先端加速器推進部 
 活動報告
 
[最新の活動報告] [2014-2013] [2012-2011] [2010-2009]
 

測定器開発室 (2012年12月)
1 測定器開発室では、先進的な半導体技術であるSilicon-On-Insuator (SOI)技術を使ったSOIピクセル検出器の開発に力を注いでいる。この技術では、厚いシリコン基盤上ににシリコン酸化膜で絶縁された薄いシリコン層を持つSOI基盤を使うことで、高速性、省電力性、耐放射線性など様々な高機能を実現するものである。このたび開発グループでは、世界に先駆けてこのSOI構造を二重化した「ダブルSOI」による素子の試作に成功して、その特性の評価を始めた。「ダブルSOI」の断面形状を図1に示す。
図 1 試作されたダブルSOIの断面形状写真。センサーとして機能するバルクシリコンの基盤(Sub)の上に酸化膜層(BOX1)、中間シリコン層(Middle -SOI)、さらに酸化膜(BOX2)そしてLSI回路を構成するシリコン層(Top-SOI)が形成されているのがわかる。右下のスケールは0.3ミクロンを示す。
この技術を使った素子の特性評価はまだ始まったばかりであるが、中間シリコン層の電位をコントロールすることで可能となる以下のような特性がすでに確認されつつある。

 1) 中間シリコン層の電気的遮蔽による、バックゲート効果の抑制。これまでも埋め 込み型P ウェル(Buried P Well, BPW)の手法によって通常SOI 構造でも実現 できることが示されているが、今回「ダブルSOI」構造においても同様な抑制が 可能であることが示された。(図2)これによりセンサー構造の自由度が高まり、 さらに多様な設計が可能になる。

2) 中間シリコン層の電位制御による、耐放射線性の向上。放射線照射により発生す る蓄積電荷がもたらすいわゆる放射線損傷をこの中間層の電位制御により補償 することで、放射線照射に対してもSOI 素子の高い機能を維持できる。

今後、さらに試作チップの評価作業を進め、この新技術の確立とその可能性について更な る開発研究を行い、SOI ピクセルの高機能化が一層展開されていくものと期待される。 図 2 中間シリコン層によるバックゲート抑制効果。中間シリコン層の電位を制御しない状 態(a)では、バルク基盤に与えるバイアス電圧(バックゲート電位、Vback)を変化させ ると上層シリコン上に形成されたトランジスタの特性が変化する。中間シリコン層をグラ ンド電位とすれば(b)この特性変化は完全に抑制され正しい機能を維持する。


図 1 試作されたダブルSOIの断面形状写真。センサーとして機能するバルクシリコンの基盤(Sub)の上に酸化膜層(BOX1)、中間シリコン層(Middle -SOI)、さらに酸化膜(BOX2)そしてLSI回路を構成するシリコン層(Top-SOI)が形成されているのがわかる。右下のスケールは0.3ミクロンを示す。


測定器開発室 (2012年 11月)

測定器開発室・フォトンセンサーグループでは、光検出器開発で有用なツールとなる可変波長スポット光レーザーシステムを開発しその性能・利便性の向上を行い、共同利用にも供している。このようなシステムにより、光センサーの感度のマッピング(位置依存性)を波長の関数として測定することができる。異なる波長の光はそれぞれ吸収長で決まる深さまで到達するため、いわばセンサーの深さ方向についての情報を与えることとなり、このシステムは、光センサー評価の3次元マッピングを行うことも可能とする。これまで問題となってきたレーザーパワーの不安定性の補償のため、パワーメータを半透鏡の背後に設置し、効率的な計測のため試料と参照用光電子増倍管の入れ替えの遠隔操作化などの改造を行い、完成度の高いシステムが実現した。

右図はこのシステムのスポット光(~1ミクロン)をPPD(Pixelated Photon Detector; SiPM, GAPD, MPPCなどと呼ばれる)の単位ピクセルの中央に照射、その量子効率の絶対値(PDE)を、波長ごとに測定したものである。絶対値は量子効率の知れた参照光電子増倍管との比較で産出された。色の違いMPPCへの印加電圧の違いを示している。
こういった測定は、(一部の限られた波長を除き)これまで連続光による光電流としてしか測定されておらず、MPPCに特有のアフターパルスやクロストークによる過大評価を除くことができなかった。今回の測定はシングルフォトンレベルの微弱パルス光を有感領域の中心に照射するため、こうした過大評価を完全に取り除いているばかりか、MPPCのピクセル配置に依存する開口率とも独立な有感領域そのものの量子効率を評価したことになる。今後こうした測定を積み重ねることで、センサー性能のより原理的な理解とその構造の最適化に貢献できるものと期待される。

 

図 1 マイクロスポットパルスレーザーで測定されたPPD素子のPDEの入射光波長依存性。550nm近傍の構造はARコーティングによるものと考えられる



測定器開発室 (2012年 10月)
Pixel型検出器は、様々な形態で開発室が力を注いでいる放射線計測器技術である。SOIピクセルをはじめとして、高速動作を目指したFpix、多機能を小さいピクセルの中に詰め込んだQpix、そしてピクセルアレイでフォトンカウンティングを実現する光センサーPPDなどいくつかのプロジェクトにこのピクセル技術が活用されている。これをテーマとする国際会議(PIXEL2012)が9月3日から7日にかけて、猪苗代湖を見下ろすリステル猪苗代で、KEK・理研のサポートのもと開催された(組織委員長:素核研・海野氏)。2000年の発足以来6回目となるこの会議では、高エネルギー物理学のみならず、X線を扱う放射光実験などの諸分野も含め合計118名(うち外国人67名)という多数の参加があり、世界におけるこの技術の大きな注目度が印象付けられた。今回、会場としてこの場所が選ばれたのは、この地域が何の不安もない場所であることを科学者のコミュニティがアピールすることで、復興に貢献したいという組織委員会の願いもあったとのことである。
図 1 猪苗代湖をバックに集合写真

