先端加速器推進部
 活動報告
 
                                                                                                                                                                            
[最新の活動報告] [2016-2015] [2014-2013] [2012-2011] [2010-2009]
 
 
 
測定器開発室(2018年11月)
第1回「量子線イメージング研究会」

  SOI検出器をはじめ半導体を用いた量子線検出器は様々な分野で求められ開発が行われているが、発表は研究分野ごとに分かれていて、一堂に会して議論する場が少ないという問題があった。
 そこで、昨年度まで新学術領域研究を行ってきた「3次元半導体検出器で切り拓く量子イメージングの展開」と、今年度よりスタートした「宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋」の共催、京都大学 SPIRITS 2018 の助成を受け、量子線イメージング研究会実行委員会を立ち上げ、9月25、26日の2日間、京都大学で第1回「量子線イメージング研究会」を行った (https://soipix.jp/qbi2018.html)。
 基調講演には昨年度ノーベル化学賞を受賞したクライオ電子顕微鏡用検出器を開発したLBNLのPeter Denes氏をお招きし"CMOS Active Pixels for Electron Microscopy"と題する講演をしていただいた。9件の招待講演の他、ポスター発表が47件あり、そのうち30件がSOI検出器に関するものであった。現在KEKで立ち上げを準備しているSOIコンソーシアムの宣伝も行った。
 企業からの研究者も参加しやすいよう、外国人研究者以外の発表は日本語で講演(スライドは英語)することにし、企業からの参加者45名を含む135名の参加を得ることが出来た。研究会は非常に好評で、来年も同時期に姫路で開催することが決まった。
 

2018年9月25−26日第1回「量子線イメージング研究会」参加者。
 
 
測定器開発室(2018年10月)
最近のSCDグループのトピックを紹介する。

[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けたNb/Al-STJの超低ノイズ読出しを実現する極低温SOI(Silicon-on-Insulator)アンプの開発を行っている。ソース接地増幅回路を持つ簡単なSOI増幅回路による極低温でのSTJ光応答信号の増幅読出しには以前成功していたが、今回カレントミラー回路を持つ差動増幅の負帰還による低入力インピーダンス電荷積分型SOI増幅回路の実証テストを行った。産総研CRAVITY製20μm角Nb/Al-STJと共にSOI増幅回路を冷凍機内に設置し300mK程度まで冷却後、STJに可視光(465nm)レーザーパルスを照射し、STJからのパルス応答信号を極低温環境下の電荷積分型SOI回路によって増幅することに成功した(図1)。これによりSTJ信号の速い成分を効率よく読み出すことが可能になると期待される。また、ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子も遠赤外光検出器の候補として開発を続けている。最近では、ハフニウム層形成条件を見直し表面粗さの小さい条件を使用し、リーク電流密度を約3nA/μm2までの低減を達成した。

 
[液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索を目指した超伝導検出器の開発]
 液体ヘリウムの極低温度下(減圧して1.6K)で作動し、液体ヘリウムからのシンチレーション光を直接検出する素子として、超伝導検出器KID (Kinetic Inductance Detector)の開発を行っている。KIDは、外部からエネルギーが超伝導体内のクーパー対を破壊することによって生じる超伝導体の力学的インダクタンスの変化を検知する。厚さ300nm程度のNbからなる超伝導薄膜をシリコン基板上にスパッターし、リソグラフィー技術により、LC共振回路を形成することによりKIDを作製する。外部から励起共振マイクロ波を送り、共振器を励起させる。クーパー対が破壊されると、インダクタンスが変化し、共振周波数が変化する。その変化を励起マイクロ波の位相と振幅の変化から検知する。異なる共振周波数を持つ共振器を複数配置することにより、一本の配線で周波数領域で同時に多重読み出しを行うことができる。超伝導検出器の感度の指標として、全インダクタンスに対する力学的インダクタンスの比αが与えられ、αが大きいほど感度が良くなる。共振周波数の温度依存性を測定し、BCS理論を適用することによりαを測定した。その結果を図2に示す。横軸は検出器の厚さを、縦軸はαを表し、薄いほどαが大きいことがわかる。実線は、BCS理論と電磁シミュレーター( SONNET)を組み合わせて見積もった理論計算値であり、差はあるもの概ねその傾向は再現され、検出器の特性の理解に至った。

 
測定器開発室(2018年9月)
2相CO2 冷却システムの開発の現状

 気相と液相が共存する2相状態の二酸化炭素(CO2)を冷媒として用いる測定器冷却システムは、流入熱が液体の気化に使われ冷媒自体の温度が不変であるため、温度が一様な冷却ができ、また単位流量当たりの冷却能力も大きいというメリットがある。最近ではLHC実験やBelle-II実験などでも使われるようになってきたが、これらの実験で採用されている冷却システムでは、測定器から離れたプラントで冷却温度以下まで冷やした液化CO2を作って、それが測定器まで厳しい断熱のされたトランスファーチューブで送られる。測定器開発室では遠隔プラントでは常温付近の液化CO2を作り、それを測定器内部に置かれた低物質量熱交換器で冷却し、それを測定器冷却に用いるというシステムの開発を行っている。
 このシステムで重要となる要素の一つが低物質量熱交換器で、そのような熱交換器として、2重管を使った熱交換器が考えられている。図1に示すように、内側の細管に常温近くの液化CO2を流し、その外側に冷却対象から戻ってきた2相CO2を流して、内側を通る液化CO2 を冷却温度近くまで冷やす。この原理を実証するため、内層が1/16インチ、外層が3/8インチのステンレスチューブで、熱交換部分の長さL が40cmの試験装置を製作して、どの程度の熱交換が行われるかを測定した。流量を何通りかに変えて測定した結果を図2に示す。この結果から、わずか40cmの長さでもかなりの熱交換が行われることが分かった。今後は熱交換部の長さを80cm、120cmと変えた試験装置を製作して熱交換効率を系統的に調べる予定である。

