先端加速器推進部
 活動報告
 
   
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測定器開発室(2020年10月)
 測定器開発室のSOIピクセル検出器開発グループでは、SOI検出器を用いた残留応力測定装置の開発を金沢大学佐々木敏彦研究室と共同で行っている。本取り組みの中で開発された改良型INTPIX4 (電荷積分型、17m角ピクセル、センサー層厚300μm、N型Floating Zone wafer)の、X線イメージャ―としての性能評価をPF放射光を用いて実施した。

 PF BL-14Aの単色X線を使用し、特定ピクセル付近に細径ビーム(φ~10um)を入射し測定したアナログ出力分布とゲインのグラフを図1に示す。12keV照射においては明確に1-3光子ピークが分離できていることが確認でき、ゲインもほぼ予想通りであった。

 この他、カッターナイフを用いた解像特性等についての測定も行い、高い解像度が得られていることが確かめられ、残留応力測定に問題なく使用できる事が確認された。同検出器で撮影した花のX線像を図2に示すが、繊細な構造まで写す高解像度が確認できている。これらの結果は2020年秋季物理学会で報告された。
 

 
 
 
測定器開発室(2020年9月)
測定器開発用テストビームラインの建設
 5月の活動報告にて,PF-AR南実験棟に測定器開発用のテストビームライン建設計画が立ち上がったことを報告した。今回は,その計画の進捗状況について報告するが,まずは全体像を再掲する。
 PF-ARの蓄積電子ビームのハローを削るように,ビーム中心からビームの大きさの5倍程度離れた位置にワイヤー標的を入れ,ガンマ線を生成させる。そのガンマ線をコンバータに入射させて電子・陽電子対を生成,その後,ビーム収束用の四重極電磁石と,特定の運動量を持った電子だけを取り出すための双極電磁石の組み合わせにより,ビームテストに使用する電子ビームを取り出す(図1) 。

 
 このテストビームライン建設は,大きく分けて3つの要素からなる。1つ目は,標的およびコンバータで,コンバータに関しては,Geantによるシミュレーションを用いて,厚さの最適化を行い,次に述べるオプティクスの最適化と合わせて,ビーム収量の評価を行った。コンバータは蓄積電子ビームの曲線部ビームダクトの後端を利用するものであるため,放射光により生成される熱の放熱処理なども必要であることから,コンバータを取り付けられる曲線部ビームダクトを新たに製造する。その詳細設計を詰めつつ,現在は,このビームダクトの調達準備中である。また,標的としては,直径100μmのカーボンワイヤを想定して,熱計算などの検討を行なっている。
 2つ目は,生成された電子の取り出しで,ビーム収量を増やしつつなるべくモノクロマティックなビームを得るために,これまで,様々なオプティクスを検討した。ただし,取り出し用電磁石はKEKBグループからの借用なので,使える磁石に制限がある。そういう制約の中で,現在の有力案は,コンバータの下流に長さ50cmの発散および収束用四重極磁石をそれぞれ1台づつ配置,その後,運動量選択用の双極磁石を1台,さらにその下流には長さ36cmの四重極磁石4台を2台づつペアにして発散および収束用に用いる,というものである。シミュレーションでは,厚さ16mmのコンバータを使うと,2GeVの電子ビームをkHzのレートで取り出せるのではないかと見積もっている(図2)。電磁石本体は,先に述べたように借用する目処が立っているが,電源と架台は新規調達が必要なため,設置作業も見据えた調達計画が進行中である。

 
 3つ目は,インフラ整備である。取り出す電子ビームを蓄積リングトンネルの外に導出す るには,トンネルに貫通孔を開けなければならないし,その貫通孔の位置は実験室の2階相当の高さなので,測定器試験を行うためには試験したい測定器を設置するためのステージを作らなければならない。これらについては,年度内整備を目指して鋭意準備中である。また,電子ビームを取り出す妨げとなる,蓄積リングトンネル内のシールド等については,撤去作業を完了させている。インターロックをインフラ整備と呼ぶかどうかは微妙だが,人の安全,機材の安全双方を確保するためのインターロックの検討も進んでいる。
 本テストビームライン建設計画では,測定器開発室に予算をつけていただいたが,測定器開発室には専属スタッフがいないので,説明が前後するが,一番最初に始めて今も継続的な課題となっているのが,人集めである。標的,コンバータ,ビームダクトなど,ビームの取り出しに関連する部分は,加速器研究施設第六研究系真空グループの本田さんが中心となって準備を進めてくださっている。電磁石の調達とオプティクスに関しては,同じく第四系の森さんにお世話になっている。また,シミュレーション等は,素核研の外川さんと名古屋大の修士課程の学生に頑張ってもらっている。電磁石電源の調達や電磁石設置に関しては,加速器第六系電磁石電源グループの満田さんを中心に準備が進められており,インターロックなどの安全に関してはこれまた加速器第六系にお世話になっている。特に長橋さんには,インフラ整備まで含めて幅広くサポートしていただいている。その他,ビームステージ製造や放射線管理関連では,素核研の池上さんと中村さんにご苦労いただいている。また,ビームライン申請で今後は放射線科学センターの吉田さんたちにお世話になる予定である。このように,本計画は,場所も人も機構横断的に進められていて,多くの人の協力に支えられてなんとか進み始めている。
 
 
測定器開発室(2020年7月)
 測定器開発室-SOIPIXグループで開発したピクセルセンサを、中性子研究に応用する試みが始まっています。
 東京大学・理学部/素粒子物理国際研究センターのグループを中心に、超冷中性子を用いた重力相互作用の研究が進められてきています。仮に、数 msec以下の時間分解能、かつμmオーダーの空間分解能で波動関数の動態を測定できれば、弱い等価原理など、現代の重力理論の根底を成すいくつかの原理の検証と適用限界の評価が可能になると考えられています。そのため、CMOSセンサを基とした中性子イメージング検出器の開発が進められていました。これまで同大学で開発されてきたCCDセンサを基としたものと比べてより自由度が高く、実験に適した性能を有するものです。用いられたCMOSセンサは、SOIPIXグループで開発した汎用性の高いINTPIX4 積分型ピクセルセンサです。このセンサはピクセルサイズが17μm x 17μmと小さく、ピクセル数が832 x 512で、1画像を読み込むのに10msで済むので、10msの露光時間(積分時間)設定では50Hzで画像連続取得を行う事ができます。
 中性子は電荷を持たないため、シリコンでの直接観測が難しい量子ビームの一つです。そのため、中性子反応率の高い物質(反応断面積の高いボロン10やリチウム6)を貼り合わせて、中性子反応により発生した荷電粒子をCMOSセンサで検出し、信号形状から中性子位置を割り出します。SOIPIXグループと東大・理学部/素粒子物理国際研究センター、東大d.lab(システムデザイン研究センター : 旧VDEC)と共同で、アルゴンスパッタリング技術を用い、INTPIX4の裏面にボロン10を200 nmの厚さまで成膜し、劣化防止のために20nmのチタンコーティングを行いました。
 開発したセンサを"10B-INTPIX4”と名付け、KEKの熱中性子標準棟、京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉KUR、J-PARC MLF中性子ビームラインBL10にて中性子照射試験を行いました。
 熱中性子標準棟では10B-INTPIX4ではじめて中性子イベントによる電荷スペクトルが得られました。その後、京大原子炉、J-PARCにてイメージング取得試験、空間分解能評価試験を順次行いました。J-PARCで行った実験では、中性子ビームラインBL10のNOBORU実験ステーションに10B-INTPIX4とd.labで作成した中性子スリットを設置し、空間分解能の評価試験を行いました(図1)。その結果、きれいな中性子イメージング像が得られ、空間分解能の上限として4.1 ± 0.2 μmの値を得ました(図2)。この結果は、同大学で開発されてきた、CCDを基にしたセンサと同等(半導体センサとして世界最高レベル)の分解能です。さらに、SOI構造による長所を生かし、ピクセル毎の高速時間分解や、信号アナログ出力同時測定などの機能を持たせることで、構造解析や水分動態分析を主とするさまざまな分野への応用範囲が広がるものと期待されます。この成果は広島で行われた国際会議で発表されました。また Nulcear Instruments and Methods A への掲載が決まっています。
 

 

 
 
測定器開発室(2020年5月)
測定器開発用テストビームラインの建設
 素粒子原子核物理学実験では、研究活動の中で測定器開発の比重が大きい。実験の立案→測定器開発・建設→実験遂行→その結果を元にして新たな実験の立案→測定器開発→...というサイクルを繰り返すことが多く、その測定器開発段階においては、粒子線を使ったビームテストが、ほとんど全ての実験計画で必須である。

 一方で、日本国内にはビームテストを実施できる施設が少ない。1GeV以下の低エネルギー粒子であれば、まだ幾つかの研究施設で使うことができるが、GeVオーダー以上のビームテストとなると海外の実験施設を頼らなければならない。欧州のCERN、米国のFermilabと並び、素粒子原子核物理研究の世界三大拠点を自負するKEKにとって、GeVオーダーのテストビームラインの保有は兼ねてからの悲願であった。また、ユーザーコミュニティからもテストビームライン建設の要望は根強く、これまでに何度も機構に対して予算要求を行ってきた。昨年度発足した測定器開発プラットフォームにおける活動でも、ユーザーがKEKに期待する事柄としては、機構が保有する設備や装置の共有、利便性の向上という希望が多く、中でもテストビームラインの建設はその最上位にくるものであった。

 このような要望が届き、機構長をはじめとする機構マネージメントの英断により、2020年と21年の2カ年計画として、つくばキャンパスPF-AR南棟に、電子ビームを取り出すテストビームラインを建設することとなった。PF-ARの蓄積電子ビームのハローを削るように、ビーム中心からビームの大きさの5倍程度離れた位置にワイヤー標的を入れ、ガンマ線を生成させる。そのガンマ線をconverterに入射させて電子・陽電子対を生成、その後、ビーム収束用の四重極電磁石と、特定の運動量を持った電子だけを取り出すための双極電磁石の組み合わせにより、ビームテストに使用する電子ビームを取り出す。

