先端加速器推進部
 活動報告
 
[最新の活動報告] [2016-2015] [2014-2013] [2012-2011] [2010-2009]
 
 
 
 
 
 
 
測定器開発室(2018年2月)

2相CO2 冷却システムの開発の進展
高速化・高集積化の進む先端的測定器においては高効率でしかも低物質量な測定器冷却システムが不可欠となる。2相CO2 冷却システムはそのような要件を満たす冷却システムとして、LHC 実験やBelle-II 実験でも採用されるようになってきた。一方、これまでの2相CO2 冷却システムでは、測定器から離れた冷却プラントから測定器の間で冷却温度以下に冷えた液化CO2 を輸送する必要があるため、配管に厳重な断熱加工が必要であった。測定器開発室では常温に近い液化CO2 を測定器の近傍、あるいは内部まで送り、そこで熱交換および減圧を行って必要とする冷却温度を得るという、新しいタイプの2相CO2 冷却システムの開発を行っている。

測定器内部で熱交換および減圧を行うためには、荷電粒子の多重散乱を避けるため、低物質量の熱交換器が必要となる。そのような熱交換器として、2重管による熱交換器が考えられている。内側の細管に常温近くの液化CO2 を流し、その外部に戻りの低温の2相CO2 を流す。細管には減圧の機能も同時に持たせる。そのような2重管式熱交換器の開発の一環として、細管による圧力損失の測定が行われた。長さが40cm で内径が1.0mm と0.5mm の2種類のステンレスチューブに液化CO2 を流量をいろいろ変えて流し、その際の圧力損失を測定した。結果を図1に示す。測定結果(赤丸)は計算で求めた値とほぼ一致しており、実機の設計に際しては計算に頼ることができることが明らかとなった。


測定器開発室(2018年1月)

最近の Silicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器関係のトピックを紹介する。

[ IEDM招待講演 ]
2017年12月2-6日にサンフランシスコで開催された、半導体デバイスの国際会議で最も権威があると言われる International Electron Devices Meeting (IEDM)において招待講演を行った。”SOI Monolithic Pixel Technologyfor Radiation Image Sensor”と題して発表を行い、特に新しく考案したPinned Depleted Diode(PDD) 構造に注目された。

[HSTD11 & SOIPIX2017 国際会議@沖縄]
2017年12月10-15日の間、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、第11回 “Hiroshima”Symposium on the Development and Application of Semiconductor Tracking detectors (HSTD11)と第2回Workshop on SOI Pixel Detector (SOIPIX2017)  の合同国際会議を開催した。海外からの参加者約120名を含め、例年の倍近い約190名の参加者があり、素晴らしい環境のもと、最新の成果発表と活発な議論が行われた。


図2 . OIST での HSTD11 & SOIPIX2017 会議の様子


図 1. (上)PDD構造、(下)テールの無い鋭いX線エネルギーピークが得られた。


測定器開発室(2017年12月)
 液体アルゴン中を荷電粒子が通過した際に生じる電離電子を電場により読み出し面まで移動させて、その2 次元射影位置と時間情報から粒子飛跡を3 次元のイメージとしてリアルタイム にイベント時刻とともに読み出す液体アルゴンタイムプロジェクションチェンバー(LArTPC) の大型化にむけた開発研究を進めている。10kton 以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュ ートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用 することを目指している。

 測定器開発室LTPC グループでは、大型化に必要な要素技術の開発研究を進めている。大型 化にむけて、液体アルゴンの純化、TPC 内部電場形成のための高電圧生成、高い信号-雑音比 で電荷信号を読み出すためのエレクトロニクスなど、新しいデバイスやシステムを開発するた めに内容量30L の小型液体アルゴンTPC 検出器を作成し、まずこの検出器を用いたTPC 内部 電場の理解を進めた。宇宙線トラックからの信号データと有限要素法を用いた電場シミュレー ションの結果を比較して、電場の歪みによる信号量の位置依存性や電場歪みの要因を理解する ことができた。

