先端加速器推進部 
 活動報告
 
[最新の活動報告] [2014-2013] [2012-2011] [2010-2009]

測定器開発室 (2010年 11月報告)
1  測定器開発室では様々な開発プロジェクトで必要になる開発・計測機器の導入やそ の有効活用のための公開を積極的に進めている。縦割り型の体制ではややもすると閉鎖 的になる機器の利用を促進する事はきわめて重要である。なかでもフォトンセンサー開 発プロジェクトでは、これまでも開発研究の共同研究者をサポートすることにも力を注 いでおり、研究で必要となる電源、信号処理エレクトロニクスなどとともに、評価試験 用各種光源装置を外部ユーザーも簡単に利用できる体制を造ってきた。
光センサーの評価では、選択されたスペクトルを持 つ、時間・空間的に局在され、制御された光子の発生装置が必要とされる。フォトンセンサーグループがこの10月から公開した光源装置は、励起レーザーとOPO からなる一体型の小型チューナブルレーザーで410−2200nmの範囲で連続チューニング可能である。パルス幅は5nsで20Hzでの発振を行う。 組み合わせた顕微鏡の光学系により、10ミクロン以下のスポットサイズを結像することができ(右写真は以前の装置による映像)、半導体センサーの不感エリアの評価や受光面(例えばPPD 素子のピクセル)内の微細な感度分布を光子のスペクトル依存性として測定することも可能となる。同様にセンサーの時間特性をスペクトルの依存性として捉えることもでき、センサー内部のより詳細な評価と理解がシステマティックに行うことが期待できる。下にそうしたスキャン測定で得られた典型的なPPD素子の感度分布を示す。

各界の期待を集めるこのPPD 素子であるが、その大きな特長は量子効率が従来の光電子増倍管に比べて容易に高くできる(50%以上)と期待されることである。しかし多くの測定が、連続光による光電流測定に基づくもので、クロストーク・アフターパルスなどのPPD固有の現象による余計な「光電流」が測定を歪めている疑いが、指摘されている。そのため、システマティックな短パルス光による量子効率のスペクトル依存測定は、緊急に求められている課題であると言える。今回の光源はこうした測定をするのに好適であり、測定結果が待たれる。装置は南実験準備棟108号室に設置され、稼動状態となっている。現在最初のユーザーとして、開発室の別プロジェクトであるSOI ピクセルグループがその赤外光を使った評価試験を始めた。
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ball 測定器開発室 (2010年 10月報告;9月分)
1  測定器開発室では次世代monolithic pixel検出器の最右翼として、SOI(Silicon On Insulator)技術を使ったピクセルセンサーの開発を積極的に推進している。すでに報告 されているようにこのSOIピクセルセンサーにおいて最も深刻な課題であった、バック ゲート効果(センサー側のバイアス電圧が読み出しエレクトロニクス側の動作に影響を もたらす事)は、新たに導入されたBPW(Buried P Well)構造によってほぼ解決され た。これにより開発プロジェクトは実用化に向けた最後の高いハードルを越えた。

このBPW構造を持つ試作チップは現在様々な角度から評価が進められており、9月 の物理学会年会(九州工大)においても、いくつかの報告がなされた。試作されたピク セルチップの性能評価は、X線画像への応用を強く意識して、これまで放射光・X線管 などによるテストが行われてきた。一方素粒子・原子核実験における崩壊点測定器とし ての応用には、minimum ionizing particle(mip)測定に対する性能が重要であり、高 エネルギー荷電粒子ビームを使ったテストを行 う必要がある。そこで本年8月、CERN‐SPS ‐ENH1におけるビームテストをLBNLチーム と実施した。200GeV/c π-ビームを使ったテスト では、機材準備の都合上積分型ピクセル (INTPIX3)を3ミリ秒の積分時間の非同期モ ードでデータ収集を行ったため、ノイズレベル の高さがいささか気になるものの、右図に示す クリアなmipシグナルをとらえることに初めて 成功した。この後9月末には東北大学電子光理 学研究センターの電子ビームを使って、パルス 動作のCNTPIXチップともどもじっくりと評価 する予定である。BPW構造によるバックゲート効果の 抑制に加えて、センサー部として働くハ ンドルウェファー部に新たに高純度の FZシリコンを導入することで,空乏化電 圧そのものを低くする試みがなされた。 左図はこの新しいウェファーによって、 従来のCZ型に比べ200V以上低い電圧 で十分な空乏層厚が得られたことを示し ている。これにより高いエネルギーのX 線を効率良く捉えることの出来る厚いセ ンサーの開発に必要な技術のめどがつい てきた。