 テストビームライン建設の予算化を受けて、物構研、加速器第6系、KEKBビーム輸送グループの協力のもと、上記の標的やconverterの概念設計のための議論を開始した。放射光による熱対策なども含めて、取り出しビーム強度の最適化を行い、その結果をもとに、標的とconverterの詳細設計を行う予定である。元来の想定では、蓄積ビーム曲線部のビームダクト後端をconverterとして使用する予定で、そのためには、ビームダクトを作り直す必要がある。このオプションで行くか、あるいは現行のビームダクトを使用したまま放射光の熱を逃すことができるか、等を現在検討中である。昔のレートの見積もりでは、蓄積電子ビームのエネルギーが6.5GeV、電流65mAを仮定すると、2GeVの電子を4kHz程度で取り出せると見込んでいた。この数字の再検証をまずは行う。

 今後、放射線遮蔽、ビームステージの建設、ビーム取り出し用電磁石の調達など、やらなければならないことが山積みされているが、ビームライン建設のための組織が構築されたわけではなく、測定器開発プラットフォームのメンバー数人と、加速器、物構研の有志によりこの計画を進めていかなければならない。そこで、建設後の運用を含めて、自主運営できるようなユーザー会を立ち上げる必要もある。

 いずれにせよ、念願のテストビームラインがKEKに建設できることは非常に喜ばしいニュースである。PF-ARの新たなビームラインとして、物構研との連携を強化しつつ、多くのユーザーが使える施設を目指したい。

 
 
測定器開発室(2020年4月)
 測定器開発室で開発するモノリシックピクセルセンサーの評価のため、2020年1月14日から17日に東北大ELPH、2月23日から3月12日に米国FNALのテストビームラインでビーム試験を行った。参加したのは筑波大学4名/都立産業高専1名/宮崎大1名/KEK2名である。試験で用いたのは、ILCピクセルセンサー用SOFIST Ver4 (2台)、 X線衛星用に開発されたXRPIX5とXPRX6E (各一台)、高精度トラッキングのためのFPIX2で(4台)ある。
  SOFISTはILCで発生する全ての荷電粒子の通過位置と時間を測定するために開発されたもので、今年の試験では必要な機能を20μm×20μmのピクセルサイズに実装するための「LSI三次元実装」を用いたSOFIST Ver4を評価した。実験室では、ベータ線ソースを用いて3次元実装の接続率99.97%が確認されており、今回の試験ではその高エネルギー粒子(1GeV電子ならびに120GeV陽子)に対する応答を測定した。また、XRPIXは粒子の入射位置を実時間で取り出すことが可能なのでトリガーとして用いている。さらにXRPX6Eは新しいセンサー構造(PDD)を組み入れた素子で、その高エネルギー粒子への応答を測定した。

 測定のセットアップを写真に示す。ここに8台のピクセルセンサーが約3cm間隔で設置され、ビームが串刺し状に通り抜ける。その時のピクセルセンサーの応答をコンピュータに記録した。オンラインデータ解析で全てのセンサーが十分な信号を出し、整列していることを確認した。(グラフ)

 詳細な解析はこれから始まる。結果は今後の学会等で発表する予定である。
この実験はKEK・科研費・日米協力事業からの助成ならびに東北大学FNALの協力で行われた。

 米国での実験は新型肺炎の蔓延直前だったが、日本からの実験参加者にも米国FNAL側の受け入れ担当者にも罹患者が一人もいないことを3月末に確認した。

(グラフ)
 

(測定のセットアップ)
 
 
 
測定器開発室(2020年2月)
 測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、LSIチップの3次元積層を用いて小さなピクセル内により多くの回路を実装し、よりインテリジェントなセンサの実現を目指している。昨年12月にも報告したが、3次元積層を適用したILC対応のvertex detectorであるSOFIST4でSrからのβ線トラッキングを確認し、99%以上のピクセル歩留であることを確認した。この結果から3次元積層の基本技術は構築できと確信しているが、将来のdetectorに対するさらなる高性能化のデマンドを受け、より安定で生産性の高い3次元積層技術を模索している。そこでTIAかけはしの調査研究に応募、2016年度から産総研・筑波大学・東京大学をメンバーとして「3次元積層半導体量子イメージセンサの調査研究」として採択されている。この活動の一環として1/27につくば国際会議場で第4回となる研究会を実施した。当日は東京でも雪が降るのではと危惧され開催に不安もあったが、48名の方に参加頂くことができた。特に企業からが25名と参加者の半数以上であり、KEK側が主催である事を考えると、産業界でのこの技術への興味の大きさを感じるとともに、TIAばかりでなく産学でのかけはし的な研究会を実施できたと考えている。
 今回の研究会では、特に表面活性化接合(SAB:Surface Activation Bonding)という技術を中心とした講演を準備し、SAB技術の第一人者である明星大学の須賀先生に技術の基礎と全般に関して、SAB用のボンディング装置を開発・製造しているボンドテック(株)社長の山内様から装置面から、SABのアプリケーションとして産総研の日暮先生からご講演を頂きました。加えて、SABとは別だが類似点も多いフュージョンボンディングに関してアプリケーション含め産総研の藤野様から、また、我々の3次元積層技術として筑波大学の原先生からSFIST4での成果を話して頂いた。フュージョンボンディングはSONYのCMOSセンサで実用化されているが熱をかけなければならず、これに対し、常温で接合できるSAB技術の優位性を理解できた。本SAB技術はチップ積層ばかりでなく、MEMSへの適用メリットが高そうであり、この技術を用いた新しい概念の検出器創出につなげていきたいと考えている。
 
 
 
測定器開発室(2020年1月)
 すでに何度か報告していますが,測定器開発室は
    (A) 光センサー + シンチレータ
    (B) シリコン検出器
    (C) ガス検出器 + アクティブTPC
以上の3つのプラットフォームを今年度立ち上げました。8月と9月に各プラットフォームごとにキックオフミーティングを開催した後,12月には各プラットフォームともに第2回目となる研究会を開催しました。

 それぞれの研究会で,プラットフォーム参加者の研究紹介や,プラットフォームに対する要望,その枠組みの中で何をやっていくかの議論がありました。シンチレータを開発製造する研究者とシンチレータをユーザーとして使う研究者がそれぞれの立場から意見を出し合うなど,幅広い分野から研究者が参加していることによる異分野交流が進みつつあります。また,たとえば,(B)班では,1月にシリコン検出器の組み立てというテーマにスポットを当て,素核研メカエンジニアリンググループとの協力なども見据えて,異なる研究グループ間の技術交流の場を設けることになりました。

 プラットフォームへの登録者数は,前回の報告時からさらに増えて,(A),(B),(C)班それぞれ,37名,35名,31名となりました。プラットフォーム登録者全員が研究会に参加しているわけではありませんが,未登録の方も含め,毎回25名から30名程度の方に研究会に参加していただきました。

 どのプラットフォームでも,KEKに対する希望や期待が多く出ています。国内の研究者とKEKとの間のパイプ役が期待されていることを強く感じると同時に,そのような場を設けることができたことは,この測定器開発プラットフォーム設立の小さな成功なのかもしれません。パイプ役と同時に期待されているのは,インフラ,特にテストビームラインです。今後は,測定器開発用テストビームライン建設に向けた検討を始める予定です。 

 
 
測定器開発室(2019年12月)
 測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、高機能ピクセル回路の実現を目指し、2つのチップを接合する3次元実装技術(3D技術)を東北マイクロテック(株)と共同で行っている。この技術では、微小サイズでチップ間電極接続が可能となる金のシリンダータイプ・マイクロバンプを使い、Chip on Chip (CoC)の3D技術を採用している。マイクロバンプの直系は3 μm程度と小さく、ピクセル内に複数個配置できる。またバンプが小さいため物質量が抑えられ、荷電粒子トラックへの影響はほぼ無視できる。バンプ歩留も今までの実績で99.5%以上と十分に高い。
通常3D技術では、上部チップの配線層からの電極を、チップを開通させて取り出すThrough Silicon Via(TSV)技術を用いなければならないが、TSVプロセスは高価であり、サイズも5 μm程度と大きい。これに対してはSOIピクセルでは配線層と支持シリコン基板をつなぐThrough BOX Via (TBV)があり、容易に3次元積層が行え、上部チップ厚さも数μmと薄化でき、2枚重ねてもチップ1枚と同程度の厚さに抑えることが可能となった。
この3D技術をILC Vertex Detectorとして開発しているSOFISTに適用した(図-1)。

 
 SOFISTは図-2に示すようにヒットが入ってきたときの時間とアナログ量を同時にそれぞれ3つのメモリーで記憶出来るという世界初の検出器である。3D技術を用いて試作したSOFIST4にて、図-3に示すように90Srからのβ線トラックを検出でき、約10Kピクセル中0.04%以下の不良ピクセルとバンプの高歩留が確認できた。
 尚、本成果はIEEE 3D-IC、ESD Fall Meeting、Vertex2019等の国際会議で報告された。

 
 
測定器開発室(2019年11月)
 測定器開発室は,今年度から活動の形態を変えて,以下の3つの分野について,国内の測定器開発研究者が一体となって研究を進めるための測定器開発プラットフォームを立ち上げました。
(A)光センサー + シンチレータ
(B)シリコン検出器
(C)ガス検出器 + アクティブTPC

 素粒子原子核,宇宙線,宇宙物理学,応用物理分野に参加希望を募り,現在(A)(B)(C)それぞれに,29人,26人,31人のメンバー登録があります。その登録メンバーの中から,それぞれのプラットフォームの纏め役を(A)は越水さん(東北大)と横山さん(東大)に,(B)は東城さん(九大)と外川さん(KEK)に,(C)は坂下さん(KEK)にお願いし, 今後の活動計画などを議論するキックオフミーティングを各プラットフォームごとに開催しました。
 キックオフミーティングでは,各研究者の研究紹介とともに,以下が議論されました。

