環境耐性の評価 -放射線耐性、温度特性、長期安定性-
MPPC はその優れた特長から、素粒子原子核実験、宇宙線実験での幅広い利用が見込まれているが、今後、使用環境に合わせて、その動作を検証していく必要がある。特に、放射線に曝される環境での使用が数多く検討されており、耐放射線に関する情報およびその特性改善が非常に重要となっている。測定器開発室では、平成18年度から、様々なビーム(ガンマ線、陽子線、中性子線、重イオンビーム)をあてて、MPPCの特性変化を調べてきた。その結果、放射線照射による特性変化には、ガンマ線、電子線放射によって引き起こされる電離過程による電荷捕獲による電気的性質の変化と、陽子線、中性子線、その他重粒子先放射による格子欠陥が引き起こす(バルク損傷)との2種類があることがわかってきた。
平成20年度は電離過程による損傷に有効な対策が施されたサンプルがメーカーから供給されたので、そのテストを行った。また、中性子照射に対しては、さらに照射サンプルの性能評価、解析を進めた。
ガンマ線照射
メーカーから供給された2種類のサンプル(図5 A, C)を従来サンプル(図5 B)とともに60CO 線源(10TBq)を用いて約60 Gy/h の強度で照射した。照射中、センサに電圧をかけて、漏れ電流をモニタした。図6 に示すように積分線量200 Gy あたりでサンプルB の漏れ電流が急激に増加し、200 Gy でサンプルB の漏れ電流が増加した。サンプルC は同様の変化が90 Gy あたりでおこり、サンプルA は600 Gy を照射しても、変化は見られなかった。照射後、漏れ電流が増加したサンプルB の赤外線写真をとったところ、左右端に放電が認められた。サンプルA に関しては従来構造よりも放射線耐性が強く、サンプルC については放射線耐性が弱くなっていることを確認できた。
図5 新しい試験サンプル拡大写真:見た目の構造はほぼ同じに見えるが、色の見え方が異なっているなっている。
図6 照射中の漏れ電流および温度変化(左)、赤外線写真(右):サンプルB の漏れ電流 が急激に増加し、照射をやめると徐々に落ちているのがわかる。サンプルA は照射をやめ るとほぼ0になる。
中性子照射
H19 年度に照射したサンプルに対して、基礎特性の測定を引き続き行った。図7 に示すように中性子の照射が増えるとノイズが増加し始めて1010 n/cm2を越えたあたりから、光電子ピークが見られなくなっている。ノイズの状況は1年後でも変化が見られなかった。同じサンプルを-10℃まで冷却したところ、ノイズレートが減り光電子のピークがはっきりと見られるようになり、一定の改善が認められた(図8).ガンマ線の放射線耐性を向上させた試験サンプルに中性子を照射したところ、従来のサンプルとの間に変化は見られなかった。新しいサンプルはバルク損傷に対しては効果がないことが分かった。
図9 中性子照射量による漏れ電流の変化: 照射前、1010 、 1011 中性子を照射したときの、
各サンプルの漏れ電流をΔV に対してプロットしたもの。異なる種類のサンプル間に違いは認められなかった。