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SuperKEKBや将来の加速器(ILCなど)向け崩壊点検出器には,厚みを限界まで抑 えた薄型検出器の開発はとりわけ重要である。そのための試みとして,センサーとして 働くハンドルウェファーの薄化技術(thinning)の開発が精力的に進められている。半 導体デバイスはそもそも表面状態や極微少量の不純物の存在などに極めて敏感で、その 特性を容易に損なうことでよく知られてお り、出来上がったデリケートなピクセルセン サーを機械的/化学的に研磨することは、極 めて困難と言われている。右図は今回開発さ れた方法でthinningを行う前(青)と後(赤) のウェファーから取られたサンプルチップ のI-V特性を測定した結果である。これから わかるように、今回のthinnnig工程は検出器 の性能の劣化をほとんど引き起こしていな い。かくしてピクセルセンサーの薄型化に向 けて大きな前進を期待することができる。に向けて大きな前進を期待することができる。

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SOIピクセルセンサー・プロジェクトは、その半導体プロセス自体が産業界にお いても未だ主流ではないため、半導体センサー開発としては世界的にもユニークな地位 を占めている。一方センサー試作のための半導体マスク設計・プロセス投入は、極めて コストがかさみ、KEK単独で年間複数回の投入を行うことは著しく困難である。そこ で、世界各国のSOI技術に興味を持つ半導体センサーの開発者たちに、開発チップのエ リアを分割し(MPW:Multi Project Wafer)コストをシェアすることが積 極的に推進されてきた。こうすること で、各国の研究者はアクセスが困難で あった産業レベルの高度なSOI技術を 利用したセンサー・エレクトロニクス の開発が可能となる。また我々は極端 に大きな開発予算を使うことなく年 間複数回のプロセス投入が可能とな る。もちろんプロセスを行うメーカー も、より多くの投入が見込めればファ ンドリービジネスとしての成果も上 がっていき、継続性が確保しやすくな る。左図に示されたのは本年8月に投 入された最新の開発チップのエリア 分割である。KEK(機関名の明記され てないチップ)以外にも理研、京大、産総研、FNAL、Heidelberg大、Louvain大、中 国IHEPなどの参加が見てとれる。なおこのIHEPのチップはJAAWS(Joint Asia Accelerator Work Shop )によりはじまった検出器関連のアジアコラボレーションの最 初の結果である。

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ball 測定器開発室 (2010年 9月報告;7,8月分)
1  中性子応用では、パルス化されたビームの到達時間を使ってエネルギー情報として活用する手法が頻繁に使われるが、精度良い時間情報と2次元位置情報(画像)を同時に測定できるシステムは多くない。代表的な画像素子であるCCDがその構造上、時間情報を扱うことが容易ではないからだ。逆に時間情報を扱うことのできる従来型検出器(代表的なものは3He・PSDカウンター)では、精細画像を得るには位置分解能が充分とはいえない。さらに昨今の3Heの深刻な供給不足があり、大型のシステムを作るめどが立たないとも言われている。MPGD型中性子検出器では中性子の変換材としてボロンを用いており、大型システムの構築にも本質的な懸念はないところも注目を集めている要因といえる。

  大強度を売り物とするJ-Parc/MLFでも、このMPGD型中性子検出器はすでに一部でビームプロファイルモニターとして活用されはじめているが、今後のさらなるビーム増強で直面することになる課題は、さらに高いデータ収集レートを確保することである。一つの目安として中性子研究者から与えられた目標は、「10x10cm平方の検出器に入射する毎秒107個の中性子の位置と到達時間を記録できること」というものである。