  ・これまでに交流する機会のなかった異分野との研究者との交流の場があることは重要。
   どのようなシーズとニーズがあるのかがわかることは将来の研究に役立つので,幅広い研究者との交流の機会として,定期的に研究会を開催すること   が望ましい。同様の観点から,各プラットフォームに閉じるのではなく,参加研究者のリストを整備し全参加者で共有することにする。
・今はまだ特定の技術開発を目指してはいないが,上記の交流が進むことで独自の共同研究が立ち上がることを期待する。
  ・大学の研究室単位では持つことが難しいテストベンチや測定機器など,KEKにどのような装置があり,その装置をどうすれば利用できるのか,などの     情報公開が多くの研究者から望まれている。
・当面は,研究会やセミナーを半定期的に開催し,異分野交流を促進する。
  ・測定器開発で不可欠なテストビームラインの建設がKEKには期待されている。測定器開発プラットフォームとして,テストビームライン建設をサポートし   ていきたい。

 これらの議論を参考にして,この活動を継続発展させていくつもりです。

 
 
 
測定器開発室(2019年10月)
 昨年9月の京都大での第1回「量子線イメージング研究会」に引き続き、第2回目の研究会が9月24-25日に姫路で開催された(https://soipix.jp/qbi2019.html)。今回は、理研SPring-8がLOC(Local Organizer)となりKEKの"SOI量子イメージセンサコンソーシアム"他が共催、またTIAの他、物理学会、応用物理学会等多くの学会に後援していただいた。参加者はおよそ80名で、そのうち半数が企業からの参加者で、この研究会が多くの企業からも関心を持たれていることがわかる。
今回はキーノート講演者としてMedipix, Timepix検出器の開発者として有名なCERNのMichael Campbell氏を招待し、高エネルギー実験の崩壊点検出器として開発された検出器が今や数百人規模の共同研究者を抱え、8つの企業からX線検出器等として販売されるまでになった事を紹介された。非常に成功した例ではあるが、質問に対する答えの中では、開発に時間や費用が多くかかり、高エネルギー実験の中で開発を続けていくことの困難さにも言及されていた点が印象に残った
。 招待講演では宇宙、放射光、構造解析等のアカデミック・サイドからの発表の他、ソニー、キャノン、浜松ホトニクス等企業からの最先端開発の現状も紹介され、研究者からはぜひ使わせて欲しいという声が多くあがり盛り上がった。またポスター発表も30件あり、そのうち13件がSOI検出器に関するもので、活発な議論が行われた。
来年はKEKがLOCを引き受けることになったので、この研究会をさらに盛り上げる為、多くの方の協力をお願いしたい。
 

 
測定器開発室(2019年7月)
 測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、4月に「SOI量子イメージセンサコンソーシアム」を設立しました。本コンソはアカデミックと産業界の交流の場を積極的に設け、SOI量子イメージセンサの一層の発展を図ることを目的にしております。主な活動は、研究会開催による技術交流、若手技術者・研究者の育成のための講習会、センサ構造や回路設計に関わる情報の産学相互利用、SOI技術を使った試作シャトルサービスMulti Project Wafer(MPW)ランの企画運営等を計画しております。意図するところは、現在までの研究としてSOI技術を用いたイメージセンサの開発で得られた知識・財産を産学ともに共有することで会員がその恩恵にあずかり、さらにMPWランによる試作費用の負担軽減をすることで、広くSOI量子イメージセンサ技術を発展させることです。加えて、科学技術の発展に欠かせない独自の検出器開発をアカデミックとしても維持し、日本の検出器業界へもより差別化できる商品の開発へつなげていくことです。
 このコンソ設立を記念し、去る6月7日(金)に東京理科大学 森戸記念館にて、研究会を実施しました。研究会は6名の方のご講演で構成しました。東京大学の三田先生からは、VDECの相乗り試作や東京大学のMEMS施設を使った短TATで信頼性の高いデバイス試作・開発の手法について、東北大学の須川先生からは、現在建設中の東北放射光施設に対応した軟X線イメージセンサのお話しを頂きました。理研の初井様からは放射光実験用X線検出器に関して、静岡大学の川人先生からは特に近年注目されているTOFセンサについてのご講演を頂きました。京都大学の鶴先生、高エネルギー加速器研究機構の三好様からSOI技術を用いたX線センサ・荷電粒子線センサに関するお話を頂きました。本研究会の参加者は73名と多く、構成も企業・公的研究機関・大学でバランスよくほぼ同程度の割合で、また企業からの参加者は偏ることなく関連業界内で広く情報を共有できたものと考えております。後半に行いましたコンソ設立総会でも研究会に引き続き多くの方にご参加いただき、当コンソに対してのご興味を示して頂いております。このコンソを足掛かりにMPWランとSOIピクセルセンサ開発を維持する仕組みを模索致します。コンソ会員もアカデミック・企業ともに集まり始めております。
 

                        設立記念研究会風景                   参加者所属割合
 
 
測定器開発室(2019年5月)
 KEKの測定器開発室は,今年度から活動の形態を変えます。これまでのように,測定器 開発室主導で複数の測定器開発計画を走らせるのではなく,以下の3 つの分野について,国内の測定器開発研究者が一体となって研究を進められる環境の構築を目指して,測定器開発プラットフォームを立ち上げます。
  (A) 光センサー+ シンチレータ
  (B) シリコン検出器
  (C) ガス検出器+ アクティブTPC

 測定器開発室では,研究会の開催や共同で実施するビームテストの旅費等,各プラットフォームの活動をサポートします。また,各プラットフォームが,検出器開発時に必要となる,KEK が所有する装置や施設の使用と拡充に関する窓口の役割を担っていくことも想定しています。将来的には,プラットフォームの中で,共通の問題に対して協力して開発研究を推進していく,そのような発展を期待しています。分野については,上記の3 つで開始しますが,今後の発展に応じて,新たな分野の導入,あるいは統合など,柔軟に対応していきます。
 このような趣旨に賛同していただける方をコミュニティから募り,各プラットフォームごとに纏め役を選びます。実際の活動内容についてはその纏め役を中心にして,各プラットフォームで自由に決めてもらうことになります。
 現在,高エネルギー物理・原子核・宇宙線・高エネルギー宇宙物理・応用物理学会の放射線分科会に案内を流し,参加希望者を募っています。少しでも興味をお持ちのかたは,全体の纏め役を行うことになった素核研の花垣和則までご連絡ください。
 
 
 
測定器開発室(2019年4月)
  測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、中国高能研(IHEP)と共同で計数型X線検出器(CNPTEG1)の開発を行っている。この検出器の特徴は計数型では世界最小クラスである52 mピッチの六角形ピクセルとピクセル境界近傍に入射したX線のCharge Shareによる多重カウントを低減する信号比較回路にある。ピクセル形状を通常の四角形から六角形にしたのは、四角形では最大4個のピクセルで共有するバンダリが存在するのに対し、六角形では最大3個のピクセルで共有するバンダリとなり、よりノイズに強く、回路規模も小さくできるためである。今回、PFにてピンホールを用いた~10μmの径のX線マイクロビームを用いて、計数型ピクセルの動作確認と多重カウントの抑制効果を確認した。図-1に複数ピクセル内でX線マイクロビームを スキャンさせたときのそれぞれのピクセルでのカウント数、及びそのカウント数の総和を、信号比較回路を動作させない場合と動作させた場合の結果を示す。図からも分かるように、信号比較回路を動作させることで、個々のピクセルでのカウントがそれぞれ分布をもっているが、その総和がほぼ一定になっており、Charge Shareによる多重カウントが抑制されている事が確認できた。今回の結果から、ノイズに強くピクセルサイズの小さな新計数型X線検出器の動作確認ができ、ピクセル境界での多重カウントも排除できることも確認できた。このことから、本計数型X線検出器の今後の放射光X線実験への適用が期待される。
また、ILC対応のvertex detectorであるSOFISTにおいて、ピクセル内に複数のチップ間マイクロ金属バンプを持った3次元積層チップが初めて試作された。図-2はそのチップ写真であり、今後の評価が期待されるが、ピクセル内の規模の大きな回路を内蔵するための技術が確実に構築されつつある。
 

 
 
測定器開発室(2019年3月)
 液体タイムプロジェクションチェンバー(LTPC)グループでは、液体の希ガスを用いたTPCの大型化にむけた開発研究を進めている。希ガスとしてアルゴンを用いた液体アルゴンTPC(LArTPC)では、10kton以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用することを目指している。
  10kton以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m以上にしたいが、ドリフト中に電離電子が液体アルゴン中の不純物に吸収されて、信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出し方法によって、この問題の改善ができる。気液2相読み出しでは、電離電子を液体アルゴンから検出器上部にあるガスアルゴン領域に取り出して、ガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す。読み出しエレクトロニクスを検出器上部に設置することで、低温容器運転中でもエレクトロニクスボードの交換作業が可能となる利点もある。現在、液体アルゴンの大型化について世界的な開発が進められているが、一方で気液2相読み出しの大面積化については、まだ安定運転に課題がある。そこで、LTPCグループでは、大面積な気液2相読み出しの安定性向上を目指している。
KEKでは、小型検出器(30L検出器)を用いた気液2 相読み出しの開発を進めている。まず、新しく開発した面積10cm x 10cmで厚さ1mmのthick GEM(図1)について、増幅率の印加電場依存性を測定し、31kV/cmで増幅率11を得られることを確認した。次のステップとして、30L検出器にこのGEMを設置し、宇宙線試験を行っている。図2のように宇宙線の最小電離粒子が作ったトラックによるイベントを収集し、これらのデータから信号増幅率などの評価を進めている。2018年11月の試験では、約1週間の運転を行った。各電圧(GEM 31kV/cm, Cathode -11.7kV)や液面(変動は1mm以下)などは、安定であった。一方で、GEMの状態変化に起因すると見られる増幅率の長期的な変化が見られており、現在、詳細なデータ解析と追加試験などによるこの変化の理解を進めている。今後は、より高い増幅率(信号利得20以上)や読み出し面の大型化にむけた開発を進め、大面積での気液2相読み出しの安定な運転を目指す。
 