 10kton 以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m 以上にしたいが、ドリフト中 に電離電子が水や酸素などの不純物に吸収されて信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出しによって、この問 題の改善ができる。そこで、次のステップとして、気液2 相による電離電子の安定な読み出し を大面積領域にわたり実現することを目指している。電離電子の読み出し方法は大きく2 つ あり、1 つは液体アルゴン中に読み出しストリップ面を設置して荷電粒子が通過した際に生 成した電離電子を増幅せずに読み出す方法で、もう1つは電離電子を液面の外に取り出して ガスアルゴン中でガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す方法(気液2 相読 み出し)である。まず30L 検出器を用いた小型TPC での気液2 相読み出しの安定性の実証を 行なっている。現在、10cm x 10cm のGEM 基板(1mm 厚。図1)を取り付けて、気液2 相読み 出しによる宇宙線データ取得にむけた準備を進めている(図2)。2 相読み出しを行うには、 液体アルゴンの液面をGEMから一定の距離を開けて維持する必要があり、そのための液面計 校正や液面の確認のために低温環境下でも動作するCMOS カメラの準備も進めている。今 後は、小型検出器での気液2 相読み出しの安定動作を実現し、その後大面積領域での安定動作の 確立にむけた開発研究を進めていく。

図1: 小型検出器に取り付けた1mm厚GEM

図2: 30L 小型検出器の全体写真。

測定器開発室(2017年11月)
SCDグループ(筑波大 武内、岡山大 石野)
[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けた Nb/Al-STJ +超低温増幅読出し,及びハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子(Hf-STJ) を究極のエネルギー分解能を実現するマイクロカロリメータ検出器として開発を行っている。STJ 光応答信号の SOI 極低温増幅読出しの実証テストについては,前回(2017 年 3 月)に報告した.今回はより実用的な回路として,差動増幅の負帰還回路による低入力インピーダンスの電荷積分型増幅回路の極低温動作を検証した(図1).Hf—STJ に関しては,表面粗さ RMS が 2.5nm と比較的なめらかなハフニウム成膜による 200µm 角 Hf-STJ が,リーク電流 7µA(T=140mK)を達成した(図 2).これは,我々のグループでこれまで実現していた Hf-STJ リーク電流密度の約 1/16 にあたる.
図 1 . SOI O pAmpによる電荷積分増幅の3ケルビンでの動作.入力電荷 100fC に対し23mVの出力を得た. 図 2. ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子の電流電圧特性.表面粗さの小さい条件(RMS=2.5nm)を用いた Hf-STJを作製.リーク電流 7µA (200µm 角,T=140mK) を達成


[液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索用超伝導検出器の開発]
反跳液体ヘリウムによって生じるシンチレーション光を、液体ヘリウム内で作動する超伝導検出器 KID (Kinetic Inductance Detector)で検出し、軽い暗黒物質の探索を行うことを目的とする。エネルギー付与に対する KID の感度を 2 つの方法から評価している。一つ目は、共振周波数の温度依存性を測定することにより、KID の全インダクタンスに対する力学的インダクタンスの比αを求める方法である。図 3 に典型的な共振数波数の温度依存性を示す。このデータを、Matis-Bardeen の理論式でフィット(赤線)することにより、αの値を決定することができる。
求まったαの値は 0.03 程度であり、これは電磁シミュレーション(SONNET)で評価した値と一致した。この値から、1 つの準粒子ができた時の検出器の位相変化が、dθ/dNqp=1.3x10-10 と求まった。もう一つの方法は、可視光レーザーパルスを検出器に直接照射し、そのリニアリティ応答から求める。赤(660nm)と青(405nm)の 2 色の幅 10nsec のレーザーパルスを液体ヘリウム内の KID に直接照射し、その応答を付与エネルギーの関数としてフィットした。それぞれのパルスレーザー光の光子数は、光電子増倍管を用いて較正し、KID アレイを用いて評価したビームの広がりから、1 素子あたりに付与されるエネルギーを見積もる。図4に、2 色のリニアリティの測定結果を示す。両方とも同じ感度を示すことを確認した。二つの方法の無矛盾性を検証するには、KID を読み出す室温増幅器の利得やマイクロ波部品での損失を考慮する必要があり、今後の課題である.