 
 
測定器開発室(2018年7月)
 液体タイムプロジェクションチェンバー(LTPC)グループでは、液体の希ガスを用いたTPCの大型化にむけた開発研究を進めている。荷電粒子が通過した際に生じる電離電子を電場により読み出し面まで移動させて、その2次元射影位置と時間情報から粒子飛跡を3次元のイメージとしてリアルタイムにイベント時刻とともにその粒子の詳細な情報を得ることができる。希ガスとしてアルゴンを用いた液体アルゴンTPC(LArTPC)では、10kton以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用することを目指している。
 10kton以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m以上にしたいが、ドリフト中に電離電子が水や酸素などの不純物に吸収されて信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出しによって、この問題の改善ができる。そこで、気液2相による電離電子の安定な読み出しを大面積領域にわたり実現することを目指している。電離電子の読み出し方法は大きく2つあり、1つは液体アルゴン中に読み出しストリップ面を設置して荷電粒子が通過した際に生成した電離電子を増幅せずに読み出す方法で、もう1つは電離電子を液体アルゴンから検出器上部にあるガスアルゴン領域に取り出して、ガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す方法(気液2相読み出し)である。気液2相読み出しでは、読み出しエレクトロニクスを検出器上部に設置することで、低温容器運転中でもエレクトロニクスボードの交換作業が可能となる利点もある。
 まずKEKにある小型検出器(30L検出器)を用いた気液2相読み出しの開発を進めている。開発の目的は、信号利得20以上での安定な信号読み出しの実証である。気液2相読み出しでは、液領域からガス領域に電離電子を取り出すための電場(2kV/cm以上が必要)やGEMの電場(30~35kV/cm)などを生成するために、放電しやすいアルゴン中に高電圧をつくる必要がある。そこで、外部から10kV以上の電圧を導入するためのフィードスルーを開発した(図1)。また、液面をGEMから一定の距離で維持するために必要となる液面計やCMOSカメラ(低温環境下で動作)なども取り付けた。これまでに、ガスアルゴンの状態でGEMでの増幅の確認(図2)や、液体アルゴンTPCとしての動作確認を進めている。今後は、30L検出器を用いた宇宙線試験を行い、信号の増幅率の確認などを進めていく。

 

 
測定器開発室(2018年6月)
 測定器開発室SOIピクセル検出器開発グループでは、ILC対応のvertex detectorであるSOFIST(SOi sensor for Fine measurement of Space and Time)検出器の開発を行っている。SOFIST検出器の特徴は、荷電粒子のヒットのあった位置情報と時間を同時に精度良く記録できることにある。図-1に示したピクセル回路でもわかるように、入射した荷電粒子が発生させた電荷をダイオードで検出し増幅した信号を3つ準備されたキャパシタ(メモリ)のどちらかにストアする。同時にヒットを検出する回路があり、電圧ランプでキャパシタを充電している信号をヒット信号で切り離すことで、時間をキャパシタに充電された電圧としてストアすることが可能である。このストア回路は荷電粒子信号・時間信号ともに3つ準備され、連続するビームバンチトレイン内でピクセル当たり3回のイベントを記憶できる。昨年1月にこの検出器を用いてFermilabの120GeV proton beamでの観測を行ったところ、20μm角のピクセルで位置分解能が1.2 μm程度であることを確認した。今年の1月に同じFermilabのproton beam試験で、初めてヒットの時間情報を記憶するタイムスタンプメモリの動作を確認できた。さらにビームラインに2つ配置されたSOFIST検出器からタイムスタンプの時間分解能を算出したところ約2μsと良好な結果が得られた。これによって、SOFIST検出器の基本性能である位置分解能と時間分解能が確認されたことになる。今回の実験で用いたSOFIST検出器はまだ位置計測と時間計測が同一ピクセルではなされていないが、3次元技術を用いて同一ピクセルで位置及び時間計測できるSOFIST ver.4は現在3次元プロセス中であり、今後の評価が期待される。

 
 
測定器開発室(2018年5月)
 測定器開発室では、ILCにむけたピクセル検出器の開発が進んでいる。KEKが推進しているSOI技術を応用したこのチップはSOFISTと呼ばれており、設計開発の中心となっているのは、KEK研究員の小野峻氏と山田美帆氏である。これまで二つのバージョンの開発が終了しており、Ver.1では、そのアナログ信号測定機能とそれによる重心法を用いた位置測定についての性能評価が、2017年米フェルミ研究所のテストビームにおいてなされた。(2017年4月の報告を参照 http://rd.kek.jp/activity.html
  ILCのピクセル検出器では、ビームトレイン内の衝突バンチを識別するための時間測定機能も必要となるが、2017年度に完成したVer.2の試作チップではその機能についての確認がポイントとなっている。2018年の2月昨年同様にフェルミ研究所のテストビームに照射されたSOFIST v2性能評価の速報結果が、3月の物理学会にて発表された。