その回答として昨年度からMPGDグループが準備してきたのが、図1に写真に示された256ch入力高速信号処理ボードである。ボードあたりの集積度を高めてローカルな信号処理を高速化、あわせてデータリンクのSiTCPをGbEとすることで理論転送速度を10倍化した。

図1)新型読み出しボード:32ch 入力の改良型Front End ASIC(左端、従来型は8ch)と
従来型比10 倍の転送速度を持つGbE・SiTCP を備えたリンク (右下)を持つ。

新型ボードにおけるデータ処理能力評価
 今年度からはこの新型ボードの評価作業が精力的に進められている。上に示されたのはそんな評価の一つとして行われた高速テストパルス入力における処理速度測定である。横軸に入力パルスのカウントレート、縦軸に実際に処理できたパルスのレートを示している。赤色四角はNotebook-PCをデータリンクのホストとしたもの、一方青色菱形はデスクトップタイプのPCを使った場合である。Note型では2MHzを境にデータ処理が頭打ちになるのが見て取れる。一方デスクトップタイプでは8MHzの入力パルス源の上限までデータ処理が追随することが示されており、少なくともこの新型ボードが、目標にほぼ近い毎秒0.8x107までの入力信号を処理できることが実証された。残念ながら現状では、取り込んだデータを磁気ディスクなどに記録する処理を加えると収集速度は、100kHz程度まで激減することがわかっており、現実の計測システムにおいては、実験に即した何らかのアルゴリズムの最適化が必要となろう。 

今秋よりはこのボードを組み合わせた中性子MPGDシステムを実際にビーム環境において中性子検出レートの上限を直接評価し、与えられた最終目標を達成すべく挑んでいくことになる。

ball測定定器開発室 (2010年 6月分)1
1 2007年からスタートしたのが超伝導検出器(SCD*)である。絶対零度に近い極低温に冷却された検出器は、超伝導現象などが関わる様々の特異な物性を利用して、きわめて高い感度もつことが可能であり、微弱な電波や遠赤外の光子をも捉えることが可能となる。もちろんこの高感度をX線検出などに利用すれば、超低ノイズ、超高分解能のエネルギー測定が可能となる。
* 昨年度までSTJプロジェクトと呼称。本年度からMKID素子の開発を加えて名称を変更。

現在開発室SCDプロジェクトとして進められているのは、
1) ミリ波観測用Al-STJ(Superconducting Tunnel Junction) 素子開発
2) 宇宙ニュートリノ崩壊遠赤外光子観測用Hf-STJ素子の開発
3) ミリ波観測用MKID(Microwave Kinetic Inductance Detector)の開発

の3つで、何れも素子そのものを成膜技術により自ら製造する必要がある。
 測定器開発室では、成膜や微細加工などに関わる技術について、その基本的な部分をin-houseで行うことのできるポテンシャルをもつべきであるとの考えから、SCDプロジェクトで利用可能な300平米のクリーンルームを、2008年機構、素核研、物構研の強力なサポートにより、先端計測実験棟(旧冷中性子棟)内に建設した。素子製造に必要な各種成膜関連装置については、グループの共同研究機関であった理化学研究所より移管を受けることにより、設置することができた。 
それ以降この設備を使って、本格的な超伝導膜製造が開始されており、すでに報告されたようにAl-STJについては、超伝導膜によるミリ波検出、そのイメージングなどの実証実験に成功した。 
MKIDはプロジェクトレビュアのアドバイスによって、今年度よりはじめられた新しいタイプのデバイスで、放射線や電波の入射によって解離する超伝導体中のクーパー対の密度変化を、表面インピーダンスの変動を通じてインダクタンスの変化として検知するという、近年注目を集める素子である。図1はMKID概念実証用に作られた超伝導マイクロインダクターで、転移温度の1/10程度の極低温状態でミリ波の入射によりインダクタンスが鋭敏に変化、それを共振周波数のシフトとして捉えることを試みる。図2がテストの結果で、96GHz波の入射により素子の共振ピークがシフトすることが明白に観測された。 このプロジェクトでは、低温はもちろんのこと、真空、成膜、高周波など多様な高度技術が必須であり、素核研、低温センター、加速器研究施設からのエキスパートの結集に支えられている典型的なKEKDTPの研究開発活動となっている。
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図1)MKID概念実証用に作られた超伝導マイクロインダクター
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図2)テスト結果で、96GHz波の入射により素子の共振ピークがシフトすることが明白に観測された。