図3:KID の共振周波数の温度依存性。黒い十字点はデータ、赤線は理論式によるフィット結果。α=0.03 が得られた。 図4: 2 種類の波長のパルス光に対する KID のエネルギー付与に対するリニアリティ応答。

測定器開発室(2017年10月)
 測定器開発室のMicro Pattern Gas Detector(MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。GEMは、2 次元画像を取得できる放射線検出器として有効なものであるが、50μm 厚という薄い絶縁材の両面間に高電圧を印加する必要があることから、放電により絶縁不良が起こり、使えなくなるという問題があった。これは、あまり取り扱い慣れていない他の分野への普及ということを考慮すると大きな障害であった。そこで、放電しても壊れないGEMを開発することをMPGD グループの開発目標の1 つとしてきた。
 高抵抗素材を利用して、放電を局在化することによって、壊れないGEM を開発することを長年にわたり行ってきた。適切な抵抗値をもった材料を安定して製作することがなかなかできずに苦戦してきたが、最近、導電性高分子コーティング剤を塗膜したGEM で信号がきれいに見えるようになってきた。
 また、耐アーク放電性のよい絶縁材料としてテフロンGEM の開発も行ってきた。最近製作した50μm 厚のテフロンGEM では、何回放電させても絶縁不良が起きないことを確認すると同時に、これまでのGEM と置き換えて中性子検出器として動作することを確認した。残念ながら、GEM の孔加工が難しく、安定して、安価に製作する見通しが立たないという問題が残っている。
 そこで、最近、セラミックを用いたGEMの試験を東京都立産業技術研究センターと共同で行った。セラミックGEMは、グリーンシート呼ばれる材料の両面に導電性ペーストをスクリーン印刷で電極として塗布して、ポンチ加工でGEM孔をあけた後、焼結することによって、仕上げるものである。これは、セラミックであることから耐アーク放電性に優れているので、放電による炭化が起こらないために絶縁不良にならない。また、材料内に中性子散乱の断面積が大きい水素がないことからも中性子検出器に適しているといえる。さらに、焼結後は、固く、張力なしでもたわみが発生しないので、平面性を出すのにも都合がよいものとなっている。最近、これまで使用してきたGEM と同じ10 ㎝角の大きさのセラミッ クGEMを製作することができた(図1)。これをこれまで開発してきた検出器内にセットすることによって、中性子検出器として動作することを理化学研究所にあるRANS と呼ばれるパルス中性子源を利用して、確認した。図2 に得られた中性子の飛行時間分布、図3に2 次元画像を示す。これらの結果からセラミックGEMは、これまでのGEMと同様に使用することが可能であり、壊れないGEM として有望であることが確かめられ、今後の展開が大いに期待されるところである。
図2 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた飛行時間分布 図3 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた2次元画像

