全体論評
2010年度に修士論文を対象とした賞の創設より、11回を数える測定器開発優秀修士論文賞に対して、2020年度分として例年より少し多めの 27篇の応募があった。いずれも例年通り、100ページに及ぶ審査員泣かせの大作ばかりである。まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、素粒子、宇宙分野は例年通りであるが、昨年度と同様に原子核分野からの応募が少なくなってきている点が気がかりである。また、例年のようにこれら3分野以外からの応募もあり、より広い分野にこの賞が認知されていることは喜ばしいことである。このように優秀な論文が広く多く応募されたことは、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学、中間子科学など関連分野の皆様の真摯なご協力の賜物と感謝します。開発研究の主役である技術要素も、例年通り多岐にわたっており、おおざっぱに分類をすれば、図2のようにまとめられ、今回も応募論文の開発研究の多様性と層の厚さが見て取れる。ガス、半導体といった検出器そのものを題材にしたものが減ってきているのにはさみしさも感じられるが、機械学習や画像認識を取り入れた論文もあり、時代を反映したものであろう。 選考は素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行われた。2月末の締め切り後、査読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。
1.論文の完成度
2.背景技術の理解度
3.開発研究の意義とその理解
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述
5.研究における本人の独創性、主体性
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
1ヶ月かけてまず6篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約1ヶ月かけて、全委員がこの6篇について改めて熟読、採点をして、最終的には 4 月26日に最終選考委員会が行われ、優秀論文賞として2篇が選出された。1篇は、ニュートリノ検出用の多量のシンチレーションキューブを自動検査するシステムの開発で、もう1篇は、CMB望遠鏡において、視線方向外から来る電波を除くための吸収材の開発研究である。いずれも、従来の測定器開発とは違ったものであるが、著者自身が主体的に研究開発に取り組み、結果まで導いた過程が生き生きと記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切であり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であるといえる。 例年のことであるが、応募された修士論文は質の高いものが多く、残念ながら賞から漏れた論文にも優秀なものが多く、その差は大きなものでなかったといえる。
測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 宇野彰二 |