先に述べたように、測定器開発室からは、素核研・新井氏による総合講演を皮切りに、SOIコラボレーションをはじめ、内外から14のオーラル・ポスターの講演があり、崩壊点検出器、放射光X線検出器などへの応用に向けた多くの成果が発表された。その中のいくつかを

ここに紹介すると、素核研の三好氏から、ピクセルサイズの最小化を目指した最新開発チップによって、線幅8ミクロンのX線画像を解像できたことの報告があり、注目を集めた(図1)。

 


図1 マイクロX線チャートを使った解像度評価。線幅8ミクロンのスリット(右から2番目のグループ)が分解できている。

またセンサーの大型化を実現する開発として、理研・初井氏から、理研における革新的なセンサースティチングによる大面積検出器の試作とそれを使った、大型X線透視画像の発表があり、大型化の夢が今や現実のものとなりつつあることを印象付けた。(図2)


図 2 3枚のセンサーをスティッチング技術で接合し、大面積化したSOIセンサーによる
ボールペンのX線透過画像。30x60ミリの大口径が実現できている。

また、物構研の岸本氏からは、Fpix(2012年9月開発室報告を参照)の開発状況、ビームテストによる評価試験、実チップによるよる放射光を使った初めての小角散乱画像などが紹介された。 なお会議のスライドなどは、https://indico.cern.ch/conferenceDisplay.py?ovw=True&confId=137337より参照が可能である。

測定器開発室 (2012年 9月)
 
測定器開発室では、放射光実験などで重要となる時間分解測定を高速・高計数率で行える、ピクセル検出器システムの開発(FPIX)をプロジェクトの一つとしてサポートしている。そこで試作された64チャネルのプロトタイプについて、PF・BL14Aからの8keV・X線による評価作業が進んでいる。このシステムでは、64チャネルのAPDリニアアレイとBiCMOSプロセスで作られ高速動作を得意とするASICチップ16個が組み合わされたもので、システムの概念の有効性を実証するのに必要な条件がそろっている。

 右図はトリガーによる同期計測モードにより、コリメートされていないビームに対して、APDリニアアレイを垂直にスキャンしてその2mm程度のプロファイルを測定したものであるが、ビーム中心付近での計数率は毎秒107を超えており、10nsecのパルス分離というピクセルセンサーとしては類を見ない性能が確かめられた。これを使えばCCDのような積分型イメージセンサーでは不可能な広大なダイナミックレンジをもつデバイスを実現できることが示されたことになる。

 もう一つの動作モードである時系列測定では、ビームの空間プロファイルと同時に時間プロファイルを高分解能で測定することを目指す。次図は時間プロファイルとしてPFリングのバンチ構造をこのシステムで測定した結果である。リングはマルチバンチ・モードで運転されており、126nsec長の4つのバンチトレインが30nsecのギャップで区切られた時間構造をもつ。Channelと記されたのは空間情報であるピクセルのアドレス、Timeと記されたのは、各ピクセルが独立に測定した時間情報(タイムスタンプ)を示しており、ビームの横拡がりとバンチトレイン構造がきちんと記録されているのが確認できる。

 こうして示された大きなポテンシャルから、放射光実験の測定装置としてばかりでなく、加速器のモニター機器としての応用の可能性なども考えられ、たとえばSuperKEKBにおけるbeamstrahlung monitorへの応用なども検討され始めた。




測定器開発室 (2012年 7月)  

測定器開発室では素粒子実験から派生した技術の応用として、Micro Pattern Gas Detector(MPGD)による中性子検出器システムの開発についても物構研・北大などに協力して進めている。2次元のイメージ検出器でありながら高い時間測定の能力を備えているのが特長であるが、J-PARCのような大強度の中性子源における装置としては高い計数能力も同時に要求される。そのため、これまで前置ASIC、信号処理FPGA、データ収集ネットワークなどでさまざまな開発・改良が加えられてきた。このたび5月31日と6月1日の二日間、J-PARC・BL-10において計数能力に関する試験を行い、 これまで目標としてきた1MHzを超える1.6MHzの計数率を実際の中性子ビームにて達成することができた。(上図)。これによりJ-PARCの高強度を活かせる中性子イメージ装置として、さらに広く利用できることがあらためて示された。

今回のビームテストでは、この装置の中性子飛行時間測定の広いダイナミックレンジと高い時間分解能も合わせて確認するため、中性子の核共鳴吸収のデータも収集しその性能を評価した。次ページ図はこの装置によってとられた吸収曲線である。横軸は中性子の飛行時間より換算されたそのエネルギーであらわされているが、10ナノ秒の精度による200マイクロ秒にわたる飛行時間測定により10eVから100keVの4ケタのエネルギーレンジで中性子の共鳴吸収測定が同時かつ高分解能で行えていることが示されている。

この広い測定エネルギーレンジを利用すれば、きわめて多様な物質についての共鳴吸収をつかったまさに多彩な中性子イメージングが可能となり、様々な応用が可能となるものと期待される。


測定器開発室 (2012年 6月)

開発室の基幹プロジェクトであるSOI センサー開発では、実用センサーへ向けた着 実なステップを進んでいるが、昨年度にはこれまでで最大のチップサイズのINTPIX5を試作し、このほどその初期の性能評価についての結果が出た。

 INTPIX5はピクセルサイズを12ミクロンと従来型(INTPIX4)の17ミクロン よりさらに微細化しながらこれを 1408x896= 125 万画素のアレイとして、 16.896x10.752mm2 の有効径をもつ大型イメージセンサーとなった。これは主流になりつつ あるデジタル一眼レフのフォーサーズと呼ばれるセンサーにほぼ匹敵するサイズである。 このセンサーを使って撮られたマスク画像を示す(右上図)。文字などが一段と平滑に表現 されていることがすぐに見てとれる。実際に、評価用のマスクを使ってX 線測定を行なっ てみると既に従来型X線検出器より高精細であったINTPIX4 をも凌駕する性能が確認でき た。(右中図)