図1 製作されたセラミックGEM


測定器開発室(2017年8-9月)
 測定器開発室では、高エネルギーX 線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高 速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。ハフニウムやビスマスなどの重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)を製作して、その特性を評価している。実験はKEK 放射光実験施設BL-14A で行った。5 テスラの超伝導電磁石によって曲げられた電子からは通常の偏向電磁石と比べて30keV を超える高エネルギー領域でより強いX 線が放射される。放射光実験用X 線検出器としての高速シンチレータの実用性を評価するため、シリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を受光素子とする検出器を使った。200 倍程度まで電荷増幅が可能でナノ秒幅の高速パルス出力が得られるものを開発してきた。この検出器は放射光核共鳴散乱実験に応用するためのプロトタイプをかねており、市販の鉛5wt%添加PLS(EJ-256)を使った場合、良好な低ノイズ性能と67.4keV のX 線に対し時間分解能0.5ns(FWHM) が得られた(Nucl.Instr.andMeth.A806(2016)420) 。実際にSPring-8 ビームライン BL09XUでのニッケル61 核共鳴前方散乱測定にも成功した。最近、73.0keVの光子に対して検出効率16%以上(通常使われる検出器の倍程度)を有する、より実用的な検出器を製作した。図1はその外観、図2は内部の様子を示す。入射する光子ビーム方向に大きさ3×3×3mm3 のEJ-256 を4 個並べ各APD素子と~60dB の大ゲイン高速アンプにより出力パルスを得るものである。現在、イリジウム193含有試料を使った核共鳴散乱実験で使用できるように調整を進めている。ビスマス酸化物ナノ粒子を含む高速PLS を取り付けて、より高い時間分解能かつ高い検出効率で測定することを目標としている。
図 1 検出器システムの外観


図 2 システムの内部

測定器開発室(2017年7月)

最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[プレスリリース:世界最高精度の放射線測定センサーを開発]
6月23日にKEKと筑波大から下図のようなプレスリリースを行なった。これは、5月に北京で開催されたTechnology and Instrumentation in Particle Physics (TIPP2017)会議で発表した内容で、SOI検出器により高エネルギー陽子ビームの位置分解能0.7 mmを達成したというものである。

 


図1。筑波大学のお知らせWebページ (http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201706231400.html).
[第8回SOIPIX研究会]
第8回目の新学術領域研究会が6月29−30日の2日間に渡り宮崎大学で開催された (http://soipix.jp/226.html)。領域研究のメンバーの一人であり、技術者のノーベル賞とも言われる「エリザベス女王工学賞」を今年受賞した寺西信一氏の受賞講演の他、5件の招待講演、19件の研究発表、12件のポスター発表があり、活発な議論が行われた。

図2。第8回目の新学術領域研究会@宮崎大学集合写真。

測定器開発室(2017年6月)
 5 月21−26日中国北京のオリンピック会場跡地にあるBeijing International Business Center において、第4 回のTechnology and Instrumentation in Particle Physics(TIPP2017)が開催された。これは2009年KEK の主催にてつくば市でその第一回が始まった、我々には因縁浅からぬ国際会議である。今回も測定器開発室関係の研究から7件の講演が採択され、成果発表を行なった。
 中でも注目を集めたのは、SOI ピクセルセンサーについての最近の進展で、Double SOI を使ったセンサーの高い放射線耐性の実現、高エネルギービームを用いた試験によるサブミクロン一精度の位置分解能の実証(機構会議報告、本年4月を参照)、同じくアナログメモリーを使ったILC向け新型計数型ピクセルチップによる2ミクロンを切る位置精度の実証など枚挙にいとまがない。図1に示すのは、SOI コラボレーションの筑波大・原准教授によって示された放射線耐性に関するスライドで、100kGy 相当の放射線の照射後も正常な空乏層形成が行われ、minimum ionizing particle (MIP)の信号を高いS/N 比で検出できることが示されている。最近の試験では、さらに照射量を10倍まで高めたとのことで、電子陽電子衝突実験のみならず、ハドロンコライダーのトラッカーとしての応用可能性も見えてきて、SOI ピクセル技術に対する期待がますます高まった会議と言える。
図1