Feature story : 2010/6/16 New network-based DAQ framework may simplify life for scientists

詳細に関してのお尋ねは測定器開発室HP:各グループへ


ball2010.6.29ASICトレーニングコース2010 が開催されます。1
募集:6月10日(申込開始)~7月15日(締切) 
日程:2010年8月2日(月)~8月6日(金)10:00-16:00および8月23日(月)~8月27日(金)10:00-16:00

この事業は加速器科学技術支援事業で行っています。


ball測定器開発室 ('10 5月分)
1 2005年の発足以来、KEK測定器開発室の重要な役割として認識されているものに、 関連研究会・セミナーの開催による、日本(あるいは世界の)測定器技術開発の、研究分 野としての活性化とより広い認知の獲得がある。これは4月に開催されたプログラム検討 会の際、参加者から指摘のあった事項でもある。またこうした催しによりタコ壺化しがち な実験プロジェクト間の自然な交流の場を提供する狙いも込められている。以下に過去5 年間に開発室が主催したセミナー・研究会の統計を示した。

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平均として月に一度程度の開催を維持してきたものの、参加者の拡がり、内容ともにさらなる充実が必要で、昨年度末からは室員のひとりがセミナーの担当となりその活性化に向けて奮闘中である。その成果はすでにグラフにも現れており、2010年度はわずか2ヶ月を経過した時点で7件を数える盛況ぶりで、担当者の努力のほどが窺われる。以下に今年度に入ってからのセミナーは以下のURLから。 
http://rd.kek.jp/seminar_01.html#Anchor-940


ball測定器開発室 ('10 4月分)

4月20日、発足5年の節目としてKEK測定器開発室プログラム検討会が開催された。

http://kds.kek.jp/conferenceDisplay.py?confId=4787

最初に開発室の体制についての紹介がなされた。開発室には素粒子原子核研究所、物質構造科学研究所から参加する12名の室員で構成される開発室会議があり、毎月定例会議を開催している。ここでは現在進行中の8つのプロジェクト(下表参照)の遂行が月替わりで重点レビューされている。各プロジェクトには機構内外から専任のレビュアが依頼されており、毎月のプロジェクトの研究会議などに出席して研究開発の状況をチェックしていただく体制となっている。

MPGD マルチパターン2次元ガス検出の開発と応用
ASIC Application Specific Integrated Circuit 開発基盤の確立
次世代DAQ ネットワークベースのスケーラブルデータ収集システムの開発
SOI Silicon On Insulator 技術によるピクセルセンサーの開発
光センサー PPD(Pixelated Photon Detector)の評価と応用
液体TPC 液体キセノン・アルゴンTPC の開発と応用
STJ 超伝導検出器の開発と応用
FPIX 超高速ピクセル検出器システムの開発

現在、測定器開発室のプロジェクトに参加するユーザーは国内外で300人を数え、機構 の共同利用研究体制の中で無視できない活動となっている。


ball測定器開発室 ('10 3月分)

1世界をリードするという、 野心的な目標からスタート したSOIピクセル開発プ ロジェクトだが、3月上旬に はそのコラボレーションミ ーティングが米・フェルミ研 究所で開催された。SOIプ ロジェクトは右図のような 国際チームで構成されてお り、今回のコラボレーション ミーティングは日米協力事 業のサポートのもとアメリカグループとのさらなる連 携強化を目指したものである。