 

 
 
測定器開発室(2019年2月)
 測定器開発室では、高エネルギーX線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)の製作を東北大・応用化学・浅井教授グループとの共同研究として進め、KEK放射光科学研究施設BL-14Aにおいて特性を評価してきた。酸化ハフニウム(HfO2)及び酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子(粒径10nm以下)を添加したPLSの開発に引き続き取り組んでいる。最近、酸化ハフニウム(HfO2)に続いて酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子添加PLSでも市販の鉛5wt%添加PLSであるEJ-256(Eljen社製)を上回る時間分解能0.30ナノ秒(FWHM)を得ることに成功した。このときの受光素子には比例モードで作動するシリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を使用した。Si-APDは通常使われる光電子増倍管よりも高速応答・高時間分解能が期待できる。Si-APDに装着したBi2O3ナノ粒子添加PLSの大きさは~3×3×t0.9mmで、Bi2O3ナノ粒子は溶媒であるポリスチレンに対し5重量%添加され、蛍光体はb-PBDである。検出効率は~2.3%(X線ビームパス3mm当たり)だった。図1はSi-APD上に装着されたBi2O3ナノ粒子添加PLSの写真である。測定時はシンチレータをテフロン・シールで覆った。図2にBi2O3ナノ粒子添加PLS装着Si-APDシンチレーション検出器を使って得た時間スペクトルを示す。測定はPFリングBL-14Aで行い、マルチバンチモード運転での2ナノ秒間隔の時間構造が記録されている。X線エネルギ-は73.04 keV、このとき得られた半値時間幅0.30ナノ秒はX線ピークの時間間隔2ナノ秒から決定した。今後、この検出器を使ってイリジウム193の放射光核共鳴散乱実験(共鳴エネルギー:73.04keV)を実施する予定である。また、分散性・均一性を改良してBi2O3ナノ粒子の重量比を増加させられるようにし、より厚みのあるシンチレータの製作が可能となるように改良したい。
これまでのFSCIプロジェクトの取り組みや応用物理学会での成果発表を通じて、東京インキ㈱との共同研究「高感度・高速X線用シンチレータの開発」が2018年10月から始まったことを報告しておく。医療分野や工業検査分野などでの高速シンチレータ実用化をめざした研究を進める予定である。
 
図1  酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子添加プラスチック・シンチレータを比例モード・シリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)の上に装着したときの写真。
図2 73.04 keVのX線ビームを入射して得た時間スペクトル。PFリング・マルチバンチモード運転での時間構造である2ナノ秒間隔のX線ピークが半値時間幅ΔT:0.30ナノ秒で記録できた。
 

 

 
 
測定器開発室(2019年1月)
2相CO2冷却システムの開発の現状

測定器開発室の活動の一つとして、測定器の効率的な冷却のための2相CO2冷却システムの開発をおこなっており、現在、これまでのR&Dの結果を取り入れた冷却システムの試作3号機の製作に向けた設計を行っている。試作3号機では冷却温度を決定する圧力の制御の自動化、装置の小型化・静音化、そして運転を安定化させるためのリザーバーシステムの導入などが主な改良点となる。
開発したリザーバーシステムは、CO2の凝縮器の直後に1 Lの容積を持ったタンクを設置し、その最上部を約30℃になるようにヒーターで制御し、凝縮直後の液化CO2の温度(15℃~20℃)となる最下部との間に温度勾配を持たせるようになっている。何らかの理由で液化CO2の圧力が下がった場合、その圧力に対応する温度(沸点)となる位置までリザーバー内の液面が下がり、その分、リザーバー内にあった液化CO2が循環回路に流れ込み、それによって圧力の低下が緩和され、運転の安定性が向上する。
リザーバーシステムの試験装置の概要と試験結果を図1に示す。冷却システムから徐々にCO2を排気していくと、圧力が一定の割合で低下した後、平坦な領域が見られ、その後、再度、低下して行くのが観測された。平坦な領域ではリザーバー内の液化CO2がすべて排出され、左図のT3からH-T1までの管内でCO2が2相流になっていると考えられる。さらに排気を進めると、その2相流の気体の割合が高まり、配管との間の熱伝達率が低下し(ドライアウトの状態)、外部からの熱流入が減少して温度が下がり、その結果、再度圧力が低下したと考えられる。この結果から、このリザーバーシステムを用いれば冷却システムからの約150 LのCO2ガスの排気に相当する圧力低下にも対応できると考えられる。
 

 
測定器開発室(2018年12月)
測定器開発室 MPGDグループ 活動報告

測定器開発室のMicro Pattern Gas Detector(MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。その開発目標の1つは、放電しても壊れないGEMを開発することである。前回までに報告したようにセラミックGEM(LTCC-GEM)がその有力な候補となっている。標準的な大きさである10㎝角のGEMを製作して、測定器開発室で開発した電子回路も含めた検出器システムに組み込んで、理研のRANS(小型パルス中性子源)で新たに利用可能になった冷中性子源の特性評価を行った。これまでと同様に、中性子の飛行時間や2次元入射位置を測定可能なことを示すと同時に冷中性子源が期待通りの中性子を発生していることを確認した。図1に得られた結果の例を示す。鉄サンプルに対して、期待通りにブラッグエッジが確認できるし、その付近のエネルギーを持った中性子量が十分に増えていることが示されている。これにより、小型中性子源と開発中のGEM型中性子画像検出器を利用して、鉄などの試料の内部構造を調査できることを示したと言える。LTCC-GEMを中性子検出器として使用するのに心配なことが1つあり、それはLTCCの材質内に中性子の吸収断面積の大きいボロンが少量含まれていることである。そこでLTCCの材料だけを検出器の前面に設置して、そこでの吸収量を再調査した。その結果、図2に示すように、冷中性子領域では、大きな吸収があることが確認された。それと同時に別のセラミック材料(HTCC)では、ボロンが含まれていないので、吸収量が問題ないレベルであることがわかった。前回の報告では、中性子エネルギーが高い成分が多かったので、ここまで顕著な差が出なかったと言える。この結果をもとに、今後は、材料をHTCCに切り替えて開発を進めることにした。
これまで、10 keV程度のエネルギーの中性子まで検出できることは示してきたが、さらに高いエネルギーの中性子(MeVクラス)を捕らえたいというニーズがあることがわかってきた。その場合は、ボロンを変換物質に用いるのは有利ではなく、むしろ、水素を標的として、発生する陽子を検出する方が効率よく測定できる。そこで、ボロンを塗布したカソードの代わりに、プラスチック(PET)にアルミを薄く(0.4m厚)塗布したものに交換して、高速中性子用検出器として製作して、神戸大学海事科学研究科が所有するタンデム静電加速器を使って発生する中性子(エネルギー:数MeV)の検出を試みた。高速中性子の場合は、遮蔽するのが困難なため、画像としてとらえることができることを示すのが難しかったが、10㎝厚のポリエチレンブロックの影をみることができた(図3)。これにより、検出器効率は低いかもしれないが、高速中性子を捕らえることができる検出器への応用の芽が出てきたといえる。
 

 

 

 
 
 
測定器開発室(2018年11月)
第1回「量子線イメージング研究会」

  SOI検出器をはじめ半導体を用いた量子線検出器は様々な分野で求められ開発が行われているが、発表は研究分野ごとに分かれていて、一堂に会して議論する場が少ないという問題があった。
そこで、昨年度まで新学術領域研究を行ってきた「3次元半導体検出器で切り拓く量子イメージングの展開」と、今年度よりスタートした「宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋」の共催、京都大学 SPIRITS 2018 の助成を受け、量子線イメージング研究会実行委員会を立ち上げ、9月25、26日の2日間、京都大学で第1回「量子線イメージング研究会」を行った (https://soipix.jp/qbi2018.html)。
基調講演には昨年度ノーベル化学賞を受賞したクライオ電子顕微鏡用検出器を開発したLBNLのPeter Denes氏をお招きし"CMOS Active Pixels for Electron Microscopy"と題する講演をしていただいた。9件の招待講演の他、ポスター発表が47件あり、そのうち30件がSOI検出器に関するものであった。現在KEKで立ち上げを準備しているSOIコンソーシアムの宣伝も行った。
企業からの研究者も参加しやすいよう、外国人研究者以外の発表は日本語で講演(スライドは英語)することにし、企業からの参加者45名を含む135名の参加を得ることが出来た。研究会は非常に好評で、来年も同時期に姫路で開催することが決まった。
 

2018年9月25−26日第1回「量子線イメージング研究会」参加者。
 
 
測定器開発室(2018年10月)
最近のSCDグループのトピックを紹介する。

[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けたNb/Al-STJの超低ノイズ読出しを実現する極低温SOI(Silicon-on-Insulator)アンプの開発を行っている。ソース接地増幅回路を持つ簡単なSOI増幅回路による極低温でのSTJ光応答信号の増幅読出しには以前成功していたが、今回カレントミラー回路を持つ差動増幅の負帰還による低入力インピーダンス電荷積分型SOI増幅回路の実証テストを行った。産総研CRAVITY製20μm角Nb/Al-STJと共にSOI増幅回路を冷凍機内に設置し300mK程度まで冷却後、STJに可視光(465nm)レーザーパルスを照射し、STJからのパルス応答信号を極低温環境下の電荷積分型SOI回路によって増幅することに成功した(図1)。これによりSTJ信号の速い成分を効率よく読み出すことが可能になると期待される。また、ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子も遠赤外光検出器の候補として開発を続けている。最近では、ハフニウム層形成条件を見直し表面粗さの小さい条件を使用し、リーク電流密度を約3nA/μm2までの低減を達成した。