 SOI センサーに期待される数ある特長の一つに、高性能の電子回路をセンサー上にIC として実現できることがあげられる。実際比較的単純な増幅器や比較器のような回路は これまでも実装され、周辺回路としてその動作が利 用されてきた。今回、DPIX と名付けられた試作チ ップにおいては、電子回路としては格段に複雑にな るアナログ/デジタル変換器(ADC)が初めて組 み込まれた。このチップは短期外国人研究者として 開発室に滞在したポーランドのPiotr Kapusta 氏 の評価により、その良好な動作が確認された(右下図)。 こうして期待通り高性能な電子回路もセンサー上 に搭載できるめどが立った。

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測定器開発室 (2012年 5月) 

 測定器開発室のうちでも野心的な新奇技術プロジェクトといえるのは、超電導素子を使った超高感度センサーの開発であろう。現在取り組んでいるのは、Superconducting Tunneling Junction(STJ)とMicrowave Kinetic Inductance Detector (MIKD)で、いずれも宇宙背景放射や宇宙からのニュートリノ崩壊に由来するフォトンなど通常の検出器では測定不能な低エネルギーの量子を捉える超高感度センサーとなる素子である。

これらの素子は、当然ながら市販はおろか企業においての開発もほとんど行われていないため、超電導薄膜技術を用いて自ら製造・開発を行う必要がある。こうした開発を可能とするため、開発室では、2008年本格的なクリ-ンルームを機構のサポートを得て開設して関連技術の構築を図ってきた。(右図)

素子作成のプロセスの改良、アライナーの改善による分解能向上、そして測定システムの改善などにより、STJ の製造では、右図に示すように世界トップレベルの低リーク電流の素子を製造・評価できるところまで到達した。ここで培った微細加工・薄膜技術は下に述べるMKIDsなどの素子の開発にも極めて有効となる。開発されたSTJ は高感度のフォノンセンサーともなるので、適当な標的と組み合わせることにより、暗黒物質などの測定器が実現できることから、そうした方向の研究も岡山大のコラボレータによりすすめられている。

CMBカメラ を目指すグループは超電導薄膜技術を利用したMKIDsの開発に力を入れている。これは超電導マイクロ波共振回路の共振周波数が量子の入射によりシフトすることを利用して検出しようというもので、読み出しの多重化多重化が実現できることから、進展が著しい技術である。右図はSCDグループで試作開発中の多色多重のMKIDs検出器の構造を示している。

測定器開発室のクリーンルームは、KEK 素核研、物構研をはじめ総研大、筑波大、岡山大、 東北大、東京理科大、佐賀大、高麗大などの研究者・大学院生により共同利用されており、その利用者数も年々増加しえいる。クリーンルーム内のアクティビティを示す一つの指標として、たとえば SCD グループにおける試作研究では昨年度一年で、次表に示す枚数の微細加工基板が製作された。

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測定器開発室 (2012年 4月)
1 2012年3月14-16日の3日間、SOI コラボレーションミーティングがアメリカ Lawrence Berkeley National Laboratory(LBNL)にて行われた。国際化を推進している測 定器開発室の中でも、SOI プロジェクトは日米協力事業また Multi Project Wafer run など を通じて、海外研究者とのコラボレーションが最も進んでおり、今回のミーティングにも 米国の LBNL はもちろん FNAL や UC Santa Cruz、そしてヨーロッパからはイタリア INFN-Padova、ベルギーから Universite catholiique de Louvain、TV 会議参加のポーラ ンド IFJ、アジアからは中国 IHEP の研究者が参加して、日本からの研究者(KEK、理研、 京大、東北大、Lapis semiconductor、A-R-Tec Co.)を合わせた総勢30人の国際ミーティ ングとなった。さらに今回韓国 PAL の XFEL プロジェクトからも4名が大挙してオブザー バ参加して、SOI センサー開発についての認知とその関心の世界的な高まりを改めて確認 することとなった。

 会議の冒頭に、コラボレー ションのリーダーで SOI セン サー開発を主導する新井康夫 教授が、この一年の各地での 開発成果の総括を行い、放射 光科学、天文学、あるいは工 業検査などに向けた X 線検出 器用途、ILC をはじめとする素粒子・原子核実験向けのバ ーテックス検出器用途など 多くの分野において、その実用化がいよいよ視野に入ってきたことがしめされた。その後各分野で応用を目指すコラボレータから、それぞれの用 途に向けた試作器の開発・評価状況が報告され、エネルギー分解能、イメージ装置として の解像度、位置検出精度、薄型化、大面積化などに大きな進展があった。会議の詳細は、 http://rd.kek.jp/project/soi/soiws12/index.html からアクセスが可能である.

測定器開発室 (2012年 3月)
1 開発室のPhoton Sensor グループでは、 光検出器開発コミュニティ〔特にPPD: Pixelated Photon Detector について〕の 展開にも精力を傾けてきた。その一環とし て、共同利用を視野に入れた可変波長スポ ット光源装置の整備や標準化された多チ ャンネルPPD 読み出しシステムの開発な どを行なってきた。後者においては、TYL 事業を通じてフランスIN2P3 のグループ が開発したASIC チップを活用して〔右図〕、汎用なシステムが実現しつつある。
 開発コミュニテイの発展と一層の情報交流を促すため、研究会などの開催を通じた活動 にも力を注いでおり、年一回の国内研究会と隔年での国際ワークショップを定期的に主催 している。この国際ワークショップ(International Workshop on New Photon-Detectors) は、2007 年第一回を神戸大学、2009 年第二回を信州大学で開催、いまや世界のPPD の開 発・応用を目指す研究者に とっては最重要な会議とし て認知されてきており、今 回も国外からの強い誘致も あり、第3回2012 年は6 月13-15 日にフランス・オ ルセーで開催されることと なった。〔左〕 詳細は、 http://photodet2012.lal.in2p3.fr/ を参照のこと。日本からも多くの参加者を期待している

