全体論評
2010年度に修士論文を対象とした賞の創設をしてから12回を数える測定器開発優秀修士論文賞に対して、2021年度分としてすこし少な目でありながら、いずれも素晴らしい20篇の応募があった。まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、宇宙分野の割合が大きくなっている点が目を引く。原子核分野からの応募が少ない傾向は継続されていて、3分野以外からの応募が加速器の1篇と少し寂しい気がする。しかしながら、多くの優秀な論文が応募されたのは、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学、中間子科学など関連分野の皆様のご協力に感謝すると同時に、来年度に向けて、一層、浸透を図る努力をして行きたい。 開発研究の主役である技術要素も、図2に示すように例年通り多岐にわたっている。少し細かく分類したが、半導体、ガス、光センサーが約半分を占めているものの以前ほどエレキ・DAQも多くなく、宇宙分野に関連した技術や機械学習に関する論文もあり、一層、多様性が増した感がある。 選考は素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行った。1度の延長を含めて3月初めの締め切り後、査読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。
1.論文の完成度
2.背景技術の理解度
3.開発研究の意義とその理解
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述
5.研究における本人の独創性、主体性
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志
1ヶ月かけてまず7篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約1ヶ月かけて、全委員がこの7篇について改めて熟読、採点をして、最終的には4月27日に選考委員会が行われ、優秀論文賞として2篇が選出された。1篇はCMB望遠鏡に利用する反射防止膜の開発と性能評価に関する論文で、もう1篇は、超小型衛星に搭載するガスX線検出器の開発と性能評価に関する論文である。どちらも宇宙関連分野となり、もちろん審査の過程で考慮されたわけではないが、利用分野の割合が多くなっていることと符合する形となった。内容は、両篇とも著者自身が主体的に研究開発に取り組み、結果まで導いた過程が生き生きと記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切であり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であると言える。 例年のことであるが、残念ながら賞から漏れた論文にも優秀なものが多く、その差は大きなものでなかったと言える。
測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 宇野彰二 |