 
[液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索を目指した超伝導検出器の開発]
 液体ヘリウムの極低温度下(減圧して1.6K)で作動し、液体ヘリウムからのシンチレーション光を直接検出する素子として、超伝導検出器KID (Kinetic Inductance Detector)の開発を行っている。KIDは、外部からエネルギーが超伝導体内のクーパー対を破壊することによって生じる超伝導体の力学的インダクタンスの変化を検知する。厚さ300nm程度のNbからなる超伝導薄膜をシリコン基板上にスパッターし、リソグラフィー技術により、LC共振回路を形成することによりKIDを作製する。外部から励起共振マイクロ波を送り、共振器を励起させる。クーパー対が破壊されると、インダクタンスが変化し、共振周波数が変化する。その変化を励起マイクロ波の位相と振幅の変化から検知する。異なる共振周波数を持つ共振器を複数配置することにより、一本の配線で周波数領域で同時に多重読み出しを行うことができる。超伝導検出器の感度の指標として、全インダクタンスに対する力学的インダクタンスの比αが与えられ、αが大きいほど感度が良くなる。共振周波数の温度依存性を測定し、BCS理論を適用することによりαを測定した。その結果を図2に示す。横軸は検出器の厚さを、縦軸はαを表し、薄いほどαが大きいことがわかる。実線は、BCS理論と電磁シミュレーター( SONNET)を組み合わせて見積もった理論計算値であり、差はあるもの概ねその傾向は再現され、検出器の特性の理解に至った。

 
測定器開発室(2018年9月)
2相CO2 冷却システムの開発の現状

気相と液相が共存する2相状態の二酸化炭素(CO2)を冷媒として用いる測定器冷却システムは、流入熱が液体の気化に使われ冷媒自体の温度が不変であるため、温度が一様な冷却ができ、また単位流量当たりの冷却能力も大きいというメリットがある。最近ではLHC実験やBelle-II実験などでも使われるようになってきたが、これらの実験で採用されている冷却システムでは、測定器から離れたプラントで冷却温度以下まで冷やした液化CO2を作って、それが測定器まで厳しい断熱のされたトランスファーチューブで送られる。測定器開発室では遠隔プラントでは常温付近の液化CO2を作り、それを測定器内部に置かれた低物質量熱交換器で冷却し、それを測定器冷却に用いるというシステムの開発を行っている。
このシステムで重要となる要素の一つが低物質量熱交換器で、そのような熱交換器として、2重管を使った熱交換器が考えられている。図1に示すように、内側の細管に常温近くの液化CO2を流し、その外側に冷却対象から戻ってきた2相CO2を流して、内側を通る液化CO2 を冷却温度近くまで冷やす。この原理を実証するため、内層が1/16インチ、外層が3/8インチのステンレスチューブで、熱交換部分の長さL が40cmの試験装置を製作して、どの程度の熱交換が行われるかを測定した。流量を何通りかに変えて測定した結果を図2に示す。この結果から、わずか40cmの長さでもかなりの熱交換が行われることが分かった。今後は熱交換部の長さを80cm、120cmと変えた試験装置を製作して熱交換効率を系統的に調べる予定である。

 
 
測定器開発室(2018年7月)
 液体タイムプロジェクションチェンバー(LTPC)グループでは、液体の希ガスを用いたTPCの大型化にむけた開発研究を進めている。荷電粒子が通過した際に生じる電離電子を電場により読み出し面まで移動させて、その2次元射影位置と時間情報から粒子飛跡を3次元のイメージとしてリアルタイムにイベント時刻とともにその粒子の詳細な情報を得ることができる。希ガスとしてアルゴンを用いた液体アルゴンTPC(LArTPC)では、10kton以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用することを目指している。
10kton以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m以上にしたいが、ドリフト中に電離電子が水や酸素などの不純物に吸収されて信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出しによって、この問題の改善ができる。そこで、気液2相による電離電子の安定な読み出しを大面積領域にわたり実現することを目指している。電離電子の読み出し方法は大きく2つあり、1つは液体アルゴン中に読み出しストリップ面を設置して荷電粒子が通過した際に生成した電離電子を増幅せずに読み出す方法で、もう1つは電離電子を液体アルゴンから検出器上部にあるガスアルゴン領域に取り出して、ガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す方法(気液2相読み出し)である。気液2相読み出しでは、読み出しエレクトロニクスを検出器上部に設置することで、低温容器運転中でもエレクトロニクスボードの交換作業が可能となる利点もある。
まずKEKにある小型検出器(30L検出器)を用いた気液2相読み出しの開発を進めている。開発の目的は、信号利得20以上での安定な信号読み出しの実証である。気液2相読み出しでは、液領域からガス領域に電離電子を取り出すための電場(2kV/cm以上が必要)やGEMの電場(30~35kV/cm)などを生成するために、放電しやすいアルゴン中に高電圧をつくる必要がある。そこで、外部から10kV以上の電圧を導入するためのフィードスルーを開発した(図1)。また、液面をGEMから一定の距離で維持するために必要となる液面計やCMOSカメラ(低温環境下で動作)なども取り付けた。これまでに、ガスアルゴンの状態でGEMでの増幅の確認(図2)や、液体アルゴンTPCとしての動作確認を進めている。今後は、30L検出器を用いた宇宙線試験を行い、信号の増幅率の確認などを進めていく。

 

 
測定器開発室(2018年6月)
 測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、ILC対応のvertex detectorであるSOFIST(SOi sensor for Fine measurement of Space and Time)検出器の開発を行っている。SOFIST検出器の特徴は、荷電粒子のヒットのあった位置情報と時間を同時に精度良く記録できることにある。図-1に示したピクセル回路でもわかるように、入射した荷電粒子が発生させた電荷をダイオードで検出し増幅した信号を3つ準備されたキャパシタ(メモリ)のどちらかにストアする。同時にヒットを検出する回路があり、電圧ランプでキャパシタを充電している信号をヒット信号で切り離すことで、時間をキャパシタに充電された電圧としてストアすることが可能である。このストア回路は荷電粒子信号・時間信号ともに3つ準備され、連続するビームバンチトレイン内でピクセル当たり3回のイベントを記憶できる。昨年1月にこの検出器を用いてFermilabの120GeV proton beamでの観測を行ったところ、20μm角のピクセルで位置分解能が1.2 μm程度であることを確認した。今年の1月に同じFermilabのproton beam試験で、初めてヒットの時間情報を記憶するタイムスタンプメモリの動作を確認できた。さらにビームラインに2つ配置されたSOFIST検出器からタイムスタンプの時間分解能を算出したところ約2μsと良好な結果が得られた。これによって、SOFIST検出器の基本性能である位置分解能と時間分解能が確認されたことになる。今回の実験で用いたSOFIST検出器はまだ位置計測と時間計測が同一ピクセルではなされていないが、3次元技術を用いて同一ピクセルで位置及び時間計測できるSOFIST ver.4は現在3次元プロセス中であり、今後の評価が期待される。

 
 
測定器開発室(2018年5月)
 測定器開発室では、ILCにむけたピクセル検出器の開発が進んでいる。KEKが推進しているSOI技術を応用したこのチップはSOFISTと呼ばれており、設計開発の中心となっているのは、KEK研究員の小野峻氏と山田美帆氏である。これまで二つのバージョンの開発が終了しており、Ver.1では、そのアナログ信号測定機能とそれによる重心法を用いた位置測定についての性能評価が、2017年米フェルミ研究所のテストビームにおいてなされた。(2017年4月の報告を参照 http://rd.kek.jp/activity.html
  ILCのピクセル検出器では、ビームトレイン内の衝突バンチを識別するための時間測定機能も必要となるが、2017年度に完成したVer.2の試作チップではその機能についての確認がポイントとなっている。2018年の2月昨年同様にフェルミ研究所のテストビームに照射されたSOFIST v2性能評価の速報結果が、3月の物理学会にて発表された。

上のグラフは複数のSOFIST ver2チップからの信号の位置相関について残差分布をとったもので、今回電荷に関するアナログ情報は取られていないため重心法は適用できず、ピクセルのピッチ(25μm)で決まる位置分解能(7.2μm)が期待されるが、現実の測定もそのような結果が得られている。
今回重要な評価となるのはピクセルの時間測定の性能であるが、通過したビーム粒子のタイミングを複数のチップで測定して、その相関をとることでそれが可能となる。
次ページ上図にはそうした時間相関を、下図に二つのチップの残差分布を示している。ここから評価されるチップ当たりの時間測定の広がり(精度)は4.46μsecと計算された。この精度はいまのところ時間測定を行うramp信号をサンプルする際のノイズによって決まっており、今後の改善が期待される。25μm 角の微細ピクセルの各々がマイクロ秒の精度で全く独立に時間測定を行うことは、これまでほとんど例がなくこれによりSOI技術によるSOFISTチップの潜在能力が改めて示されたといえる。なお今回のチップでは、チップの厚みを75ミューmまで薄くするthinning の工程も施されており、今回の結果はthinning が実用的な技術としてILCのセンサーに適用できることも示せたことになる。今年度評価が行われるver.3ではいよいよアナログ測定と時間測定の両方が同一チップ内で実行されるという最終機能をもつSOFISTチップとなっており、その評価結果に大きな期待が注がれている。

 

 
 
測定器開発室(2018年4月)
 測定器開発室のM i c r o P a t t e r n G a s D e t e c t o r (MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。その開発目標の1つは、放電しても壊れないGEMを開発することである。前回報告したようにセラミックGEMLTCC-GEM)がその有力な候補となっている。これまでに標準的な大きさである10㎝角のGEMを製作して(図1)、測定器開発室で開発した電子回路も含めた検出器システムに組み込んで、理研のRANSという小型パルス中性子源を利用して、ビームテストを行った結果、従来のGEMで得られた結果と同様に、中性子の飛行時間や2次元入射位置を測定可能なことを示すことができた。LTCC-GEMを中性子検出器として使用するのに心配なことが1つあり、それはLTCCの材質内に中性子の吸収断面積の大きいボロンが少量含まれていることである。そこでLTCCの材料だけを検出器の前面に設置して、そこでの吸収量を調査した。その結果、有意な吸収を確認できず、問題ないレベルの含有量であることを確認した。