上のグラフは複数のSOFIST ver2チップからの信号の位置相関について残差分布をとったもので、今回電荷に関するアナログ情報は取られていないため重心法は適用できず、ピクセルのピッチ(25μm)で決まる位置分解能(7.2μm)が期待されるが、現実の測定もそのような結果が得られている。
今回重要な評価となるのはピクセルの時間測定の性能であるが、通過したビーム粒子のタイミングを複数のチップで測定して、その相関をとることでそれが可能となる。
 次ページ上図にはそうした時間相関を、下図に二つのチップの残差分布を示している。ここから評価されるチップ当たりの時間測定の広がり(精度)は4.46μsecと計算された。この精度はいまのところ時間測定を行うramp信号をサンプルする際のノイズによって決まっており、今後の改善が期待される。25μm 角の微細ピクセルの各々がマイクロ秒の精度で全く独立に時間測定を行うことは、これまでほとんど例がなくこれによりSOI技術によるSOFISTチップの潜在能力が改めて示されたといえる。なお今回のチップでは、チップの厚みを75ミューmまで薄くするthinning の工程も施されており、今回の結果はthinning が実用的な技術としてILCのセンサーに適用できることも示せたことになる。今年度評価が行われるver.3ではいよいよアナログ測定と時間測定の両方が同一チップ内で実行されるという最終機能をもつSOFISTチップとなっており、その評価結果に大きな期待が注がれている。

 

 
 
測定器開発室(2018年4月)
 測定器開発室のM i c r o P a t t e r n G a s D e t e c t o r (MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。その開発目標の1つは、放電しても壊れないGEMを開発することである。前回報告したようにセラミックGEMLTCC-GEM)がその有力な候補となっている。これまでに標準的な大きさである10㎝角のGEMを製作して(図1)、測定器開発室で開発した電子回路も含めた検出器システムに組み込んで、理研のRANSという小型パルス中性子源を利用して、ビームテストを行った結果、従来のGEMで得られた結果と同様に、中性子の飛行時間や2次元入射位置を測定可能なことを示すことができた。LTCC-GEMを中性子検出器として使用するのに心配なことが1つあり、それはLTCCの材質内に中性子の吸収断面積の大きいボロンが少量含まれていることである。そこでLTCCの材料だけを検出器の前面に設置して、そこでの吸収量を調査した。その結果、有意な吸収を確認できず、問題ないレベルの含有量であることを確認した。

 さらに、セラミックGEMを3段構成にすることによって、X線を検出器できるガス増幅度を得られようにして、簡易X線発生装置から出る8keVのX線を利用して、吸収画像を取得した。図2に示すようにきれいな画像が得ることができ、X線検出器としてもこれまでのGEMと同様に使用できることが分かった。
 KEK、茨城県と筑波大学と共同で開発を進めているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)施設で2018年2月に開発した中性子検出器を使用することによって、発生して いる中性子のエネルギー分布と空間分布の一部を測定することができ、今後の発展が期待されている。

 2017年12月には、第14回MPGD研究会を盛岡市の岩手大学で行った(図3)。少し遠方であったためか参加者は例年より少し少なめの50名程度であったが、講演数は例年と変わりなく20講演あり、大学の研究者はもちろん、企業からも参加者もあり、活発な議論が行われた。また、初めて液体TPCの講演もあり、その分野との共催も今後の発展として興味深いものであると感じられた。

図1: 製作されたセラミックGEM

図2: セラミックGEMを用いたX線検出器で得られたX線吸収画像

図3: 盛岡市岩手大学が開催された第14回MPGD研究会の集合写真
 
測定器開発室(2018年3月)
 測定器開発室では、高エネルギーX線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)を製作、KEK 放射光科学研究施設 BL-14A において、その特性を評価してきた。シンチレータ製作について、東北大・応用化学の浅井教授グループと共同研究をおこなっており、最近の研究では、酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子(粒径 10 nm 以下)を添加した PLS で進展があった。シンチレータの合成は、テトラヒドロフラン(THF)にポリスチレンを溶解させ、蛍光体としてb-PBD や DPO と POPOP の混合物を 0.5 mol%,および超臨界水熱法により合成した有機修飾 Bi2O3 ナノ粒子を添加しナノ粒子分散液とする方法で行う。ナノ粒子の添加率は、ポリスチレンに対して 5, 10,15, 20 重量(wt)%とした。この溶液を常温で乾燥させることにより厚さ 1.0 mm 前後のナノ粒子含有 PLS を作製した。シンチレータ特性の評価は放射光単色 X 線ビーム(67.4 keV)を重元素添加 PLS に入射して発光させ、光電子増倍管とパルス増幅器を使ってパルス信号に変えて、その波高分布と時間スペクトルを測定することにより行っている。評価用測定系を図1に示す。蛍光体 DPO と POPOP を加えた Bi ナノ粒子添加 PLS の 5wt%の発光量 5800 ph/MeV は,市販の鉛 5 wt%添加 PLS である EJ-256(Eljen 社製)の 5200 ph/MeV を上回った。検出効率は 5 wt%以上で EJ-256 を上回り、ナノ粒子を添加する比率が多くな るほど増加した。表1に、厚さ 1 mm に換算した X 線 67.4 keV に対する検出効率を示す。 酸化ハフニウム(HfO2)ナノ粒子添加 PLS と比例モードで作動するシリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を受光素子とする放射光実験用 X 線検出器を使った結果で は、67.4 keV の X 線に対する時間分解能は b-PBD を蛍光体とする場合で 0.34 ns(FWHM) を得た。蛍光体 DPO と POPOP を使っていると推測される EJ-256 で得られた 0.54 ns(FWHM) より優れた値が得られた。この検出器は放射光核共鳴散乱実験に応用するためのプロトタ イプをかねており、今後、酸化ビスマス(Bi2O3)ナノ粒子を含む PLS を搭載する多チャ ンネルの Si-APD シンチレーション X線検出器を完成させて、イリジウム 193 の放射光核共鳴散乱実験(共鳴エネルギー:73.0 4keV)を実施する予定である。