測定器開発室 (2012年 2月)
2012年2月6日から4日間、AFAD(Asian Forum for Accelerator and Detector) 及びKEK-India コラボレーションを通じて、インドで 測定器開発に携わる多くの研究者と接する機会を得た。 彼の地においてもBelle やLHC 実験などへの参加を通 じて新しい測定器技術に接したことをきっかけとして、 様々な検出器の製作を目指すばかりでなく、独自のアイ ディアを生かして新しいものを開発していこうとする 機運が盛り上がってきていることを実感する。

VECC(Kolkata)では、地元企業と共同してGEM フォイルを試作する検討が進んでおり、薄いPC ボード を使ったTGEM については試作・評価の作業がすでに 進んでいる。(図1は、VECC で試作されたTGEM)

BARC(Mumbai)ではかねてより、地元foundry を使った4インチウェファーによるシリコン検出器の 開発が進んでおり、これまでにCMS 用のパッド検出器 を皮切りに低エネルギー実験向けのΔE/E カウンタ を一体型で実現するセンサー、マイクロストリップ検 出器などにも成果を上げつつある。近年彼らが力を注いで いるデバイスの一つに、PPD(Pixelated Photon Detector, ガイガーモードのAPDをアレイとした光センサー、SiPM などとも呼ばれる)がある。我が国ではHPK が製造を手 がけており、測定器開発室においてもフォトンセンサーグ ループの主テーマである。ポリシリコンをクエンチ抵抗に 使った本格的な構成で、レイアウトに独自のアイディアが 盛り込まれている(図2)。

今後、RPC とINO 実験のデータ収集システム、 MPGD、PPD、そしてSOI センサーの分野で、活発な コラボレーションを進めるべく、定期的なミーティング を持つことを双方で確認した。
図 1 VECC で開発中のTHGEM。穴とリムのアラインメントが課題とのことで我々と共通するテーマも多い。 図 2 BARC で開発中のSiPM の試 作ウェファー。性能評価と構造の最適化が進行中とのことである。

測定器開発室 (2012年 1月)

今年度から先端計測実験棟の中実験室において、液体TPC関連の2プロジェクトが本格的な開発研究の展開をはじめた。

大型のニュートリノ検出器などの応用を念頭においた液体アルゴングループはすでに250リットルの大型クライオスタットを使ってTPCとしての運転実績を着実に積み重ねており、すでにJ-Parcにおけるビームテストなども実施して、「デジタル泡箱」としての性能を実証してきた。今後は二相式と呼ばれる動作モードでの実用運転のために、電離電子の液相からガス相への引き抜き、さらにガス相における本格的なアバラシェ増幅の実現を目指す。
そのためにはゲイン定 常化に欠かせないガス圧の安定 化が重要であり、冷却システム の改造が進んでいる(右図)。こ こでは、TPC内のガスを孤立し たclosed systemに閉じ込めて、 液化を独立した液化アルゴン槽 内でおこなう。これにより液 面・圧力の安定と同時に大型化 には極めて重要なアルゴンの純 度向上も期待できる。
 もう一つの開発グループは液体キセノンによるTPCの実用化を目指しているが、キセ ノンガスは高価なためテストに使われる容量は数リットルと最小限であり、不安定な液面 やアウトガスなどによる純度低下の影響なども受けやすく、困難な開発が続いている。一 方シンチレーション光のみを使ったカロリメータタイプの応用では純度への要求も比較的 緩やかで、MEGやXMASSなどの実験で技術的にも確立している。XMASSのような応用 では、バックグラウンドであるガンマ線のレスポンスを弁別するために、信号のパルスシ ェープを活用する。
右図左は、我々の液体 キセノンチェンバーにおけるシンチレーシ ョン発光の信号の遅い成分の全信号に対す る比率をα線とγ線について示したもので、 γ線では遅い成分が支配的であることが見 て取れる。そのメカニズムについては、い まだ定説がなく大きな興味が持たれている が、ここでTPCのケージとして準備された 電界を液体キセノンに印可すると、この違 いが消失することが、我々のTPCにおいて も確認された(右図左)。

図 1 液体キセノンにおけるシンチレーション
光の遅い成分の比率を表す指標(PSD) α線では低い値に鋭いピークを、ガンマ線では 高い値をとる(左図)。TPC 内にドリフト電場を 印可するとその差異が消失する(右図)

測定器開発室 (2011年 12月)
測定器開発室のプロジェクトでは、機構の研究 ユニットをまたがる横断的な開発を常に念頭において推進されている。FPIXプロジェクトでは放射光実 験向けに開発中のイメージセンサー(APDアレイ) と素粒子原子核実験向け(J-Parcのガス検出器、BelleII・CDCなど)に開発されたBiCMOSプロセス のチップを組み合わせて、これまでにない分解能を 持つ時間分解計測の実現に取り組んでいる。

 FPIXで目指す応答速度は、PFのバンチを弁別できる500MHzにおいており、開発されたASICチップにはBiCMOS の高速性を活かす高度のアナ ログ回路設計と共にパルスの立下りと立ち上がりを巧妙に利用した計数回路などが、組み込まれている。若干の手直しを加えたチップは、予定通りの応答速度で動作することが確認され(下図)、既に開発が進んでいるAPDセンサーを組み込むため、64チャンネルの読み出しボードに実装された。


図1 FPIX プロジェクトで目指す超高 速ピクセル検出器システムの概念。高速応答のAPD アレイからの信号を超高速信号処理回路で並列処理することで、X線の時間分解イメージングが可能となる。


図2が完成したプロトタイプシステムで、この上部にネットワーク接続アダプターであるSiTCPのカードが装着されて実験可能となる。残念なことに震災の影響もあり、ハードウエアのトラブルなどからこの秋に予定していたビームテストはまだ実現できていないが、年内にはX線を使った最初の実証テストが行われる。更に年度内には、ファームウェアの調整を終えて、文字通り超高速の時間分解測定を利用した最初の物理実験を行うべく準備を進めている。