測定器開発室(2017年5月)
 2017 年4 月22 日(土)の午後、KEK にてアクティブ媒質TPC 座談会が行われた。アク ティブ媒質TPC とは、標的、ソース、コンバージョン機能を果たすアクティブな媒質を用いたTPC(Time Projection Chamber)のことで、近年では暗黒物質探索、ニュートリノ物理研究、医療用PET や宇宙観測などを目的とした研究において、その開発研究が盛り上がっている。国内でも、陰イオンガス、高圧ガス、液体(Xe,He,Ar)と多様な研究が行われており、これらの開発研究については要素技術で共通な部分も多い。そこで、開発の現状や失敗談などについてざっくばらんな話しや情報交換をする機会として、この座談会が開催された。2015 年8 月にも液体TPC について同様な座談会が開催され活発な議論があった。一方でそこでの反省点として、必要とする検出器技術は他のアクティブ媒質TPC にも共通することから、今回はアクティブ媒質TPC を用いた実験プロジェクトを立ち上げている国内の大学メンバーとも相談して、本座談会を企画した。土曜日の開催にも関わらず、国内各大学及びKEK から25 名の参加があり、実際に現場で開発を行っている大学院生の参加も多く、活発な議論が展開された。
 プログラムは[1]に公開されている。国内の各実験プロジェクトから、プロジェクトの特徴と技術開発(開発した部分、苦労している点、今後の開発にむけて聞きたいところ)についてトークがあった。開発要素として、高電圧生成装置、TPC 内部の電場理解、シンチレーション光検出、電離電子の増幅や読み出しエレクトロニクスなど多くの共通部分があり、それぞれの開発ついて議論が盛り上がった。特にTPC フィールドシェーバーに高圧印加した際の放電については多くの実験プロジェクトで問題となっており、解決にむけて様々な情報交換が参加者の間で行われた。また、アクティブ媒質TPC を用いた今後の実験計画についても発表があり、検出器開発にむけた情報交換ができたと考えられる。
 会の最後には、今後の座談会のありかた等についても議論を行なわれた。今回のような座談会が有用であるという意見が多く、今後も同様な機会を年1 回のペースで開催する予定である。
[1] https://conference-indico.kek.jp/indico/event/20/overview

測定器開発室(2017年4月)
SOI ピクセルセンサー、FNAL ビームテストで世界最高のトラッキング精度を実証

 測定器開発室では、SOIピクセルを使った荷電粒子の高精度飛跡検出器(トラッキング)も、最重要な課題として取り組んでいる。こうした応用では、SOIの以下のような特長を活かしてこれまでにない高精度(高位置分解能)の測定ができると期待されてきた。
1. モノリシック構造がもたらす、ボンディング技術に制限されない超微細なピクセル
2. 高抵抗シリコンによる独立したセンサー層に形成される十分な厚みの空乏層による大きな信号電荷とその適度な広がり
3. フロントエンドエレクトロニクスが直結されることによる低ノイズと高機能

 隣り合うピクセルでの電荷の分割比を使うことで、荷電粒子入射位置の測定精度は、ピクセルピッチに対して格段に良くなることはよく知られているが、その到達精度はセンサーのS/Nにより決まってくる。したがって、上記に列記した特長は高精度トラッキングの測定器として、SOIピクセルがうってつけのデバイスであることを示している。
SOIプロジェクトではその特性の実証用として、二つのシリーズのチップを開発している。一つは究極の微細ピクセルを目指して8μmのピッチサイズのピクセルアレイを実現したFPIX(左図), もう一つは将来のILC実験などでの崩壊点検出器での実用を視野に入れて、要求される機能性を盛り込んだ大きめのピクセルサイズ(20μm)を持つSOFISTである。