 
測定器開発室(2018年2月)

2相CO2 冷却システムの開発の進展
高速化・高集積化の進む先端的測定器においては高効率でしかも低物質量な測定器冷却システムが不可欠となる。2相CO2 冷却システムはそのような要件を満たす冷却システムとして、LHC 実験やBelle-II 実験でも採用されるようになってきた。一方、これまでの2相CO2 冷却システムでは、測定器から離れた冷却プラントから測定器の間で冷却温度以下に冷えた液化CO2 を輸送する必要があるため、配管に厳重な断熱加工が必要であった。測定器開発室では常温に近い液化CO2 を測定器の近傍、あるいは内部まで送り、そこで熱交換および減圧を行って必要とする冷却温度を得るという、新しいタイプの2相CO2 冷却システムの開発を行っている。

測定器内部で熱交換および減圧を行うためには、荷電粒子の多重散乱を避けるため、低物質量の熱交換器が必要となる。そのような熱交換器として、2重管による熱交換器が考えられている。内側の細管に常温近くの液化CO2 を流し、その外部に戻りの低温の2相CO2 を流す。細管には減圧の機能も同時に持たせる。そのような2重管式熱交換器の開発の一環として、細管による圧力損失の測定が行われた。長さが40cm で内径が1.0mm と0.5mm の2種類のステンレスチューブに液化CO2 を流量をいろいろ変えて流し、その際の圧力損失を測定した。結果を図1に示す。測定結果(赤丸)は計算で求めた値とほぼ一致しており、実機の設計に際しては計算に頼ることができることが明らかとなった。


測定器開発室(2018年1月)

最近の Silicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器関係のトピックを紹介する。

[ IEDM招待講演 ]
2017年12月2-6日にサンフランシスコで開催された、半導体デバイスの国際会議で最も権威があると言われる International Electron Devices Meeting (IEDM)において招待講演を行った。”SOI Monolithic Pixel Technologyfor Radiation Image Sensor”と題して発表を行い、特に新しく考案したPinned Depleted Diode(PDD) 構造に注目された。

[HSTD11 & SOIPIX2017 国際会議@沖縄]
2017年12月10-15日の間、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、第11回 “Hiroshima”Symposium on the Development and Application of Semiconductor Tracking detectors (HSTD11)と第2回Workshop on SOI Pixel Detector (SOIPIX2017)  の合同国際会議を開催した。海外からの参加者約120名を含め、例年の倍近い約190名の参加者があり、素晴らしい環境のもと、最新の成果発表と活発な議論が行われた。


図2 . OIST での HSTD11 & SOIPIX2017 会議の様子


図 1. (上)PDD構造、(下)テールの無い鋭いX線エネルギーピークが得られた。


測定器開発室(2017年12月)
 液体アルゴン中を荷電粒子が通過した際に生じる電離電子を電場により読み出し面まで移動させて、その2 次元射影位置と時間情報から粒子飛跡を3 次元のイメージとしてリアルタイム にイベント時刻とともに読み出す液体アルゴンタイムプロジェクションチェンバー(LArTPC) の大型化にむけた開発研究を進めている。10kton 以上の大きさを実現して、将来の加速器ニュ ートリノ振動実験や核子崩壊探索実験、超新星爆発ニュートリノ観測実験の検出器として応用 することを目指している。

 測定器開発室LTPC グループでは、大型化に必要な要素技術の開発研究を進めている。大型 化にむけて、液体アルゴンの純化、TPC 内部電場形成のための高電圧生成、高い信号-雑音比 で電荷信号を読み出すためのエレクトロニクスなど、新しいデバイスやシステムを開発するた めに内容量30L の小型液体アルゴンTPC 検出器を作成し、まずこの検出器を用いたTPC 内部 電場の理解を進めた。宇宙線トラックからの信号データと有限要素法を用いた電場シミュレー ションの結果を比較して、電場の歪みによる信号量の位置依存性や電場歪みの要因を理解する ことができた。

 10kton 以上の大型化のために電離電子のドリフト距離を10m 以上にしたいが、ドリフト中 に電離電子が水や酸素などの不純物に吸収されて信号量が減衰することが問題となる。液体アルゴンの純度向上と同時に、信号を増幅することができる気液2相読み出しによって、この問 題の改善ができる。そこで、次のステップとして、気液2 相による電離電子の安定な読み出し を大面積領域にわたり実現することを目指している。電離電子の読み出し方法は大きく2 つ あり、1 つは液体アルゴン中に読み出しストリップ面を設置して荷電粒子が通過した際に生 成した電離電子を増幅せずに読み出す方法で、もう1つは電離電子を液面の外に取り出して ガスアルゴン中でガス電子増幅器(GEM)を用いて増幅させてから読み出す方法(気液2 相読 み出し)である。まず30L 検出器を用いた小型TPC での気液2 相読み出しの安定性の実証を 行なっている。現在、10cm x 10cm のGEM 基板(1mm 厚。図1)を取り付けて、気液2 相読み 出しによる宇宙線データ取得にむけた準備を進めている(図2)。2 相読み出しを行うには、 液体アルゴンの液面をGEMから一定の距離を開けて維持する必要があり、そのための液面計 校正や液面の確認のために低温環境下でも動作するCMOS カメラの準備も進めている。今 後は、小型検出器での気液2 相読み出しの安定動作を実現し、その後大面積領域での安定動作の 確立にむけた開発研究を進めていく。