 昨年末の本報告で紹介したように、BPW(埋め込み型P ウェル)はSOIデバイスをセ ンサーとして応用する際に避けることのできないセンサー側への印可電圧(バイアス電 圧)の影響を表側のLSIへ波及すること(バックゲート効果)を抑制する画期的な手法 であるが、それにとどまらずセンサーの放射線耐性を高める可能性も示された。
 BPW とその後の熱処理は、同時にセンサー側のシリコンの改質にも関与する可能性があ り、それにより空乏化特性が大きく変質させられている徴候がある。
 最近になってFZ 法により製造されたSOI ウェファーが利用できる可能性が明らかになっ た。そうなれば不純物濃度にまつわる、様々な特性は大きな問題とならないことが期待さ れる。
 ミーティングの結論に於いて、BPW の手 法をさらに一歩進めて、P ウェルとN ウ ェルの2 層構造を持たせることが提案さ れた。とても興味深いアイディアであり、 今後大きな議論となっていくものと思わ れる。

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Feature story;Thriving new detector technology: SOIPIX

ball測定器開発室 ('10 2月分)

現素粒子・原子核実験関連分野の技術応用をその原点としてはじまった測定器開発室(KEKDTP)の初期プロジェクトであるが、今年度からは放射光分野での先端計測システムとして提案された「2 次元ピクセル検出器と超高速信号処理システム」(FPIX)がスタートした。FPIX では、これまでのCCD では不可能な超高速応答(ナノ秒応答、サブナノ秒時間分解能)と空間分解能(10-100μm)の両立をするX 線検出システムの開発を目指している。

􀁺 超高速X 線検出素子として1 次元Si-APD アレイを採用:
􀂾 ピクセルサイスH100xV200μm、H 方向ピッチ<150μm、64 チャンネル(10mm 長)、
100 ピコ秒時間分解能。
􀁺 超高速パルス処理回路:
􀂾 500MHz パルス計数システムの実現。
という性能を目標としている。

上面の小豆色の基板がAPD アレイ、8 枚ずつ整然と差し込まれたのがプロトタイプの超高速パルス処理回路ハイブリッドボード
 

ball測定器開発室 ('10 1月分)

現代の放射線測定システムにおいて、夥しい数のセンサーが発するアナログ信号を処理するために集積回路が不可欠です。その信号処理は多くの場合専用設計の回路が必要となり、 Application Specific Integrated Circuit (ASIC)をプリント基板のように手がけなくては、 多彩な実験に対応できません。 

測定器開発室ではこのASIC技術を機構や 関連コミュニティへ定着させるべく、素核研のエレクトロニクスシステムグループ・国内 外関連研究機関と協力して以下のようなプロジェクトを推進してきました。
1) MPGDのためのフロントエンド(FE)ASICの開発
2) ADC/TDCを内蔵した高機能ピクセルASICの開発
3) 関連分野若手を対象とした、実習・チップ設計製作を交えたASIC教育プログラム
4) 関係するエキスパートのネットワーク形成

MPGD(Micro Pattern Gas Detector)は開発室のプロジェクト としてはもっとも実用が先行し、すでにJ-PARC等で実績のある検出器ですが、検出器要素のピッチは1ミリ以下となるケースもあり、高集積の電子回路が必須です。そのためのASIC開発が最重要課題でありました。2005年から開発改良を重ねてきたチップも 昨年末FE2009チップ(左)として完成し、現在その最終評価が進んでいます。5.9x3.7mm2のエリアに32チャネル分の処理回路を内蔵し、中性子・ X線向け高速MPGD大面積イメージ装置の実現に見通しが立ちました。
高機能ピクセルASIC(コード名Qpix)開発は、CERNが中心となってヨーロッパで開発中のMedipix/Timepixチップの向こうを張ろうという野心的な試みで、、開発室においても昨年度より東工大・松澤研究室との共同開発をスタートさせました。CERNのチップに比べて本格的なADC機能を内蔵す ることで、高精度測定ができるデバイスを目指しています。
これによりガス検出器と組み合わせて暗黒物質探索実験などで 極めて有力な検出器を実現させることが可能です。左はプロトタイプテス トの結果を受けて設計されました、ピクセル型チップ第一号機です。

ball測定器開発室 ('09 12月分)