 この2種類のチップが、昨年末からFNALのテストビームエリアに持ち込まれ、トラッキング試験が行われた。使用されたビームは多重散乱を最小限とするため、120GeV/cの高運動量proton beamである。残念なことであるが、こうした試験をできる設備は日本国内には存在しない。 テストでは右図のように4枚のFPIXと2枚のSOFISTが並べられ、通過した粒子のトラッキングを行い、その測定能力の評価を行った。 次ページに示したのは、2層目以外のFPIXを使ってトラッキングされた粒子の2層目での通過予想位置と実際の2層目での測定位置の残差分布である。これは2層目FPIXの測定精度とその他のFPIXによるトラッキングの誤差を足し合わせたものとなるわけであるが、1μmを確実に下回ることがみてとれる。すなわちFPIX単体の測定精度はサブミクロンのオーダーであることを確実に示していることとなる。 これまでの世界最高のトラッキング性能はMPIで開発されたDEPFET検出器の1μmであるといわれており、今回試作されたSOIピクセルセンサーはこれを確実に凌駕して、世界で初めてサブミクロンの計測精度を達成したといえる。
 同様の解析が、SOFISTチップにについてもなされ、20ミクロンピッチのピクセルながら、σ=1.7μmという結果を得ている。こうした結果はいずれも、preliminaryな解析による速報値であり、今後の詳細な解析によりさらに改善されていくものと思われる。いずれにせよ、今回のビームテストによって、SOIピクセルセンサーが粒子検出器史上初めてμmの精度を超えて、新しいトラッキングの世界へ導いてくれることがしめされた。
 この偉業を達成したSOIピクセルプロジェクトのグループに、改めて大きな賛辞をおくりたい。

図1

図2

図3


測定器開発室(2017年3月)
 最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けたNb/Al-STJ の超低ノイズ読出しを実現する極低温SOI(Silicon-on-Insulator)アンプの開発を行っている。SOI 増幅回路の極低温動作の実証テストのため,産総研CRAVITY 製20μm 角Nb/Al-STJ と共にSOI 増幅回路を冷凍機内に設置し300mK 程度まで冷却後、STJ に可視光(465nm)レーザーパルスを照射し、STJ からのパルス応答信号が極低温環境下のSOI 回路によって増幅されたことが確認された(図1)。また,ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子も遠赤外光検出器の候補として開発を続けている.最近では、ハフニウム酸化層の上に薄いアルミニウム層を用い、従来のHf-STJよりリーク電流密度を約1/16 に低減に成功した。このサンプルで可視光パルス(465nm)応答を確認している。

[液体ヘリウム紫外線シンチレーション光検出を目指す超伝導光検出器]
 液体ヘリウムを標的とした軽い暗黒物質の探索実験のために、反跳ヘリウムによって生成されるシンチレーション紫外線光子(16 eV)を、液体ヘリウム中で直接検出する超伝導検出器の開発を行っている。超伝導検出器として、力学的インダクタンス検出器(KID, Kinetic Inductance Detector)を利用する。今年度は、KID の検出器素子アレイを周波数領域で多重にパルス信号を読み出す、FPGA を用いた読み出し装置の開発を行った。周波数領域を時間領域に変換し、セルフトリガー機能を実装することにより、一本の配線で20 素子のパルス信号(時定数~1μ秒)を同時に読み出すことに成功した。 図2 は、0.3K に冷却したシリコン基板にAm-241 からのα線(5.5 MeV)を照射した際に生じるフォノン信号を、Al で形成されたKID で、15 チャンネル同時に計測した様子である。この読み出し回路の開発により、外部から液体ヘリウムへの読み出し配線による熱流入を格段に減らすことが可能になった。また、KID の素子間のクロストークの理解も進んだ。素子の形状を形成する際のエッチングによる効果と、素子間のキャパシ ティブ・インダクティブな結合が主な原因であることをつきとめた。前者は、数nm のAlN 膜をシリコン基板表面に覆い、後者は、素子の間にグラウンドを配置することにより、クロストークを抑制することに成功した。一方、このような構造は、光子の検出効率を悪くする可能性がある。現在、改良した素子の光への感度を測定を行っている。