さらに、セラミックGEMを3段構成にすることによって、X線を検出器できるガス増幅度を得られようにして、簡易X線発生装置から出る8keVのX線を利用して、吸収画像を取得した。図2に示すようにきれいな画像が得ることができ、X線検出器としてもこれまでのGEMと同様に使用できることが分かった。
 KEK、茨城県と筑波大学と共同で開発を進めているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)施設で2018年2月に開発した中性子検出器を使用することによって、発生して いる中性子のエネルギー分布と空間分布の一部を測定することができ、今後の発展が期待されている。

2017年12月には、第14回MPGD研究会を盛岡市の岩手大学で行った(図3)。少し遠方であったためか参加者は例年より少し少なめの50名程度であったが、講演数は例年と変わりなく20講演あり、大学の研究者はもちろん、企業からも参加者もあり、活発な議論が行われた。また、初めて液体TPCの講演もあり、その分野との共催も今後の発展として興味深いものであると感じられた。

図1: 製作されたセラミックGEM

図2: セラミックGEMを用いたX線検出器で得られたX線吸収画像

図3: 盛岡市岩手大学が開催された第14回MPGD研究会の集合写真
 
測定器開発室(2018年3月)
 測定器開発室では、高エネルギーX線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)を製作、KEK 放射光科学研究施設 BL-14A において、その特性を評価してきた。シンチレータ製作について、東北大・応用化学の浅井教授グループと共同研究をおこなっており、最近の研究では、酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子(粒径 10 nm 以下)を添加した PLS で進展があった。シンチレータの合成は、テトラヒドロフラン(THF)にポリスチレンを溶解させ、蛍光体としてb-PBD や DPO と POPOP の混合物を 0.5 mol%,および超臨界水熱法により合成した有機修飾 Bi2O3 ナノ粒子を添加しナノ粒子分散液とする方法で行う。ナノ粒子の添加率は、ポリスチレンに対して 5, 10,15, 20 重量(wt)%とした。この溶液を常温で乾燥させることにより厚さ 1.0 mm 前後のナノ粒子含有 PLS を作製した。シンチレータ特性の評価は放射光単色 X 線ビーム(67.4 keV)を重元素添加 PLS に入射して発光させ、光電子増倍管とパルス増幅器を使ってパルス信号に変えて、その波高分布と時間スペクトルを測定することにより行っている。評価用測定系を図1に示す。蛍光体 DPO と POPOP を加えた Bi ナノ粒子添加 PLS の 5wt%の発光量 5800 ph/MeV は,市販の鉛 5 wt%添加 PLS である EJ-256(Eljen 社製)の 5200 ph/MeV を上回った。検出効率は 5 wt%以上で EJ-256 を上回り、ナノ粒子を添加する比率が多くな るほど増加した。表1に、厚さ 1 mm に換算した X 線 67.4 keV に対する検出効率を示す。 酸化ハフニウム(HfO2)ナノ粒子添加 PLS と比例モードで作動するシリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を受光素子とする放射光実験用 X 線検出器を使った結果で は、67.4 keV の X 線に対する時間分解能は b-PBD を蛍光体とする場合で 0.34 ns(FWHM) を得た。蛍光体 DPO と POPOP を使っていると推測される EJ-256 で得られた 0.54 ns(FWHM) より優れた値が得られた。この検出器は放射光核共鳴散乱実験に応用するためのプロトタ イプをかねており、今後、酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子を含む PLS を搭載する多チャ ンネルの Si-APD シンチレーション X線検出器を完成させて、イリジウム 193 の放射光核共鳴散乱実験(共鳴エネルギー:73.0 4keV)を実施する予定である。

 
測定器開発室(2018年2月)

2相CO2 冷却システムの開発の進展
高速化・高集積化の進む先端的測定器においては高効率でしかも低物質量な測定器冷却システムが不可欠となる。2相CO2 冷却システムはそのような要件を満たす冷却システムとして、LHC 実験やBelle-II 実験でも採用されるようになってきた。一方、これまでの2相CO2 冷却システムでは、測定器から離れた冷却プラントから測定器の間で冷却温度以下に冷えた液化CO2 を輸送する必要があるため、配管に厳重な断熱加工が必要であった。測定器開発室では常温に近い液化CO2 を測定器の近傍、あるいは内部まで送り、そこで熱交換および減圧を行って必要とする冷却温度を得るという、新しいタイプの2相CO2 冷却システムの開発を行っている。

測定器内部で熱交換および減圧を行うためには、荷電粒子の多重散乱を避けるため、低物質量の熱交換器が必要となる。そのような熱交換器として、2重管による熱交換器が考えられている。内側の細管に常温近くの液化CO2 を流し、その外部に戻りの低温の2相CO2 を流す。細管には減圧の機能も同時に持たせる。そのような2重管式熱交換器の開発の一環として、細管による圧力損失の測定が行われた。長さが40cm で内径が1.0mm と0.5mm の2種類のステンレスチューブに液化CO2 を流量をいろいろ変えて流し、その際の圧力損失を測定した。結果を図1に示す。測定結果(赤丸)は計算で求めた値とほぼ一致しており、実機の設計に際しては計算に頼ることができることが明らかとなった。


測定器開発室(2018年1月)

最近の Silicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器関係のトピックを紹介する。

[ IEDM招待講演 ]
2017年12月2-6日にサンフランシスコで開催された、半導体デバイスの国際会議で最も権威があると言われる International Electron Devices Meeting (IEDM)において招待講演を行った。”SOI Monolithic Pixel Technologyfor Radiation Image Sensor”と題して発表を行い、特に新しく考案したPinned Depleted Diode(PDD) 構造に注目された。

[HSTD11 & SOIPIX2017 国際会議@沖縄]
2017年12月10-15日の間、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、第11回 “Hiroshima”Symposium on the Development and Application of Semiconductor Tracking detectors (HSTD11)と第2回Workshop on SOI Pixel Detector (SOIPIX2017)  の合同国際会議を開催した。海外からの参加者約120名を含め、例年の倍近い約190名の参加者があり、素晴らしい環境のもと、最新の成果発表と活発な議論が行われた。


図2 . OIST での HSTD11 & SOIPIX2017 会議の様子


図 1. (上)PDD構造、(下)テールの無い鋭いX線エネルギーピークが得られた。


測定器開発室(2017年12月)
 液体アルゴン中を荷電粒子が通過した際に生じる電離電子を電場により読み出し面まで移動させて、その2 次元射影位置と時間情報から粒子飛跡を3 次元のイメージとしてリアルタイム にイベント時刻とともに読み出す液体アルゴンタイムプロジェクションチェンバー(LArTPC) の大型化にむけた開発研究を進めている。10kton 以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュ ートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用 することを目指している。

測定器開発室LTPC グループでは、大型化に必要な要素技術の開発研究を進めている。大型 化にむけて、液体アルゴンの純化、TPC 内部電場形成のための高電圧生成、高い信号-雑音比 で電荷信号を読み出すためのエレクトロニクスなど、新しいデバイスやシステムを開発するた めに内容量30L の小型液体アルゴンTPC 検出器を作成し、まずこの検出器を用いたTPC 内部 電場の理解を進めた。宇宙線トラックからの信号データと有限要素法を用いた電場シミュレー ションの結果を比較して、電場の歪みによる信号量の位置依存性や電場歪みの要因を理解する ことができた。

10kton 以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m 以上にしたいが、ドリフト中 に電離電子が水や酸素などの不純物に吸収されて信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出しによって、この問 題の改善ができる。そこで、次のステップとして、気液2 相による電離電子の安定な読み出し を大面積領域にわたり実現することを目指している。電離電子の読み出し方法は大きく2 つ あり、1 つは液体アルゴン中に読み出しストリップ面を設置して荷電粒子が通過した際に生 成した電離電子を増幅せずに読み出す方法で、もう1つは電離電子を液面の外に取り出して ガスアルゴン中でガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す方法(気液2 相読 み出し)である。まず30L 検出器を用いた小型TPC での気液2 相読み出しの安定性の実証を 行なっている。現在、10cm x 10cm のGEM 基板(1mm 厚。図1)を取り付けて、気液2 相読み 出しによる宇宙線データ取得にむけた準備を進めている(図2)。2 相読み出しを行うには、 液体アルゴンの液面をGEMから一定の距離を開けて維持する必要があり、そのための液面計 校正や液面の確認のために低温環境下でも動作するCMOS カメラの準備も進めている。今 後は、小型検出器での気液2 相読み出しの安定動作を実現し、その後大面積領域での安定動作の 確立にむけた開発研究を進めていく。

図1: 小型検出器に取り付けた1mm厚GEM

図2: 30L 小型検出器の全体写真。

測定器開発室(2017年11月)
SCDグループ(筑波大 武内、岡山大 石野)
[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けた Nb/Al-STJ +超低温増幅読出し,及びハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子(Hf-STJ) を究極のエネルギー分解能を実現するマイクロカロリメータ検出器として開発を行っている。STJ 光応答信号の SOI 極低温増幅読出しの実証テストについては,前回(2017 年 3 月)に報告した.今回はより実用的な回路として,差動増幅の負帰還回路による低入力インピーダンスの電荷積分型増幅回路の極低温動作を検証した(図1).Hf—STJ に関しては,表面粗さ RMS が 2.5nm と比較的なめらかなハフニウム成膜による 200µm 角 Hf-STJ が,リーク電流 7µA(T=140mK)を達成した(図 2).これは,我々のグループでこれまで実現していた Hf-STJ リーク電流密度の約 1/16 にあたる.
図 1 . SOI O pAmpによる電荷積分増幅の3ケルビンでの動作.入力電荷 100fC に対し23mVの出力を得た. 図 2. ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子の電流電圧特性.表面粗さの小さい条件(RMS=2.5nm)を用いた Hf-STJを作製.リーク電流 7µA (200µm 角,T=140mK) を達成


[液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索用超伝導検出器の開発]
反跳液体ヘリウムによって生じるシンチレーション光を、液体ヘリウム内で作動する超伝導検出器 KID (Kinetic Inductance Detector)で検出し、軽い暗黒物質の探索を行うことを目的とする。エネルギー付与に対する KID の感度を 2 つの方法から評価している。一つ目は、共振周波数の温度依存性を測定することにより、KID の全インダクタンスに対する力学的インダクタンスの比αを求める方法である。図 3 に典型的な共振数波数の温度依存性を示す。このデータを、Matis-Bardeen の理論式でフィット(赤線)することにより、αの値を決定することができる。
求まったαの値は 0.03 程度であり、これは電磁シミュレーション(SONNET)で評価した値と一致した。この値から、1 つの準粒子ができた時の検出器の位相変化が、dθ/dNqp=1.3x10-10 と求まった。もう一つの方法は、可視光レーザーパルスを検出器に直接照射し、そのリニアリティ応答から求める。赤(660nm)と青(405nm)の 2 色の幅 10nsec のレーザーパルスを液体ヘリウム内の KID に直接照射し、その応答を付与エネルギーの関数としてフィットした。それぞれのパルスレーザー光の光子数は、光電子増倍管を用いて較正し、KID アレイを用いて評価したビームの広がりから、1 素子あたりに付与されるエネルギーを見積もる。図4に、2 色のリニアリティの測定結果を示す。両方とも同じ感度を示すことを確認した。二つの方法の無矛盾性を検証するには、KID を読み出す室温増幅器の利得やマイクロ波部品での損失を考慮する必要があり、今後の課題である.