1素粒子原子核の実験に限らず、放射線測定システムにはセンサーからのアナログ信号を 処理して計算機システムへ転送する仕組み(データ収集系:Data Acquisition、DAQ)が 不可欠である。SiTCPとDAQ middleware(DAQmw、後述)を組み合わ せた次世代DAQを開発し、その世界発信と普及に努めています。 

SiTCPとは、本来計算機同士を接続するネットワーク技術(TCP)を応用して、多数の 放射線検出器要素をイーサネットネーブルで手軽に繋いでDAQシステムを実現しようと いうアイディアで、検出器本体にはそのために開発された小さなICチップが実装されます。 これにより多チャンネルの検出器システムであっても、今日一般家庭にすら普及した汎用 のネットワーク機器(ハブなど)とノートPCを用意すれば、いつでも簡単に実用的な放射 線システムが完成できます。そして実際にこのネットワークシステムを使って、データ収集を 行うアプリケーションソフトを構成するのが、DAQmwです。これはそもそも、産業技 術総合研究所(産総研)においてロボット制御のために開発が進んでいた標準化ソフトウ ェアモジュールの体系(Robot Technology Middleware: RTM)に、データ収集システム で必要となる機能を実装したものです。これによりSiTCPで接続された検出器ネットワー ク制御のソフトウェア開発が、最小限の知識しかもたない非専門家にも可能となります。


J-PARC—MLF棟における中性子利用の各種実験装置への働きか けを行ってきた結果、研 究者からの理解を得て、 多くの中性子ビームラ インに於いて、その採用が実現しつつあります。右図はMLFにおいて昨年末までにSiTCP/ DAQmwが稼働しているビームラインを示しています。
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ball測定器開発室 ('09 11月分)
SOI半導体についての開発研究
SOIとはSilicon-On-Insulatorの略称で、絶縁膜(SiO2)上の薄 層シリコンで集積回路(LSI)を形成することで回路要素の低容量化・低漏洩電流を可能 とし、高速化と省電力という相反する要件を実現することのできる先進のLSI技術です。 通常の半導体デバイスでは、絶縁膜裏側には機械的なサポートとして比較的厚い(数百ミ クロン)シリコン層が貼り合わせ られますが(下左図、水色の部分)、ここに検出器品質の高抵抗シリコン 結晶を使い、上部の集積回路と繋 いで信号処理まで行うことでモノ リシック(monolithic)放射線セ ンサが可能となります。これこそが、 半導体検出器開発者の夢の測定器 システムです。

先進のLSI技術:SOI Pixel Detector
    
(左)バイアス電圧を印可しない時のFETの通常ゲート特性
(右)BPWを用いた結果、良好なゲート特性が保持されている
電場が、上部の集積回路素子(特に電界効果型トランジスター:FET)に影響を与えてしまうバックゲート問題を解決するために、測定器開発室では絶縁膜下部のシリコンとの界面を狙って上部からイオンを 注入する、Buried p well(BPW)と呼ばれる画期的な手法をとっています。このBPWは、 将来の関門となる検出器 の放射線耐性に関する問題についても決め手となる可能性があり、大きな期待が寄せられています。 

この成功により関門をまた一つクリアして、SOI 検出器開発はその実現に向けて、さらに大きく前進をしました。

3測定器開発室 ('09 10月分)
MPGDとはMicro Pattern Gas Detectorの略称で、従来放射線検出器の主流であった細線ワイヤを使わない新世代のガスチェンバー検出器。MPGDではガス増幅はワイヤの代わりに2次元平面としてGEM(Gas Electron Multiplierの略)と呼ばれる、50ミクロン厚の両面銅箔ポリイミドフィルムに70ミクロン径の微細孔を全面にあけたものを利用する。り放射線によってガ ス中に生成された電離電子は、高電圧を両面に与えら れたこのフィルムの孔を通過する時ガス増幅をされる。 このようなフィルムを幾層か重ねることで、十分な増幅率をもつ荷電粒子の2次元検出器 ができあがるわけだが、さらにこのGEMフィルム表面に様々な物質を蒸着することで、新 たな機能の放射線検出器が実現する。 2