図1: 小型検出器に取り付けた1mm厚GEM

図2: 30L 小型検出器の全体写真。

測定器開発室(2017年11月)
SCDグループ(筑波大 武内、岡山大 石野)
[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けた Nb/Al-STJ +超低温増幅読出し,及びハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子(Hf-STJ) を究極のエネルギー分解能を実現するマイクロカロリメータ検出器として開発を行っている。STJ 光応答信号の SOI 極低温増幅読出しの実証テストについては,前回(2017 年 3 月)に報告した.今回はより実用的な回路として,差動増幅の負帰還回路による低入力インピーダンスの電荷積分型増幅回路の極低温動作を検証した(図1).Hf—STJ に関しては,表面粗さ RMS が 2.5nm と比較的なめらかなハフニウム成膜による 200µm 角 Hf-STJ が,リーク電流 7µA(T=140mK)を達成した(図 2).これは,我々のグループでこれまで実現していた Hf-STJ リーク電流密度の約 1/16 にあたる.
図 1 . SOI O pAmpによる電荷積分増幅の3ケルビンでの動作.入力電荷 100fC に対し23mVの出力を得た. 図 2. ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子の電流電圧特性.表面粗さの小さい条件(RMS=2.5nm)を用いた Hf-STJを作製.リーク電流 7µA (200µm 角,T=140mK) を達成


[液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索用超伝導検出器の開発]
反跳液体ヘリウムによって生じるシンチレーション光を、液体ヘリウム内で作動する超伝導検出器 KID (Kinetic Inductance Detector)で検出し、軽い暗黒物質の探索を行うことを目的とする。エネルギー付与に対する KID の感度を 2 つの方法から評価している。一つ目は、共振周波数の温度依存性を測定することにより、KID の全インダクタンスに対する力学的インダクタンスの比αを求める方法である。図 3 に典型的な共振数波数の温度依存性を示す。このデータを、Matis-Bardeen の理論式でフィット(赤線)することにより、αの値を決定することができる。
求まったαの値は 0.03 程度であり、これは電磁シミュレーション(SONNET)で評価した値と一致した。この値から、1 つの準粒子ができた時の検出器の位相変化が、dθ/dNqp=1.3x10-10 と求まった。もう一つの方法は、可視光レーザーパルスを検出器に直接照射し、そのリニアリティ応答から求める。赤(660nm)と青(405nm)の 2 色の幅 10nsec のレーザーパルスを液体ヘリウム内の KID に直接照射し、その応答を付与エネルギーの関数としてフィットした。それぞれのパルスレーザー光の光子数は、光電子増倍管を用いて較正し、KID アレイを用いて評価したビームの広がりから、1 素子あたりに付与されるエネルギーを見積もる。図4に、2 色のリニアリティの測定結果を示す。両方とも同じ感度を示すことを確認した。二つの方法の無矛盾性を検証するには、KID を読み出す室温増幅器の利得やマイクロ波部品での損失を考慮する必要があり、今後の課題である.

図3:KID の共振周波数の温度依存性。黒い十字点はデータ、赤線は理論式によるフィット結果。α=0.03 が得られた。 図4: 2 種類の波長のパルス光に対する KID のエネルギー付与に対するリニアリティ応答。

測定器開発室(2017年10月)
 測定器開発室のMicro Pattern Gas Detector(MPGD)グループでは、ガス電子増幅器(GEM)の開発を中心に行ってきた。GEMは、2 次元画像を取得できる放射線検出器として有効なものであるが、50μm 厚という薄い絶縁材の両面間に高電圧を印加する必要があることから、放電により絶縁不良が起こり、使えなくなるという問題があった。これは、あまり取り扱い慣れていない他の分野への普及ということを考慮すると大きな障害であった。そこで、放電しても壊れないGEMを開発することをMPGD グループの開発目標の1 つとしてきた。
 高抵抗素材を利用して、放電を局在化することによって、壊れないGEM を開発することを長年にわたり行ってきた。適切な抵抗値をもった材料を安定して製作することがなかなかできずに苦戦してきたが、最近、導電性高分子コーティング剤を塗膜したGEM で信号がきれいに見えるようになってきた。
 また、耐アーク放電性のよい絶縁材料としてテフロンGEM の開発も行ってきた。最近製作した50μm 厚のテフロンGEM では、何回放電させても絶縁不良が起きないことを確認すると同時に、これまでのGEM と置き換えて中性子検出器として動作することを確認した。残念ながら、GEM の孔加工が難しく、安定して、安価に製作する見通しが立たないという問題が残っている。
 そこで、最近、セラミックを用いたGEMの試験を東京都立産業技術研究センターと共同で行った。セラミックGEMは、グリーンシート呼ばれる材料の両面に導電性ペーストをスクリーン印刷で電極として塗布して、ポンチ加工でGEM孔をあけた後、焼結することによって、仕上げるものである。これは、セラミックであることから耐アーク放電性に優れているので、放電による炭化が起こらないために絶縁不良にならない。また、材料内に中性子散乱の断面積が大きい水素がないことからも中性子検出器に適しているといえる。さらに、焼結後は、固く、張力なしでもたわみが発生しないので、平面性を出すのにも都合がよいものとなっている。最近、これまで使用してきたGEM と同じ10 ㎝角の大きさのセラミッ クGEMを製作することができた(図1)。これをこれまで開発してきた検出器内にセットすることによって、中性子検出器として動作することを理化学研究所にあるRANS と呼ばれるパルス中性子源を利用して、確認した。図2 に得られた中性子の飛行時間分布、図3に2 次元画像を示す。これらの結果からセラミックGEMは、これまでのGEMと同様に使用することが可能であり、壊れないGEM として有望であることが確かめられ、今後の展開が大いに期待されるところである。
図2 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた飛行時間分布 図3 セラミックGEMを用いた中性子検出器を使って理研RANSで得られた2次元画像

