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第12回論文賞(2021年度修士論文)


第12回測定器開発優秀修士論文賞は、2022年4月27日に開催された最終選考委員会において
優秀論文賞2編が決定しました。受賞されたお二人には心よりお祝いを申し上げます。


物理学会2022年秋季大会(岡山理科大学)に於いて、
表彰式と招待記念講演会が開催されます。

優秀修士論文賞

論文題目

 CMB偏光観測に用いる反射防止膜の開発

本 文 アブストラクト(864kb)本文(38.9Mb)、     
著者氏名 坂栗 佳奈 (東京大学)    
授賞理由   本論文は宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) のBモード偏光パターン観測にむけた望遠鏡に利用する反射防止膜の開発と性能評価を記述したものである。90 GHzおよび150 GHz周辺のCMB観測周波数帯において反射率3%以下を目標とした開発の過程について、反射膜の原理説明、光学シミュレーション、作製と測定について丁寧に記述された優れた論文である。また、単純な作製と評価にとどまらず、設計上の膜厚と光学的に見える厚みの違いについても調べられており、同様の技術を用いた将来の開発に対する技術的知見を残したことも評価できる。実験時には低温環境にさらされる反射防止膜の、低温における性能評価について著者の試行錯誤がよく伺える。CMB観測用の望遠鏡に利用される光学素子に対する反射防止膜の製造において、業界標準と呼べるような手法が無い中で目標反射率を満たすものを開発したことが評価された。反射防止膜の原理から作製・評価まで一貫してよく記述されたまとまりのよい論文であり、測定器開発の優秀論文賞に値する。

 

論文題目

 超小型X 線衛星 NinjaSat に搭載するガスX 線検出器の開発と性能評価

本 文 アブストラクト(3.18Mb) 、本文(27.7Mb)、     
著者氏名 武田朋志 (東京理科大学) 
授賞理由

 本論文は超小型衛星に搭載するガスX線検出器の開発と性能評価についてまとめたものである。設計から始まり、その開発過程、性能評価、フライトモデル試作機の完成までが詳細に記述された優れた論文である。特にチェンバーに封入するガスの選定では、十分な検出効率を持ちながら高いゲインを持つXe/Ar/DME(75%/24%/1%)の混合比を見出し、X線検出器として初めて用いることに成功した。これは受賞者が製作した検出器のみならず、他のガス放射線検出器でも利用可能な優れた成果である。超小型衛星に搭載するには大きさや重量だけでなく、低電力化や長期間の安定運用等多くの機械的な要求に加え、打ち上げまでの時間的制約もある。その中でチェンバーの設計から上述の封入ガス及び電場の最適化、用いられるGEMの選定からその評価まで、必要十分な試験によって要求性能を満たすフライトモデル試作機を完成させたことは高く評価された。明確な目的設定から結果・考察・結論にいたる道筋が丁寧に記述され、著者が高い理解度の上で主体的に研究を進めたことが伺える優れた論文である。

 

 全体論評 

2010年度に修士論文を対象とした賞の創設をしてから12回を数える測定器開発優秀修士論文賞に対して、2021年度分としてすこし少な目でありながら、いずれも素晴らしい20篇の応募があった。まず応募論文の利用分野について整理をすると(図1)、宇宙分野の割合が大きくなっている点が目を引く。原子核分野からの応募が少ない傾向は継続されていて、3分野以外からの応募が加速器の1篇と少し寂しい気がする。しかしながら、多くの優秀な論文が応募されたのは、高エネルギー物理学研究者会議、原子核談話会、宇宙線研究者会議をはじめ、高エネルギー宇宙物理連絡会、放射線物理、放射光科学、中性子科学、中間子科学など関連分野の皆様のご協力に感謝すると同時に、来年度に向けて、一層、浸透を図る努力をして行きたい。 開発研究の主役である技術要素も、図2に示すように例年通り多岐にわたっている。少し細かく分類したが、半導体、ガス、光センサーが約半分を占めているものの以前ほどエレキ・DAQも多くなく、宇宙分野に関連した技術や機械学習に関する論文もあり、一層、多様性が増した感がある。 選考は素粒子、原子核、宇宙線各分野のコミュニティより推薦をうけた委員を含む、合計12名の選考委員(†)により、例年通り2段階で行った。1度の延長を含めて3月初めの締め切り後、査読を行うに際して、例年通り以下のような評価項目を設定することを審査員一同で確認し、それぞれの項目について採点、集計することで選考審議の資料とすることとした。


1.論文の完成度                                   
2.背景技術の理解度                                       
3.開発研究の意義とその理解                                       
4.研究の独創性、先進性(テーマ、手法)とその的確な記述                   
5.研究における本人の独創性、主体性                                       
6.測定器開発にかける熱意、最後までやりとげる意志                         

  1ヶ月かけてまず7篇の候補論文に絞り込み、その後さらに約1ヶ月かけて、全委員がこの7篇について改めて熟読、採点をして、最終的には4月27日に選考委員会が行われ、優秀論文賞として2篇が選出された。1篇はCMB望遠鏡に利用する反射防止膜の開発と性能評価に関する論文で、もう1篇は、超小型衛星に搭載するガスX線検出器の開発と性能評価に関する論文である。どちらも宇宙関連分野となり、もちろん審査の過程で考慮されたわけではないが、利用分野の割合が多くなっていることと符合する形となった。内容は、両篇とも著者自身が主体的に研究開発に取り組み、結果まで導いた過程が生き生きと記述されている。また、研究開発の意義や背景技術の記載も適切であり、論文としての完成度が高いものである。これらのことから、審査員一同、上記評価項目のいずれについても高い評点を与えたもので、典型的な優秀論文であると言える。 例年のことであるが、残念ながら賞から漏れた論文にも優秀なものが多く、その差は大きなものでなかったと言える。  

測定器開発優秀修士論文賞 選考委員長 宇野彰二

(†)<<選考委員リスト(敬称略)>> 

†審査委員  
コミュニティ委員:大田晋輔(大阪大学)、久世正弘(東京工業大学)、 
         佐久間史典(理研)、田村忠久(神奈川大学)、
         身内賢太朗(神戸大学)、吉村浩司(岡山大学)   
KEK 所内委員:岸下徹一、齋藤究、野村正
事務局:川崎真介、本多良太郎、宇野彰二