 FPIX研究開発 の詳細はこちらから


図2 組みあがったプロトタイプシステム。 ボード下部中央にAPDアレイが接続される。その上部には見えるのが、BiCMOS プロセスで試作された超高速信号処理ASIC チップ。上部にある2基の大型チップ(FPGA)が高速のデータ処理と転送を可能とする。  

測定器開発室 (2011年 11月)

測定器技術の普及もその使命の一つと考え、様々な取り組みをしてきた開発室であるが、 今年度よりは ASEAN 各国の若手研究者・大学院生に対する教育プログラムにも取り組ん でいる。そのきっかけとなったのは、あの震災の衝撃収まらぬ3月 14-18 日、マレーシア・ クアラルンプールのマラヤ大学で KEK の共催で行われた Particle Physics School in South-East Asia である。
そこで新たな試みとしてガスボンベなどの機材を日本より持ち込ったところ、参加した多くの若者(マレーシ ア、ベトナム、インドネシア、タイ)が検出 器や装置に触れることをたいへん喜び、 KEK を訪れて加速器や本格的な機器を扱う ことに強い興味を示してくれた。久しく日本 で接したことのない熱い思いが伝わってき て、感無量であった。



図1 LYSO 結晶にブラックライトを照射して
シンチレーション発光を実感するスクール参加者
図2 PDE 測定をするベトナムの Dong 君
1 2011年度幸いにも学術振興会の東南ア ジアからの若手研究者招聘プログラムにKEKの提案が採択されたことを受け、早速スクー ルの参加者たちに呼びかけ最終的に6人を選考して招聘を行った。
このうち2名が、実際に測定器開発室のプロジェクトに加わり基本的な測定器の評価実 験などを行った。(ほか理論部滞在2名、B-Lab プログラム2名)一名は Photon グループ に参加して、立ち上げたばかりの分光レーザースポット顕微鏡装置を使って、PPD の波長 別 PDE スキャンを行った。これは世界でも初めての試みであり、今後の本格的測定に向け て多くの情報を得ることができた。もう一名は FPIX グループに加わり、高速 APD の特性 評価試験の実際を体験した。変則的な招聘期間の設定(8~10 月)のため、十分な時間を取ることが出来無いのがいかにも残念であった が、今後の取り組み方について学ぶところ多で あった。

測定器開発室 (2011年 10月)

1 Micro Pattern Gas Detector(MPGD) は開発室が力を注いでいる2次元ガス放射線計測 器技術であるが、これをテーマとする国際会議(MPGD2011)が8月29日から9月1日 神戸で開催され、KEK 開発室もその共催研究機関の一つとして協力を行った。今回で2度目のこの会議、現在ガス検出器技術としては最もホッ トな話題とあって、この時期での日本開催というあいにくの条件ながら海外からの参加者 70名、国内60名の総勢130名という当初予想を大きく上回る盛況ぶりであった。


図 1 明石海峡大橋をバックに集合写真

会議では、MPGD の構造や製作に関する新しいアイディア、X 線・γ線・可視光や中性 子イメージングへの応用、LHC のアップグレードなど将来の実験装置への応用など多岐に 渡る話題が、すべてプレナリーのセッションのなかで熱心に議論された。測定器開発室関 連の発表で注目されたのは、非金属の導電性素材(カーボン含有ポリイミドや導電性ポリ マー)を電極に用いた MPGD 構造の試作に関する報告である。開発室 MPGD プロジェク トの基礎班と呼ばれる国内グループの連携の中から、導電性カプトンシートを使った GEM (理研・CNS)、カーボン含有ポリイミドレジンを使った-PIC(神戸大)や GEM(KEK)、 導電性ポリマーを用いた GEM(KEK)などの発表が行われた。これらはいずれも、
1. 銅箔などの金属を用いないことによる測定器の低物質化
2. 電極に適度の抵抗値を持たせることによる、MPGD の動作の安定化
3. 金属のエッチング工程を省くことによる製造の簡素化
などを目指したもので、従来の MPGD の性能・製法を改善する可能性を秘めている。会議 では試作された導電性電極による MPGD 開発の状況やその性能評価結果などが示された。
下図は、導電性ポリイミドを電極とした新型 GEM フォイルの性能評価の結果について KEK・宇野氏報告からの抜粋であり、従来の銅箔 GEM より高いゲインを安定的に得られ る可能性があること(左図)、X 線エネルギー測定の分解能など全く遜色が無い(右図)こ とが示されている。



図 2 導電性ポリイミド電極GEMの性能評価:
左)2枚重ねにより104 の増幅率を安定的得られることが実証された。
右)測定された5.9keV のX 線のエネルギースペクトル。エスケープピークも良好に捉えられている。

1 今年度は高エネルギー研究者会議、原子核談話会、CRC の三研究者会議の協賛のもと、 第一回測定器開発優秀修士論文賞を企画し、昨年度の修士論文を対象として募集を行って きた。震災により〆切を延期するなどのトラブルにもかかわらず、最終的にレベルの高い 22編の応募があった。各コミュニティのからの審査員の方々の厳正な査読の結果、2編 の優秀論文賞と1編の審査員特別賞が選出され、物理学会最終日の9月19日に表彰が執 り行うことができた。推薦を頂いた指導教官、審査員の皆様、またKEK 関係部局担当者各 位のご協力のお陰でありこの場を借りて感謝したい。関連分野研究者より「学生の励みに なる」など多くのサポートの声を頂いており、今後も、測定器開発分野の発展に資するも のとして、継続していくことしている。各方面のご協力を今後もお願いしたい。
優秀論文賞の受賞者に与えられたクリスタル製の盾

測定器開発室 (2011年 9月)

1 開発室が力を注いでいる先端的放射線計測器の一つに、SOI ピクセルセンサーがある。 Silicon-On-Insulator と呼ばれる高機能半導体技術を活用して、放射光向けの高精度 X 線イ メージング装置から素粒子実験向け高機能崩壊点検出装置まで様々な次世代実験装置への 応用が検討されている。昨年度までの原理実証の成功を受けて、今年度はいよいよ本格的 な実用システムとしての開発評価が始まっている。