図1 製作されたセラミックGEM


測定器開発室(2017年8-9月)
 測定器開発室では、高エネルギーX 線領域の光子に対して高い検出効率を有しナノ秒発光する高 速シンチレータ開発プロジェクト(FSCI)を進めている。ハフニウムやビスマスなどの重元素酸化物ナノ粒子を分散させたプラスチック・シンチレータ(PLS)を製作して、その特性を評価している。実験はKEK 放射光実験施設BL-14A で行った。5 テスラの超伝導電磁石によって曲げられた電子からは通常の偏向電磁石と比べて30keV を超える高エネルギー領域でより強いX 線が放射される。放射光実験用X 線検出器としての高速シンチレータの実用性を評価するため、シリコン・アバランシェフォトダイオード(Si-APD)を受光素子とする検出器を使った。200 倍程度まで電荷増幅が可能でナノ秒幅の高速パルス出力が得られるものを開発してきた。この検出器は放射光核共鳴散乱実験に応用するためのプロトタイプをかねており、市販の鉛5wt%添加PLS(EJ-256)を使った場合、良好な低ノイズ性能と67.4keV のX 線に対し時間分解能0.5ns(FWHM) が得られた(Nucl.Instr.andMeth.A806(2016)420) 。実際にSPring-8 ビームライン BL09XUでのニッケル61 核共鳴前方散乱測定にも成功した。最近、73.0keVの光子に対して検出効率16%以上(通常使われる検出器の倍程度)を有する、より実用的な検出器を製作した。図1はその外観、図2は内部の様子を示す。入射する光子ビーム方向に大きさ3×3×3mm3 のEJ-256 を4 個並べ各APD素子と~60dB の大ゲイン高速アンプにより出力パルスを得るものである。現在、イリジウム193含有試料を使った核共鳴散乱実験で使用できるように調整を進めている。ビスマス酸化物ナノ粒子を含む高速PLS を取り付けて、より高い時間分解能かつ高い検出効率で測定することを目標としている。
図 1 検出器システムの外観


図 2 システムの内部

測定器開発室(2017年7月)

最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[プレスリリース:世界最高精度の放射線測定センサーを開発]
6月23日にKEKと筑波大から下図のようなプレスリリースを行なった。これは、5月に北京で開催されたTechnology and Instrumentation in Particle Physics (TIPP2017)会議で発表した内容で、SOI検出器により高エネルギー陽子ビームの位置分解能0.7 mmを達成したというものである。

 


図1。筑波大学のお知らせWebページ (http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201706231400.html).
[第8回SOIPIX研究会]
第8回目の新学術領域研究会が6月29−30日の2日間に渡り宮崎大学で開催された (http://soipix.jp/226.html)。領域研究のメンバーの一人であり、技術者のノーベル賞とも言われる「エリザベス女王工学賞」を今年受賞した寺西信一氏の受賞講演の他、5件の招待講演、19件の研究発表、12件のポスター発表があり、活発な議論が行われた。

図2。第8回目の新学術領域研究会@宮崎大学集合写真。

測定器開発室(2017年6月)
 5 月21−26日中国北京のオリンピック会場跡地にあるBeijing International Business Center において、第4 回のTechnology and Instrumentation in Particle Physics(TIPP2017)が開催された。これは2009年KEK の主催にてつくば市でその第一回が始まった、我々には因縁浅からぬ国際会議である。今回も測定器開発室関係の研究から7件の講演が採択され、成果発表を行なった。
 中でも注目を集めたのは、SOI ピクセルセンサーについての最近の進展で、Double SOI を使ったセンサーの高い放射線耐性の実現、高エネルギービームを用いた試験によるサブミクロン一精度の位置分解能の実証(機構会議報告、本年4月を参照)、同じくアナログメモリーを使ったILC向け新型計数型ピクセルチップによる2ミクロンを切る位置精度の実証など枚挙にいとまがない。図1に示すのは、SOI コラボレーションの筑波大・原准教授によって示された放射線耐性に関するスライドで、100kGy 相当の放射線の照射後も正常な空乏層形成が行われ、minimum ionizing particle (MIP)の信号を高いS/N 比で検出できることが示されている。最近の試験では、さらに照射量を10倍まで高めたとのことで、電子陽電子衝突実験のみならず、ハドロンコライダーのトラッカーとしての応用可能性も見えてきて、SOI ピクセル技術に対する期待がますます高まった会議と言える。
図1

測定器開発室(2017年5月)
 2017 年4 月22 日(土)の午後、KEK にてアクティブ媒質TPC 座談会が行われた。アク ティブ媒質TPC とは、標的、ソース、コンバージョン機能を果たすアクティブな媒質を用いたTPC(Time Projection Chamber)のことで、近年では暗黒物質探索、ニュートリノ物理研究、医療用PET や宇宙観測などを目的とした研究において、その開発研究が盛り上がっている。国内でも、陰イオンガス、高圧ガス、液体(Xe,He,Ar)と多様な研究が行われており、これらの開発研究については要素技術で共通な部分も多い。そこで、開発の現状や失敗談などについてざっくばらんな話しや情報交換をする機会として、この座談会が開催された。2015 年8 月にも液体TPC について同様な座談会が開催され活発な議論があった。一方でそこでの反省点として、必要とする検出器技術は他のアクティブ媒質TPC にも共通することから、今回はアクティブ媒質TPC を用いた実験プロジェクトを立ち上げている国内の大学メンバーとも相談して、本座談会を企画した。土曜日の開催にも関わらず、国内各大学及びKEK から25 名の参加があり、実際に現場で開発を行っている大学院生の参加も多く、活発な議論が展開された。
 プログラムは[1]に公開されている。国内の各実験プロジェクトから、プロジェクトの特徴と技術開発(開発した部分、苦労している点、今後の開発にむけて聞きたいところ)についてトークがあった。開発要素として、高電圧生成装置、TPC 内部の電場理解、シンチレーション光検出、電離電子の増幅や読み出しエレクトロニクスなど多くの共通部分があり、それぞれの開発ついて議論が盛り上がった。特にTPC フィールドシェーバーに高圧印加した際の放電については多くの実験プロジェクトで問題となっており、解決にむけて様々な情報交換が参加者の間で行われた。また、アクティブ媒質TPC を用いた今後の実験計画についても発表があり、検出器開発にむけた情報交換ができたと考えられる。
 会の最後には、今後の座談会のありかた等についても議論を行なわれた。今回のような座談会が有用であるという意見が多く、今後も同様な機会を年1 回のペースで開催する予定である。
[1] https://conference-indico.kek.jp/indico/event/20/overview

