシンチレータキューブを並べ、キューブの 3 方向の穴に波長変換ファイバーを検出器全 体にわたって貫通させる必要がある。全キューブの大きさと穴位置の精度の検査のため、 キューブ 1 個につき 5 秒間で行う自動検査システムを開発。キューブの全 6 面の撮影、画 像解析による測定、測定結果による選別といった工程を瞬時に行う検査システムを、設計 と部品の選定から取り組み、撮影画像品質のばらつきへの対応など解析上の細かい課題ま で解決して完成させ、10μm 程度の高い測定精度を実現した。 さらに、キューブ精度の測定結果を元に、全 200 万個のシンチレータを組み上げるため の並べ方、製造治具のデザイン、検査したキューブの分類方法も考案し、試作により実証 してみせた。 現行デザインの分析に始まり、各開発研究段階の考察が的確で、問題点を着実に洗い出 し、次々に解決しながら結論に至る流れが明快に論理立てて書かれており、完成度の高い 優れた論文である。

 

論文題目

 CMB 偏光の超精密観測に向けた電波吸収体の開発研究

本 文 アブストラクト(11.9Mb) 、本文(116Mb)、     
著者氏名 大塚 稔也 (京都大学)
授賞理由   本論文の内容は CMB 観測感度向上に向けたノイズ低減のための研究である。主要なノイ ズである迷光を観測に用いられる20 – 300 GHzの広い周波数領域で反射率1%未満にする 電波吸収体の開発が行われた。 優れた電波吸収体は電磁波の消衰係数κの大きな素材に立体構造を持たせることで作成 する。多数の材料のκを網羅的に測定することで硬化樹脂 STYCAST2850FTJ に炭素繊維 K223HE を混合したベストな材料を見出した。立体構造を 3D プリンタで作成した型で形成 し、要求性能を満たす電波吸収材を開発した。 目標達成のための開発戦略の設定も明確であり、種々の材料を組み合わせた吸収体の材 質の評価やシミュレーションを用いた立体構造の最適化が行われている。電波吸収体の検 討、試験、性能評価までを一貫して行った優れた仕事である。 目標性能である反射率 1%未満を満たしただけでなく、発泡スチロールを型に使うことで 劇的にコストを削減するアイデアの施行や、さらなる高性能化に向けた開発指針の提言な ど、要求を満たしたところで満足しない意欲を感じさせるところも高く評価できる。 開発のストーリーが明快に記述され、各段階での課題等が整理された非常に読みやすい 論文である。

 

 全体論評 

 2010 年度に修士論文を対象とした賞の創設より、 11 回を数える測定器開発優秀修士論 文賞に対して、 2020 年度分として例年より少し多めの 27 篇の応 募があった。いずれも例 年通り、100 ページに及 ぶ審査員泣かせの大作ばかりである。まず応募論文 の利用分野につ いて整理をすると(図1)、素粒 子、宇宙分野は例年通りであるが、昨年度と同様に 原子核 分野からの応募が少なくなってきている点 が気がかりである。また、例年のようにこれら 3 分野以外からの応募もあり、より広い分野にこの賞 が認知されていることは喜ばしいこと である。こ のように優秀な論文が広く多く応募されたことは、 高エネルギー物理学研究者 会議、原子核談話会、 宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理 連絡会、放射線 物理、放射光科学、中性子科学、 中間子科学など関連分野の皆様の真摯なご協力の賜 物と 感謝します。
 開発研究の主役である技術要素も、例年通り多岐にわたっており、おおざっぱに分類 をすれば、図 2 のようにまとめられ、今回も応募論文の開発研究の多様性と層の厚さが見 て取れる。ガス、半導体といった検出器そのものを題材にしたものが減ってきているのに はさみしさも感じられるが、機械学習や画像認識を取り入れた論文もあり、時代を反映したものであろう。
 選考は素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、 合計 12 名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行われた。2 月末の締め切り後、査 読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、 それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。


1.論文の完成度                                   
2.背景技術の理解度                                       
3.開発研究の意義とその理解                                       
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述                   
5.研究における本人の独創性、主体性                                       
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志                         

  1ヶ月かけてまず 6 篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約 1 ヶ月かけて、全委員 がこの 6 篇について改めて熟読、採点をして、最終的には 4 月26日に最終選考委員会が 行われ、優秀論文賞として 2 篇が選出された。1篇は、ニュートリノ検出用の多量のシン チレーションキューブを自動検査するシステムの開発で、もう1篇は、CMB 望遠鏡におい て、視線方向外から来る電波を除くための吸収材の開発研究である。いずれも、従来の測 定器開発とは違ったものであるが、著者自身が主体的に研究開発に取り組み、結果まで導 いた過程が生き生きと記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切で あり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価 項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であるといえる。
 例年のことであるが、応募された修士論文は質の高いものが多く、残念ながら賞から 漏れた論文にも優秀なものが多く、その差は大きなものでなかったといえる。
 

測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 宇野彰二

(†)<<選考委員リスト(敬称略)>> 

†審査委員  
コミュニティ委員:大田晋輔(東京大学)、久世正弘(東京工業大学)、 
         佐久間史典(理研)、田村忠久(神奈川大学)、
         常定芳基(大阪市立大学)、南條創(大阪大学)   
KEK 所内委員:岸下徹一、齋藤究、野村正
事務局:原康二、川崎真介、宇野彰二