 X 線イメージング装置としての性能評価のポイントの一つが「高精細」という点であり、 SOI ピクセルセンサーの開発方向の一つ流れが、より微細なピクセルの実現を目指すもの となっている。昨年度設計・試作・投入されたピクセルセンサーチップ(DPIX)では、2 256x256 pixels と未だ小径ではあるものの、これまでで最小の 14μ角のピクセルサイズを 実現した。図1は微細加工で作られたマ イクロマスクの X 線画像をこのチップ でイメージングしたものである。さすが に 7μ幅は苦しいものの 10μまでのパ ターンをきちんと画像化することが確 認できた。これは CERN・LHC 実験か らのスピンオフで開発された最新の X 線イメージ装置の5倍以上の高精度で ある。今年度新たに試作される予定のチ ップでは、さらに小さい 8μ角の実現を 目指している。

様子見であった素粒子実験に対する 応用の検討もここに来て本格的に始ま ってきた。ここでは、微細化もさること ながら、速いデータ収集を行うための高機能化が求められており、最新の LSI 回路をセン サーの中に完全に組み込める SOI 技術の真骨頂が発揮できる応用でもある。

図1 シリコン基板上に微細加工されたタング ステンによるマイクロパターンマスク(図上) とSOI ピクセルセンサーで捉えたそのX 線画像 (図下)
 Belle II グルー プでは、高いチャンネル占有率(occupancy)が予測される SVD の最内層のセンサーとして、 従来のシリコンストリップに替えて SOI ピクセル技術の応用を考え始めた。その概念(Strip Pixel)を図2に示す。通常のピクセルアレイを使って必要な分解能を達成するためには膨大 な数のピクセルとその信号処理回路が必要となる。SOI 技術を使えばその分解能を損なう 図1 シリコン基板上に微細加工されたタング ステンによるマイクロパターンマスク(図上) と SOI ピクセルセンサーで捉えたその X 線画像 (図下) ことなく信号処理回路を巧妙に共通化することで、回路チャネルを激減させることが可能 であり、それにより高速のデータ処理が実現できる。

測定器開発室 (2011年 7月) 

1震災によって遅れていた光検出器評価用の可変波長レーザースポット光源装置が本格運 用を開始した(2010年11月の報告参照)。この装置では400-1100nm から選択した波 長のマイクロスポット光(スポッ トサイズ1m、パルス長5nsec) を各種光センサーの表面に結像で きる。図1は地震後の再調整によ って確認された発生波長スペクト ルである。この装置を使っての最 初の研究課題は、PPD(Pixelated Photon Detector, MPPC やSiPM などとも呼ばれるガイガーモード APD マルチピクセルアレイによる 光子計数器)の検出効率(PDE、 Photon Detection Efficiency)の波 長依存。これまでの研究で通常の光電流による評価では、クロストーク等の特有の現象に 起因するごさが無視できないことが分かっており、単一光子による厳密な評価が待たれて いる。この装置を使うことで、モノクロメータでは容易でない分光測定が簡単に行えるも のと期待されている。またマイクロスポットによる空間的な選択性が、測定器開発室で研 究中の様々なセンサー(PPD、SOI ピクセル、FPIX、QPIX など)の構造に依存した特性 を計測する有効なツールとなるもの と考えられる。図2は先ごろフラン ス・リヨンで行われた国際会議での発 表(K. Yoshimura and I. Nakamura, NDIP2011)より、スペクトルのライ ン幅とビームスポットを示すスライ ドの抜粋である。 本装置は南実験準備棟108 号室に 設置されており、その利用を今後広く 公開するべく準備中である。

 

図 1光源から取り出せる光のスペクトル。400nmから1100nm
の近赤外までの波長域を利用できる。

図 2 NDIP2011 発表スライドより


測定器開発室 (2011年 6月)1

1開発室では、昨年度新たに提案された2相式CO2 冷却システム開発プロジェクトについての検討を行うため、液体TPC 開発棟の一角で試験研究を始めている。開発研究を目指しているのはLC-TPC、LC-VTX、BelleII-VTX など将来の実験で効率的な冷却システムを実現したいグループと素核研・低温グループからなる合同チームである。昨今測定器システムの高度化にともない、安全で効率の高い冷却はますます重要になっており、次代のシステムを設計する上で無視することの出来ない技術要素として位置づけられるようになってきた。 

昨年度末から始められた評価研究 では、まず圧縮機などの能動機能を持たない開放系システムで、基本的なシステムの振る舞いを確認するこ とからスタートしている。図1にシステムの構成を示す。市販の液化炭酸ガスボトルから液化ガスを細管を経て熱負荷のある熱交換システムに送出し配管内に液相/気相の2相状態を作り出す事で、熱交換システム内を圧力のみで決まる定温度に固定することができる。本格的な試験は、震災後の電力復帰が実現した4月22日から始められ、様々なシステムパラメータの測定が進行中である。右図のプロットはヒーターによる熱負荷に対する反応を確認する運転状況を記録したもので、10L/分のCO2循環で70W程度の冷却が可能であることを示している。2相状態がくずれた最下流から急激な温度上昇が見られており、制御方法の検討の重要性など今後の課題が明らかとなった。

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図 1 開放系システムの試験運転の一例。10L 毎分の
循環で70W以上の負荷を保持できることがわかった

図 2 開放型CO2 冷却試験装置の構成。左の液化炭酸ガスが右側の熱負荷冷却し温度を安定化する


測定器開発室 (2011年 5月)1
1 開発室では液体TPC の開発研究をプロジェジェクトの重要な柱として、液化ガス専用の実験棟を先端計測開発棟中実験室内に整備してきた(2011年2月報告参照)。震災前に機器の移設をほぼ終了し、震災後の電力漸次回復のおかげで研究活動も再起動である。