測定器開発室(2017年4月)
SOI ピクセルセンサー、FNAL ビームテストで世界最高のトラッキング精度を実証

 測定器開発室では、SOIピクセルを使った荷電粒子の高精度飛跡検出器(トラッキング)も、最重要な課題として取り組んでいる。こうした応用では、SOIの以下のような特長を活かしてこれまでにない高精度(高位置分解能)の測定ができると期待されてきた。
1. モノリシック構造がもたらす、ボンディング技術に制限されない超微細なピクセル
2. 高抵抗シリコンによる独立したセンサー層に形成される十分な厚みの空乏層による大きな信号電荷とその適度な広がり
3. フロントエンドエレクトロニクスが直結されることによる低ノイズと高機能

 隣り合うピクセルでの電荷の分割比を使うことで、荷電粒子入射位置の測定精度は、ピクセルピッチに対して格段に良くなることはよく知られているが、その到達精度はセンサーのS/Nにより決まってくる。したがって、上記に列記した特長は高精度トラッキングの測定器として、SOIピクセルがうってつけのデバイスであることを示している。
SOIプロジェクトではその特性の実証用として、二つのシリーズのチップを開発している。一つは究極の微細ピクセルを目指して8μmのピッチサイズのピクセルアレイを実現したFPIX(左図), もう一つは将来のILC実験などでの崩壊点検出器での実用を視野に入れて、要求される機能性を盛り込んだ大きめのピクセルサイズ(20μm)を持つSOFISTである。

 この2種類のチップが、昨年末からFNALのテストビームエリアに持ち込まれ、トラッキング試験が行われた。使用されたビームは多重散乱を最小限とするため、120GeV/cの高運動量proton beamである。残念なことであるが、こうした試験をできる設備は日本国内には存在しない。 テストでは右図のように4枚のFPIXと2枚のSOFISTが並べられ、通過した粒子のトラッキングを行い、その測定能力の評価を行った。 次ページに示したのは、2層目以外のFPIXを使ってトラッキングされた粒子の2層目での通過予想位置と実際の2層目での測定位置の残差分布である。これは2層目FPIXの測定精度とその他のFPIXによるトラッキングの誤差を足し合わせたものとなるわけであるが、1μmを確実に下回ることがみてとれる。すなわちFPIX単体の測定精度はサブミクロンのオーダーであることを確実に示していることとなる。 これまでの世界最高のトラッキング性能はMPIで開発されたDEPFET検出器の1μmであるといわれており、今回試作されたSOIピクセルセンサーはこれを確実に凌駕して、世界で初めてサブミクロンの計測精度を達成したといえる。
 同様の解析が、SOFISTチップにについてもなされ、20ミクロンピッチのピクセルながら、σ=1.7μmという結果を得ている。こうした結果はいずれも、preliminaryな解析による速報値であり、今後の詳細な解析によりさらに改善されていくものと思われる。いずれにせよ、今回のビームテストによって、SOIピクセルセンサーが粒子検出器史上初めてμmの精度を超えて、新しいトラッキングの世界へ導いてくれることがしめされた。
 この偉業を達成したSOIピクセルプロジェクトのグループに、改めて大きな賛辞をおくりたい。

図1

図2

図3


測定器開発室(2017年3月)
 最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[ニュートリノ崩壊の観測を目指した超伝導接合素子(STJ)遠赤外光検出器の開発]
 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索(COBAND)実験に向けたNb/Al-STJ の超低ノイズ読出しを実現する極低温SOI(Silicon-on-Insulator)アンプの開発を行っている。SOI 増幅回路の極低温動作の実証テストのため,産総研CRAVITY 製20μm 角Nb/Al-STJ と共にSOI 増幅回路を冷凍機内に設置し300mK 程度まで冷却後、STJ に可視光(465nm)レーザーパルスを照射し、STJ からのパルス応答信号が極低温環境下のSOI 回路によって増幅されたことが確認された(図1)。また,ハフニウムを用いた超伝導トンネル接合素子も遠赤外光検出器の候補として開発を続けている.最近では、ハフニウム酸化層の上に薄いアルミニウム層を用い、従来のHf-STJよりリーク電流密度を約1/16 に低減に成功した。このサンプルで可視光パルス(465nm)応答を確認している。