図3:KID の共振周波数の温度依存性。黒い十字点はデータ、赤線は理論式によるフィット結果。α=0.03 が得られた。 図4: 2 種類の波長のパルス光に対する KID のエネルギー付与に対するリニアリティ応答。

測定器開発室(2017年10月)
 測定器開発室のMicro Pattern Gas Detector(MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。GEMは、2 次元画像を取得できる放射線検出器として有効なものであるが、50μm 厚という薄い絶縁材の両面間に高電圧を印加する必要があることから、放電により絶縁不良が起こり、使えなくなるという問題があった。これは、あまり取り扱い慣れていない他の分野への普及ということを考慮すると大きな障害であった。そこで、放電しても壊れないGEMを開発することをMPGD グループの開発目標の1 つとしてきた。
高抵抗素材を利用して、放電を局在化することによって、壊れないGEM を開発することを長年にわたり行ってきた。適切な抵抗値をもった材料を安定して製作することがなかなかできずに苦戦してきたが、最近、導電性高分子コーティング剤を塗膜したGEM で信号がきれいに見えるようになってきた。
また、耐アーク放電性のよい絶縁材料としてテフロンGEM の開発も行ってきた。最近製作した50μm 厚のテフロンGEM では、何回放電させても絶縁不良が起きないことを確認すると同時に、これまでのGEM と置き換えて中性子検出器として動作することを確認した。残念ながら、GEM の孔加工が難しく、安定して、安価に製作する見通しが立たないという問題が残っている。
そこで、最近、セラミックを用いたGEMの試験を東京都立産業技術研究センターと共同で行った。セラミックGEMは、グリーンシート呼ばれる材料の両面に導電性ペーストをスクリーン印刷で電極として塗布して、ポンチ加工でGEM孔をあけた後、焼結することによって、仕上げるものである。これは、セラミックであることから耐アーク放電性に優れているので、放電による炭化が起こらないために絶縁不良にならない。また、材料内に中性子散乱の断面積が大きい水素がないことからも中性子検出器に適しているといえる。さらに、焼結後は、固く、張力なしでもたわみが発生しないので、平面性を出すのにも都合がよいものとなっている。最近、これまで使用してきたGEM と同じ10 ㎝角の大きさのセラミッ クGEMを製作することができた(図1)。これをこれまで開発してきた検出器内にセットすることによって、中性子検出器として動作することを理化学研究所にあるRANS と呼ばれるパルス中性子源を利用して、確認した。図2 に得られた中性子の飛行時間分布、図3に2 次元画像を示す。これらの結果からセラミックGEMは、これまでのGEMと同様に使用することが可能であり、壊れないGEM として有望であることが確かめられ、今後の展開が大いに期待されるところである。
図2 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた飛行時間分布 図3 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた2次元画像

図1 製作されたセラミックGEM


測定器開発室(2017年8-9月)
 測定器開発室では、高エネルギーX 線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高 速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。ハフニウムやビスマスなどの重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)を製作して、その特性を評価している。実験はKEK 放射光実験施設BL-14A で行った。5 テスラの超伝導電磁石によって曲げられた電子からは通常の偏向電磁石と比べて30keV を超える高エネルギー領域でより強いX 線が放射される。放射光実験用X 線検出器としての高速シンチレータの実用性を評価するため、シリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を受光素子とする検出器を使った。200 倍程度まで電荷増幅が可能でナノ秒幅の高速パルス出力が得られるものを開発してきた。この検出器は放射光核共鳴散乱実験に応用するためのプロトタイプをかねており、市販の鉛5wt%添加PLS(EJ-256)を使った場合、良好な低ノイズ性能と67.4keV のX 線に対し時間分解能0.5ns(FWHM) が得られた(Nucl.Instr.andMeth.A806(2016)420) 。実際にSPring-8 ビームライン BL09XUでのニッケル61 核共鳴前方散乱測定にも成功した。最近、73.0keVの光子に対して検出効率16%以上(通常使われる検出器の倍程度)を有する、より実用的な検出器を製作した。図1はその外観、図2は内部の様子を示す。入射する光子ビーム方向に大きさ3×3×3mm3 のEJ-256 を4 個並べ各APD素子と~60dB の大ゲイン高速アンプにより出力パルスを得るものである。現在、イリジウム193含有試料を使った核共鳴散乱実験で使用できるように調整を進めている。ビスマス酸化物ナノ粒子を含む高速PLS を取り付けて、より高い時間分解能かつ高い検出効率で測定することを目標としている。
図 1 検出器システムの外観


図 2 システムの内部

測定器開発室(2017年7月)

最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[プレスリリース:世界最高精度の放射線測定センサーを開発]
6月23日にKEKと筑波大から下図のようなプレスリリースを行なった。これは、5月に北京で開催されたTechnology and Instrumentation in Particle Physics (TIPP2017)会議で発表した内容で、SOI検出器により高エネルギー陽子ビームの位置分解能0.7 mmを達成したというものである。

 


図1。筑波大学のお知らせWebページ (http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201706231400.html).
[第8回SOIPIX研究会]
第8回目の新学術領域研究会が6月29−30日の2日間に渡り宮崎大学で開催された (http://soipix.jp/226.html)。領域研究のメンバーの一人であり、技術者のノーベル賞とも言われる「エリザベス女王工学賞」を今年受賞した寺西信一氏の受賞講演の他、5件の招待講演、19件の研究発表、12件のポスター発表があり、活発な議論が行われた。

図2。第8回目の新学術領域研究会@宮崎大学集合写真。

測定器開発室(2017年6月)
 5 月21−26日中国北京のオリンピック会場跡地にあるBeijing International Business Center において、第4 回のTechnology and Instrumentation in Particle Physics(TIPP2017)が開催された。これは2009年KEK の主催にてつくば市でその第一回が始まった、我々には因縁浅からぬ国際会議である。今回も測定器開発室関係の研究から7件の講演が採択され、成果発表を行なった。
中でも注目を集めたのは、SOI ピクセルセンサーについての最近の進展で、Double SOI を使ったセンサーの高い放射線耐性の実現、高エネルギービームを用いた試験によるサブミクロン一精度の位置分解能の実証(機構会議報告、本年4月を参照)、同じくアナログメモリーを使ったILC向け新型計数型ピクセルチップによる2ミクロンを切る位置精度の実証など枚挙にいとまがない。図1に示すのは、SOI コラボレーションの筑波大・原准教授によって示された放射線耐性に関するスライドで、100kGy 相当の放射線の照射後も正常な空乏層形成が行われ、minimum ionizing particle (MIP)の信号を高いS/N 比で検出できることが示されている。最近の試験では、さらに照射量を10倍まで高めたとのことで、電子陽電子衝突実験のみならず、ハドロンコライダーのトラッカーとしての応用可能性も見えてきて、SOI ピクセル技術に対する期待がますます高まった会議と言える。
図1

測定器開発室(2017年5月)
 2017 年4 月22 日(土)の午後、KEK にてアクティブ媒質TPC 座談会が行われた。アク ティブ媒質TPC とは、標的、ソース、コンバージョン機能を果たすアクティブな媒質を用いたTPC(Time Projection Chamber)のことで、近年では暗黒物質探索、ニュートリノ物理研究、医療用PET や宇宙観測などを目的とした研究において、その開発研究が盛り上がっている。国内でも、陰イオンガス、高圧ガス、液体(Xe,He,Ar)と多様な研究が行われており、これらの開発研究については要素技術で共通な部分も多い。そこで、開発の現状や失敗談などについてざっくばらんな話しや情報交換をする機会として、この座談会が開催された。2015 年8 月にも液体TPC について同様な座談会が開催され活発な議論があった。一方でそこでの反省点として、必要とする検出器技術は他のアクティブ媒質TPC にも共通することから、今回はアクティブ媒質TPC を用いた実験プロジェクトを立ち上げている国内の大学メンバーとも相談して、本座談会を企画した。土曜日の開催にも関わらず、国内各大学及びKEK から25 名の参加があり、実際に現場で開発を行っている大学院生の参加も多く、活発な議論が展開された。
プログラムは[1]に公開されている。国内の各実験プロジェクトから、プロジェクトの特徴と技術開発(開発した部分、苦労している点、今後の開発にむけて聞きたいところ)についてトークがあった。開発要素として、高電圧生成装置、TPC 内部の電場理解、シンチレーション光検出、電離電子の増幅や読み出しエレクトロニクスなど多くの共通部分があり、それぞれの開発ついて議論が盛り上がった。特にTPC フィールドシェーバーに高圧印加した際の放電については多くの実験プロジェクトで問題となっており、解決にむけて様々な情報交換が参加者の間で行われた。また、アクティブ媒質TPC を用いた今後の実験計画についても発表があり、検出器開発にむけた情報交換ができたと考えられる。
会の最後には、今後の座談会のありかた等についても議論を行なわれた。今回のような座談会が有用であるという意見が多く、今後も同様な機会を年1 回のペースで開催する予定である。
[1] https://conference-indico.kek.jp/indico/event/20/overview