ホウ素の薄膜を形成すると、[10B+n7Li+]などの反応により中性子に高い感度を持つ検出器となり、金を用いると、光電効果を利用して一般には検出が困難と言われる高いエネルギーのX線(硬X線)に感度を持つ2次元検出器を構成することができる。硬X線は厚い物質を透視する非破壊検査(たとえばコンクリート建造物内の鉄筋の健全性の確認)などに使われるが、その2次元透視画像が簡単に得られることは画期的である。また、医療用の診断装置としても大きな可能性がある。 

開発室ではこのような基礎科学以外への応用についても積極的に取り組んでいます。

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開発中のMPGD 型検出器を使ってサンプルのRI の集積像を撮影した.。左側が開発されたMPGD 型による画像、右側が比較のためとられたγカメラによるもので、解像度が明らかに優れていることがわかる。

ball測定器開発室 ('09 9月分)

新世代の放射線検出器システムとして液体TPC(Time Projection Chamber;素粒子の三次元軌跡を記録できる 画期的なガス検出器)の開発を精力的に行っている。
これを希ガスの液化ガス と組み合わせ電離信号とシンチレーション光を活用す ることで、高い精度の時間情報も含む四次元完全測定シ ステムとなる。そこでPETなどにも応用可能な高機能の ガンマ線検出器、ニュートリノ検出器、はたまた暗黒物 質検出器として、各地で精力的な開発研究が行われてい る。現在開発室では二つのチームが、それぞれキセノ ンとアルゴンを使ったTPCの開発を行っている。

液体キセノンを使った観測結果TPC内部に印可する電場の変化につれて電離信号 が増える(下グラフ)と同時にrecombinationに由来す るシンチレーション光が減少している(上グラフ)結果が見て取れる。
液体アルゴンチーム:今年から先端計測実験棟で活動を開始。
すでにTPC としての基本的な動作を10センチ角のプロトタイプで確認、さらにニュートリノ 検出器応用などで想定される小信号での実用のために、気相部を配置してガス増幅を併用する タイプ(いわゆる2相式)の最初の試験にも成功した。
このプロトタイプの概念構成と 宇宙線で得られたその4つのアノード電極から得られた信号を示しています。

詳細に関してのお尋ねは測定器開発室HP:TPCグループへ


ball測定器開発室 ('09 7月分)

世 界的にももっとも先鋭的なプロジェクトのひとつとして、SOI(Silicon On Insulator)技術による半導体検出器の開発を精力的に推進している。この技術では、構造体となる比較的厚いシリコン基板上に絶縁物である二酸化シ リコン層を挟んで通常の集積回路が形成される薄いシリコン層の3層構造となった特殊なシリコンウェファーをもちいる。この絶縁層のおかげでSOI半導体で は通常の集積回路に比べて電子回路の実効的な厚みが圧倒的に小さく、また回路ブロック間の分離が良好となり、システムの高速化・高性能化や省電力化へ向け て大きな改善が可能となる。

詳細に関してのお尋ねは測定器開発室HPコンタクト:SOIグループへ

 

 

教育活動:
測定器開発室では、先端の加速器制御等の外部機器制御及び測定器システム開発には欠かせない、特定用途向け集積回路Application Specific Integrated Circuit(ASIC)やField Prgrammable Gate Arrays (FPGA)についての最新技術を習得していただけるようセミナーを開催しました。09年はこちらでご覧下さい。


活動報告
ball2009.9.30 測定器開発室 活動報告(2009年9月) が発行されました。(10M pdf)



このページは測定器開発室で更新作業をしております。