[液体ヘリウム紫外線シンチレーション光検出を目指す超伝導光検出器]
 液体ヘリウムを標的とした軽い暗黒物質の探索実験のために、反跳ヘリウムによって生成されるシンチレーション紫外線光子(16 eV)を、液体ヘリウム中で直接検出する超伝導検出器の開発を行っている。超伝導検出器として、力学的インダクタンス検出器(KID, Kinetic Inductance Detector)を利用する。今年度は、KID の検出器素子アレイを周波数領域で多重にパルス信号を読み出す、FPGA を用いた読み出し装置の開発を行った。周波数領域を時間領域に変換し、セルフトリガー機能を実装することにより、一本の配線で20 素子のパルス信号(時定数~1μ秒)を同時に読み出すことに成功した。 図2 は、0.3K に冷却したシリコン基板にAm-241 からのα線(5.5 MeV)を照射した際に生じるフォノン信号を、Al で形成されたKID で、15 チャンネル同時に計測した様子である。この読み出し回路の開発により、外部から液体ヘリウムへの読み出し配線による熱流入を格段に減らすことが可能になった。また、KID の素子間のクロストークの理解も進んだ。素子の形状を形成する際のエッチングによる効果と、素子間のキャパシ ティブ・インダクティブな結合が主な原因であることをつきとめた。前者は、数nm のAlN 膜をシリコン基板表面に覆い、後者は、素子の間にグラウンドを配置することにより、クロストークを抑制することに成功した。一方、このような構造は、光子の検出効率を悪くする可能性がある。現在、改良した素子の光への感度を測定を行っている。


図1 Nb/Al-STJの光パルスに対する応答信号を同じく冷凍機内に設置 したSOI回路によって信号が増幅されている


図2 FPGAで開発した専用の読み出し装置で、15の検出器素子を一本の配線で周波数領域において検出したフォノンパルス信号


測定器開発室(2017年2月)
最近のSilicon-On-Insulator(SOI)ピクセル検出器周りのトピックを紹介する。

[Fermilabでのビーム実験]
SOI検出器は厚い空乏層を実現できることからまずX線応用が広がったが、当初からの目的である素粒子実験の崩壊点検出器としても低物質量・高位置分解能・高機能検出器として優れた特徴を持つ。これらの特徴を実証するためフェルミ国立研究所の高エネルギー陽子ビームを使った実験を現在行っている。昨年12月に筑波大グループと共に実験に臨んだ際は残念ながら加速器の故障で実験を行なえなかったが、1月半ばからの再チャレンジでは大量のデータを取ることができている。データ解析はこれからだが、世界初の1ミクロンを切る分解能を目指している。

[温度制御付きセミオート・プローバ]
半導体の各種特性を理解するためには、温度を変化させながら、大量のデータを集め解析することが重要だが、これまではKEKにそのような装置がなかった。今回、-65℃から200℃まで温度変えることの出来るセミオート・プローバを先端計測実験棟のクリーンルーム内に導入することとなった。2月中には周辺工事も終わり、3月からは温度を変えながらウエハー内の多数の素子特性を自動的に測定できるようになる予定である。

図 1. Fermilabのビームラインで実験準備をしている様子。

図 2. 温度制御付きセミオート・プローバ。

測定器開発室(2017年1月)
  測定器開発室では、サブナノ~ナノ秒の発光寿命で30keV以上の高エネルギーX線領域の光子に対しても高い検出効率を有する高速シンチレータの開発を行っている。シンチレータは放射線検出媒体として形状・大きさが比較的自由であり、検出効率や立体角を確保しやすい特徴がある。重元素を含むシンチレータであればMeV領域のガンマ線光子の検出だけでなく、高エネルギーX線領域の光子検出にとっても1mm以下の薄いシンチレータで大きな検出効率が期待され、多チャンネルでも小型化できるなど検出器の高機能化につながる。さらに発光寿命がナノ秒以下の高速シンチレータであれば、ナノ秒幅パルス出力によって毎秒107を超えるような高計数率測定も可能となる。
  最近の成果として、重元素のハフニウム酸化物ナノ粒子を多く含むプラスチックシンチレータ(PLS)の製作について報告する。2ナノ秒程度の減衰時間で高速発光するPLS中に重元素酸化物をナノ粒子のまま分散させることによって、シンチレーション光がシンチレータ内部で透過しやすいまま重元素の重量比を上げることを狙うものである。分散しやすいように有機分子で表面修飾した状態で重元素酸化物ナノ粒子(径~5ナノメートル)を製作することが重要である。そのため超臨界水熱合成法を使った。超臨界水は臨界点374℃、22.1 MPaを超えた状態の水で無極性になっており、無極性な有機溶媒と混ざりやすく反応性も高い。この性質を利用して粒子の合成と同時に有機修飾する。図1のような方法で有機表面修飾されたHfO2ナノ粒子を製作した。:1)Hf(OH)4を水に加え、有機修飾剤としてフェニルプロピオン酸(PPA)を加える。2)水の亜臨界条件(30 MPa, 反応温度: 300℃)で10分間反応させる。3)合成後、トルエンを用いて回収、乾燥させて有機層中のナノ粒子を得る。
  実際に製作されたシンチレータの写真を図2に示す。直径3mm、厚さ約1mm、ハフニウム10重量%を含有する。溶媒はポリスチレン、蛍光体はb-PBDを使った。このシンチレータの側面より放射光X線ビーム(エネルギー:60.0keV)を入射してSi-APDを受光素子とする高速検出器で特性を評価したところ、市販の鉛5重量%添加PLSと比較して検出効率は同程度であったが、時間分解能は市販PLSを上回る0.33ナノ秒(半値幅)を得た。ナノ粒子による効果が寄与したと考えている。今後、合成法の改良、他の重元素添加などの研究を行う。なお、本研究は東北大学・工・応用化学・浅井研究室との共同研究として進めている。

 


図1


図2

 
このページは測定器開発室で更新作業をしております。