図1 Nb/Al-STJの光パルスに対する応答信号を同じく冷凍機内に設置 したSOI回路によって信号が増幅されている


図2 FPGAで開発した専用の読み出し装置で、15の検出器素子を一本の配線で周波数領域において検出したフォノンパルス信号


測定器開発室(2017年2月)
最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[Fermilabでのビーム実験]
SOI検出器は厚い空乏層を実現できることからまずX線応用が広がったが、当初からの目的である素粒子実験の崩壊点検出器としても低物質量・高位置分解能・高機能検出器として優れた特徴を持つ。これらの特徴を実証するためフェルミ国立研究所の高エネルギー陽子ビームを使った実験を現在行っている。昨年12月に筑波大グループと共に実験に臨んだ際は残念ながら加速器の故障で実験を行なえなかったが、1月半ばからの再チャレンジでは大量のデータを取ることができている。データ解析はこれからだが、世界初の1ミクロンを切る分解能を目指している。

[温度制御付きセミオート・プローバ]
半導体の各種特性を理解するためには、温度を変化させながら、大量のデータを集め解析することが重要だが、これまではKEKにそのような装置がなかった。今回、-65℃から200℃まで温度変えることの出来るセミオート・プローバを先端計測実験棟のクリーンルーム内に導入することとなった。2月中には周辺工事も終わり、3月からは温度を変えながらウエハー内の多数の素子特性を自動的に測定できるようになる予定である。

図 1. Fermilabのビームラインで実験準備をしている様子。

図 2. 温度制御付きセミオート・プローバ。

測定器開発室(2017年1月)
  測定器開発室では、サブナノ~ナノ秒の発光寿命で30keV以上の高エネルギーX線領域の光子に対しても高い検出効率を有する高速シンチレータの開発を行っている。シンチレータは放射線検出媒体として形状・大きさが比較的自由であり、検出効率や立体角を確保しやすい特徴がある。重元素を含むシンチレータであればMeV領域のガンマ線光子の検出だけでなく、高エネルギーX線領域の光子検出にとっても1mm以下の薄いシンチレータで大きな検出効率が期待され、多チャンネルでも小型化できるなど検出器の高機能化につながる。さらに発光寿命がナノ秒以下の高速シンチレータであれば、ナノ秒幅パルス出力によって毎秒107を超えるような高計数率測定も可能となる。
  最近の成果として、重元素のハフニウム酸化物ナノ粒子を多く含むプラスチックシンチレータ(PLS)の製作について報告する。2ナノ秒程度の減衰時間で高速発光するPLS中に重元素酸化物をナノ粒子のまま分散させることによって、シンチレーション光がシンチレータ内部で透過しやすいまま重元素の重量比を上げることを狙うものである。分散しやすいように有機分子で表面修飾した状態で重元素酸化物ナノ粒子(径~5ナノメートル)を製作することが重要である。そのため超臨界水熱合成法を使った。超臨界水は臨界点374℃、22.1 MPaを超えた状態の水で無極性になっており、無極性な有機溶媒と混ざりやすく反応性も高い。この性質を利用して粒子の合成と同時に有機修飾する。図1のような方法で有機表面修飾されたHfO2ナノ粒子を製作した。:1)Hf(OH)4を水に加え、有機修飾剤としてフェニルプロピオン酸(PPA)を加える。2)水の亜臨界条件(30 MPa, 反応温度: 300℃)で10分間反応させる。3)合成後、トルエンを用いて回収、乾燥させて有機層中のナノ粒子を得る。
  実際に製作されたシンチレータの写真を図2に示す。直径3mm、厚さ約1mm、ハフニウム10重量%を含有する。溶媒はポリスチレン、蛍光体はb-PBDを使った。このシンチレータの側面より放射光X線ビーム(エネルギー:60.0keV)を入射してSi-APDを受光素子とする高速検出器で特性を評価したところ、市販の鉛5重量%添加PLSと比較して検出効率は同程度であったが、時間分解能は市販PLSを上回る0.33ナノ秒(半値幅)を得た。ナノ粒子による効果が寄与したと考えている。今後、合成法の改良、他の重元素添加などの研究を行う。なお、本研究は東北大学・工・応用化学・浅井研究室との共同研究として進めている。

 


図1


図2

 
このページは測定器開発室で更新作業をしております。