液体TPC にとって最重要な課題の一つは液化ガスの純度であり、大容積の検出器では最終的に1ppb(10億分の1)よりもはるかに低い不純物濃度が要求される。これほどの純度となるとそれを実現することはもちろん、モニターすることも容易でない。従来液体キセノンを利用した検出器はそのシンチレーション光を利用するものが主流であった。シンチレーション光は不純物(水分など)により減衰するため、その光量はガスの純度の一つに 指標になり得た。しかし、図1に示されるように、TPC で要求される純度に到達するまでにその光量は 飽和を見てしまい、この先の純度の改善についてモニターをすることは可能ではない。

そこで液体アルゴンTPC のチームが開発したのは、TPC の重要な情報である電離信号の大きさを、TPC 内でのドリフト時間ごとにプロットする手法である。ドリフト時間の長い信号ほど大きな距離を経て到達してきており、不純物による減衰の影響を大きく受けているためその電荷量は小さくなる。図2は様々な角度・位置に入射する宇宙線を使って作られたプロットである。この曲線の減衰率は不純物濃度に依存するため、結果的にppbレベルの高純度モニターとして利用できる。

かくして、高信頼の新しい純度モニターを手に入れて、実用的な大型検出器に必要なさらなる高純度の世界を追求することとなる。
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図 1 液体キセノン・シンチレーション光 の精製運転による増加と飽和

図 2 液体アルゴン中のドリフト時間と信号減衰 の関係

○ 「SOI 技術を用いた新しいピクセルセンサー開発の最近の進展」 高輝度光子ビーム源開発室ニュースVol.6 P1-P6 (2011.03.25) 
「Silicon-On-Insulator (SOI) 技術を用いたピクセルセンサー開発」プロジェクトで研究中の、積分型SOI イメージセンサーの最新情報を掲載しています。


測定器開発室 (2011年 4月)
1 前回の成果報告書(2009年)以降の測定器開発室活動についてのまとめを行った。詳細は開発室のウェブページ http://rd.kek.jp/ を参照することとして、ここではその概要を統計資料の側面から紹介する。

  開発室のプロジェクトは現在試行中のものも含めて9つあるが、そのコラボレータの所属機関種別の員数をまとめたのが図1のグラフである。

いまや総勢284名を数える大きな開発研究集団となっている。 そのうち機構外の共同研究者は3/4に当たる209名で、さらにそのう ちの66名が海外研究者と、国際化も進んでいる。国内研究者のうちでユーザー登録を行い実際に「測定器開発室」の何らかのインフ ラを活用する共同利用研究者は、図2に示されるように全国多数の研究機関に亘っており、測定器技術開発へ の熱心な取り組みが全国に広がっていることが読み取れる。

  これらの共同利用研究において、前回の報告書以来1年半あまり(2009-2010)で新たに公表された各種成果について、学会講演(Presentation)、学術論文(Publication)、学位論文(THESES)別にまとめられたのが図3である。ここでプロジェクト名はそれぞれを表している。

SOI:
SOI 技術によるピクセル検出器開発プロジェクト
MPGD:
Micro Pattern Gas Detector の開発/応用プロジェクト
ASIC:
Application Specific IC 技術定着/応用プロジェクト
PHOT:次世代光センサー開発/応用プロジェクト
LIQA/LIQX:
液体アルゴン/キセノンTPC プロジェクト
SCD:
超伝導検出器開発プロジェクト
FPIX:
高速ピクセル検出器開発プロジェクト

多くのプロジェクトで、着実に開発研究の成果をあげるばかりでなく、それを公表する努力も怠ることなく進められていることが示されている。また、10を越える学位論文が測定器開発室コラボレーションの中から生まれ、若い研究者の育成にも大きく貢献していることも、加えておきたい。


測定器開発室 (2011年 3月)
測定器開発室として、KEK発信の独創技術として力を注いでいるのが、SOI技術を用いたピクセルセンサーである。2005年のスタート以来、着実な進展を続けてい まや内外のコラボレータを合わせると80人余を数える大型開発プロジェクトとなっ た。そこで5年目の節目として、国内外の専門家による国際レビューを行い、これまで の開発研究のあり方、今後の目 指す方向などについて様々な角 度より検討していただくことと なった。

レビューは、2月28日から 3月1日の2日間、名古屋大学 の田島宏康教授を委員長として、 米国NASA / MIT のMark Bautz教授、フランスIN2P3の Marc Winter教授、ドイツMPI のHans-Günther Moser教授、金 沢工業大学の井田次郎教授そし て茨城県量子ビームセンターの 大橋裕二コーディネータの総勢 6名の国際的プロフェッショナ ルに委員を委嘱して開催された。

写真左:レビュー委員とそれを囲むSOIピクセル開 発チーム:前列左2番目より、プロジェクトリーダーの新井氏、その左にMoser、大橋、 Winter、井田、Bautzの各委員が続く。後方ひときわ背の高いのが委員長の田島氏)

 初日冒頭にはまず、プロジェクトリーダーの新井康夫KEK教授からオーバービュ ーが報告され、次世代半導体技術であるSOIを使った全く新しいタイプのピクセル検出 器が、5年の開発期間を経ていよいよデバイスとして実用されるのも間近であることが 強く印象づけられた。その後コラボレ ーション参画機関(OKIセミコンダク ター、KEK、JASRI、FNAL、京都大 学、筑波大学、東北大学、JAXA)の開 発チームから各地での状況が報告され、 幅広い分野で精力的な開発研究が進め られていることがしめされた。 

 素粒子原子核分野への応用は、まず崩 壊点測定のためのピクセル検出器であると 想定される。そのためにはLHCで開発され てきたハイブリッド型ピクセルセンサーを 超える機能をmonolithic sensorの長所を最 大限に活かす薄さで実現せねばならない。 今回のレビューではKEK―東北大学の連携 事業に基づく開発研究の一環として、東北大学電子光理学研究センター(旧核理研)の 電子ビームを用いたビームテストの結果が初めて報告された。