測定器開発室(2017年4月)
SOI ピクセルセンサー、FNAL ビームテストで世界最高のトラッキング精度を実証

測定器開発室では、SOIピクセルを使った荷電粒子の高精度飛跡検出器(トラッキング)も、最重要な課題として取り組んでいる。こうした応用では、SOIの以下のような特長を活かしてこれまでにない高精度(高位置分解能)の測定ができると期待されてきた。
1. モノリシック構造がもたらす、ボンディング技術に制限されない超微細なピクセル
2. 高抵抗シリコンによる独立したセンサー層に形成される十分な厚みの空乏層による大きな信号電荷とその適度な広がり
3. フロントエンドエレクトロニクスが直結されることによる低ノイズと高機能

隣り合うピクセルでの電荷の分割比を使うことで、荷電粒子入射位置の測定精度は、ピクセルピッチに対して格段に良くなることはよく知られているが、その到達精度はセンサーのS/Nにより決まってくる。したがって、上記に列記した特長は高精度トラッキングの測定器として、SOIピクセルがうってつけのデバイスであることを示している。
SOIプロジェクトではその特性の実証用として、二つのシリーズのチップを開発している。一つは究極の微細ピクセルを目指して8μmのピッチサイズのピクセルアレイを実現したFPIX(左図), もう一つは将来のILC実験などでの崩壊点検出器での実用を視野に入れて、要求される機能性を盛り込んだ大きめのピクセルサイズ(20μm)を持つSOFISTである。

この2種類のチップが、昨年末からFNALのテストビームエリアに持ち込まれ、トラッキング試験が行われた。使用されたビームは多重散乱を最小限とするため、120GeV/cの高運動量proton beamである。残念なことであるが、こうした試験をできる設備は日本国内には存在しない。 テストでは右図のように4枚のFPIXと2枚のSOFISTが並べられ、通過した粒子のトラッキングを行い、その測定能力の評価を行った。 次ページに示したのは、2層目以外のFPIXを使ってトラッキングされた粒子の2層目での通過予想位置と実際の2層目での測定位置の残差分布である。これは2層目FPIXの測定精度とその他のFPIXによるトラッキングの誤差を足し合わせたものとなるわけであるが、1μmを確実に下回ることがみてとれる。すなわちFPIX単体の測定精度はサブミクロンのオーダーであることを確実に示していることとなる。 これまでの世界最高のトラッキング性能はMPIで開発されたDEPFET検出器の1μmであるといわれており、今回試作されたSOIピクセルセンサーはこれを確実に凌駕して、世界で初めてサブミクロンの計測精度を達成したといえる。
同様の解析が、SOFISTチップにについてもなされ、20ミクロンピッチのピクセルながら、σ=1.7μmという結果を得ている。こうした結果はいずれも、preliminaryな解析による速報値であり、今後の詳細な解析によりさらに改善されていくものと思われる。いずれにせよ、今回のビームテストによって、SOIピクセルセンサーが粒子検出器史上初めてμmの精度を超えて、新しいトラッキングの世界へ導いてくれることがしめされた。
この偉業を達成したSOIピクセルプロジェクトのグループに、改めて大きな賛辞をおくりたい。

図1

図2

図3


測定器開発室(2017年3月)
 最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けたNb/Al-STJ の超低ノイズ読出しを実現する極低温SOI(Silicon-on-Insulator)アンプの開発を行っている。SOI 増幅回路の極低温動作の実証テストのため,産総研CRAVITY 製20μm 角Nb/Al-STJ と共にSOI 増幅回路を冷凍機内に設置し300mK 程度まで冷却後、STJ に可視光(465nm)レーザーパルスを照射し、STJ からのパルス応答信号が極低温環境下のSOI 回路によって増幅されたことが確認された(図1)。また,ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子も遠赤外光検出器の候補として開発を続けている.最近では、ハフニウム酸化層の上に薄いアルミニウム層を用い、従来のHf-STJよりリーク電流密度を約1/16 に低減に成功した。このサンプルで可視光パルス(465nm)応答を確認している。

[液体ヘリウム紫外線シンチレーション光検出を目指す超伝導光検出器]
液体ヘリウムを標的とした軽い暗黒物質の探索実験のために、反跳ヘリウムによって生成されるシンチレーション紫外線光子(16 eV)を、液体ヘリウム中で直接検出する超伝導検出器の開発を行っている。超伝導検出器として、力学的インダクタンス検出器(KID, Kinetic Inductance Detector)を利用する。今年度は、KID の検出器素子アレイを周波数領域で多重にパルス信号を読み出す、FPGA を用いた読み出し装置の開発を行った。周波数領域を時間領域に変換し、セルフトリガー機能を実装することにより、一本の配線で20 素子のパルス信号(時定数~1μ秒)を同時に読み出すことに成功した。 図2 は、0.3K に冷却したシリコン基板にAm-241 からのα線(5.5 MeV)を照射した際に生じるフォノン信号を、Al で形成されたKID で、15 チャンネル同時に計測した様子である。この読み出し回路の開発により、外部から液体ヘリウムへの読み出し配線による熱流入を格段に減らすことが可能になった。また、KID の素子間のクロストークの理解も進んだ。素子の形状を形成する際のエッチングによる効果と、素子間のキャパシ ティブ・インダクティブな結合が主な原因であることをつきとめた。前者は、数nm のAlN 膜をシリコン基板表面に覆い、後者は、素子の間にグラウンドを配置することにより、クロストークを抑制することに成功した。一方、このような構造は、光子の検出効率を悪くする可能性がある。現在、改良した素子の光への感度を測定を行っている。


図1 Nb/Al-STJの光パルスに対する応答信号を同じく冷凍機内に設置 したSOI回路によって信号が増幅されている


図2 FPGAで開発した専用の読み出し装置で、15の検出器素子を一本の配線で周波数領域において検出したフォノンパルス信号


測定器開発室(2017年2月)
最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[Fermilabでのビーム実験]
SOI検出器は厚い空乏層を実現できることからまずX線応用が広がったが、当初からの目的である素粒子実験の崩壊点検出器としても低物質量・高位置分解能・高機能検出器として優れた特徴を持つ。これらの特徴を実証するためフェルミ国立研究所の高エネルギー陽子ビームを使った実験を現在行っている。昨年12月に筑波大グループと共に実験に臨んだ際は残念ながら加速器の故障で実験を行なえなかったが、1月半ばからの再チャレンジでは大量のデータを取ることができている。データ解析はこれからだが、世界初の1ミクロンを切る分解能を目指している。

[温度制御付きセミオート・プローバ]
半導体の各種特性を理解するためには、温度を変化させながら、大量のデータを集め解析することが重要だが、これまではKEKにそのような装置がなかった。今回、-65℃から200℃まで温度変えることの出来るセミオート・プローバを先端計測実験棟のクリーンルーム内に導入することとなった。2月中には周辺工事も終わり、3月からは温度を変えながらウエハー内の多数の素子特性を自動的に測定できるようになる予定である。

図 1. Fermilabのビームラインで実験準備をしている様子。

図 2. 温度制御付きセミオート・プローバ。

測定器開発室(2017年1月)
  測定器開発室では、サブナノ~ナノ秒の発光寿命で30keV以上の高エネルギーX線領域の光子に対しても高い検出効率を有する高速シンチレータの開発を行っている。シンチレータは放射線検出媒体として形状・大きさが比較的自由であり、検出効率や立体角を確保しやすい特徴がある。重元素を含むシンチレータであればMeV領域のガンマ線光子の検出だけでなく、高エネルギーX線領域の光子検出にとっても1mm以下の薄いシンチレータで大きな検出効率が期待され、多チャンネルでも小型化できるなど検出器の高機能化につながる。さらに発光寿命がナノ秒以下の高速シンチレータであれば、ナノ秒幅パルス出力によって毎秒107を超えるような高計数率測定も可能となる。
最近の成果として、重元素のハフニウム酸化物ナノ粒子を多く含むプラスチックシンチレータ(PLS)の製作について報告する。2ナノ秒程度の減衰時間で高速発光するPLS中に重元素酸化物をナノ粒子のまま分散させることによって、シンチレーション光がシンチレータ内部で透過しやすいまま重元素の重量比を上げることを狙うものである。分散しやすいように有機分子で表面修飾した状態で重元素酸化物ナノ粒子(径~5ナノメートル)を製作することが重要である。そのため超臨界水熱合成法を使った。超臨界水は臨界点374℃、22.1 MPaを超えた状態の水で無極性になっており、無極性な有機溶媒と混ざりやすく反応性も高い。この性質を利用して粒子の合成と同時に有機修飾する。図1のような方法で有機表面修飾されたHfO2ナノ粒子を製作した。:1)Hf(OH)4を水に加え、有機修飾剤としてフェニルプロピオン酸(PPA)を加える。2)水の亜臨界条件(30 MPa, 反応温度: 300℃)で10分間反応させる。3)合成後、トルエンを用いて回収、乾燥させて有機層中のナノ粒子を得る。
実際に製作されたシンチレータの写真を図2に示す。直径3mm、厚さ約1mm、ハフニウム10重量%を含有する。溶媒はポリスチレン、蛍光体はb-PBDを使った。このシンチレータの側面より放射光X線ビーム(エネルギー:60.0keV)を入射してSi-APDを受光素子とする高速検出器で特性を評価したところ、市販の鉛5重量%添加PLSと比較して検出効率は同程度であったが、時間分解能は市販PLSを上回る0.33ナノ秒(半値幅)を得た。ナノ粒子による効果が寄与したと考えている。今後、合成法の改良、他の重元素添加などの研究を行う。なお、本研究は東北大学・工・応用化学・浅井研究室との共同研究として進めている。

 


図1


図2

 
このページは測定器開発室で更新作業をしております。