早期の実用化が期待のX線画像装置への応用
  ビームエネルギーは 673MeVと、この種の実験を行うには十分とは言えないが、国内有数のテストビーム実 験設備である。前ページ下の写真は実験に用いられたセットアップであり、今回のため に準備された堅牢でコンパクトなシステムが、センターに持ち込まれ、テスト実験が行 われた。このエネルギーの電子ビームでは多重散乱の影響(20m程度)が大きく、検 出器本来の分解能(数m)を測定するには十分とは言えないが、最初の本格的な荷電 粒子を対象とした実験として重要な位置づけである。ノイズレベルなどまだ満足のでき るレベルではないが200m程度の空乏層の検出器においてS/N比40以上が確認され (右上図)、最初のビーム実験としてはまずまずの性能を確認できた。また位置測定精度 として、上記多重散乱に比べて十分に高い精度が持つことが示され(右図、ビームのト ラッキングにおける残差分布:ほぼ多重散 乱による寄与だけで理解可能)、今後の進 展に大きな期待が持てることが改めて実 証された。レビュー委員会より、今後は monolithic deviceの特徴を活かすべくさ らに薄型化(thinning)を行いながら十分 なS/N比を確保すること、本格的な素粒子 実験での利用を具体的に想定して、読み出 しのスキームなど総合的に開発設計を進 めよとの助言があった。

 Review のまとめとして行われた委員 長のサマリーでは、「KEK・SOI開発プロ ジェクトは新たな放射線検出器技術の確 立において目覚ましい成果を上げた。」と の賛辞をいただいた。各委員共にKEKにおけるこの進展に強い印象を持たれ、今後各 地で関係分野の研究者に早速この情報を伝えたいとのコメントであった。

レビューの正式な報告書は4月早々に公開される予定である。




測定器開発室 (2011年 2月) 
1 アルゴン・キセノンなどの液化希ガスを利用した測定器は、従来高性能カロリメータとして利用されることが多かった(古くは、VENUS実験の液体アルゴンカロリメータ、現代ではMEG実験のガンマ線検出器など)が、今後はTPC(Time Projection Chamber)の形で大型の高感度三次元放射線検出器として、暗黒物質探索、ダブルベータ崩壊実験などの超高感度測定や、大型ニュートリノ検出器などに応用されるケースがますます増えるものと期待される。そこで測定器開発室では、そういったシステムで必要となる様々な基盤的な技術の獲得と共有のため2つの開発プロジェクトを推進している。そのひとつは、液体キセノンによるガンマ線検出器にTPCによる3次元位置計測を組み合わせ、新世代のPET装置開発を目指すLiqXeグループであり、もうひとつは液体アルゴンTPCによる大型三次元ニュートリノ検出装置を目指す、LiqArグループである。目標は異なるものの、いずれにも
1) ガス液化のための低温装置、
2) 超高純度ガス循環のためのガス精製装置
3) 紫外領域のシンチレーション光の検出
4) 微小な電離信号の検出
など多くの共有すべき技術項目があり、緊密な情報交換はきわめて有用である。まさに測定器開発室という横断的な枠組みの果たすべき役割でもある。
昨秋より、物構硏/中性子グループ・ミューオングループのご理解をいただき、先端計測開発棟東の中実験室(上図、オレンジ部)の改装を行い、これら液体希ガスグループの拠点(Liquid Detector Lab.)と位置づけ、実験装置の移設を行い、いよいよこの春から本格的な稼働を初めている(下写真)。
さらにパイロットプロジェクトとして、将来のコライダー測定器の死命を制するとも考えられる高密度エレクトロニクスの冷却システムについて、二相炭酸ガスを用いたシステムの開発を進めるアクティビティ(CO2)もこのサイトに展開をする予定で、準備が始まっている。

ball測定器開発室 (2011年 1月)
1  測定器開発室では物質科学研究において革新をもたらす先端放射線検出器技術の開発を精力的に行なっている。
従来の物質研究向け放射線検出器と素粒子原子核実験におけるシステムの大きな違 いは、前者が主として積分強度の測定を行うのに対して、後者は個別の量子の計測を時 間軸に対して行うことを基本とするところにある。しかし近年では、物質研究において も時間情報を使った反応のダイナミックな解析が注目されており、高速応答のできるピ クセル検出器などへのニーズが高まりつつある。 
そこで開発室の物構研メンバーを中心にして進められているのが、Fpix(Fast Pixel) プロジェクトである。ここではシリコンAPDのピクセルアレイと高速パルス回路を組 み合わせて、高精度の位置(サブミリメートル)・時間(ナノ秒))情報を計測できるX 線測定システムの実現を 目指す。
右写真は、今年度 PFでの評価実験が進んで いるリニアアレイのプロ トタイプで、縦200ミク ロン・橫100ミクロンの APDピクセルが64チャン ネル横一線に配置されて いる。ビームを使ったテストにより各ピクセルのX線に対するレスポンスは良好(8keV に対して効率11%)でよく揃っていることが確認された。気になる時間特性について も、下図のプロットで示されるように、PFの2ナノ秒のバンチ構造をきちんと弁別で きる性能(時間精度200ピコ秒以下)が確認された。

今後は64チャン ネル・ピクセルアレイと しての特長を最大限に活 かすべく、多チャンネル 入力の高速パルスASIC の開発を完成させ、本格 的なX線測定システムと して仕上げることが、課 題となる。今年度は BiCMOSの技術を用いて すでに素粒子原子核実験 ワイヤーチャンバー向け に開発された高速パルス 回路を応用したASICの 開発が進められている。

 2010年末にはSOI ピクセルグループからも新しい成果が届いた。これまでの試作チ ップで最大の測定エリア(50 万画素・10x15mm2)をもつ画像積分型のINTPIX4 と新たに 準備したX 線発生装置を組み合わせて得られた、「X 線写真」である。ここでは試料として 身近な食品である「煮干」が選ばれた。17 ミクロンという微細な画素のもたらす高精細の X 線透過イメージにより、極めて細かな小魚の背骨の構造までもが明解に画像化されている ことが見て取れる。KEK 発信の最先端技術であるSOI ピクセルが、実験計測装置としてば かりでなく産業・民生の至る所で実用化される日も遠くないことを実感させるショットであ る。




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